古代ギリシアの哲学者たちは「存在の根源」について深く考察してきました。 しかし感覚に頼った彼らの考えは、人によって異なる結論を導き出してきました。 そうした中で、パルメニデスは独自の哲学を主張します。 「感覚」ではなく「理性」を使って、存在の問題に取り組むべきだと主張しました。 彼は存在の不変性を訴え「 “有”は決して“無”にはならない」と説きました。 パルメニデスの存在論は“自明の理”から出発し、普遍的な真理を求めるものでした。 今回の記事では、パルメニデスの哲学的思考の特徴、さらにリンゴやメロンなど身近なものを示しながら、存在の不変性について分かりやすく解説します。

ヘラクレイトスは、万物は常に変化しており、その変化は一定の法則(ロゴス)に支配されていると考えました。一方のパルメニデスは、存在は決して変化せず、変化しない「何か」であると主張しました。
パルメニデスがこのような結論に至ったのは、今までの哲学者たちが存在について感覚的に考えていたからです。
たとえばタレスは「万物の根源は水」、アナクシメネスは「空気(気息)」と述べましたが、これらの主張は「きっと、こうじゃないの?」という感覚的な考えに基づいています。しかし感覚は人によって異なるため、感覚を根拠にすると哲学者によって異なる結論が出てしまいます。
そこでパルメニデスは、感覚ではなく理性を使って、誰もが同じ結論に至る論理的な方法で存在の問題に取り組むべきだと考えます。パルメニデスは、存在の真理を見つけるために感覚に頼るのではなく、理性に基づいて考えることで、哲学者たちが一致した答えを見つけられると考えたのです。
このようにパルメニデスは、存在についての普遍的な真理を求めて、理性を重視する哲学の方向性を示したのでした。
パルメニデスは、「存在するものは存在し、存在しないものは存在しない」という一見当たり前すぎる発言をしたと伝えられています。当時の人々は彼の哲学を笑ったそうですが、その逆説として誰もが認める“自明の理”であると言えます。
このような“自明の理”を積み重ねることが、パルメニデスは大事だと考えていました。存在についての議論を進めるには、誰もが当たり前だと思えることから始めるべきだと主張したのです。
さらにパルメニデスは「存在しているものが、存在しなくなることはない」と主張しました。言い換えれば「存在しているもの」は、決して「存在しないもの」に変化することはないということです。
パルメニデスの考え方を理解するために、リンゴを例に考えてみましょう。リンゴを小さく切り刻んでいくと、やがて非常に小さな断片になります。感覚的には、リンゴが消えてなくなったように見えるかもしれません。
しかし理性で考えれば、リンゴは消えたわけではなく、ただ小さな断片になっただけだと分かります。リンゴを構成する物質は、形を変えても決して消滅することはないのです。
このリンゴの例えから、パルメニデスが主張する「存在の不変性」を理解することができます。存在するものはたとえ形を変えても「決して存在しないものには変化しない」というのが、パルメニデスの考えなのです。
パルメニデスは「有」は決して「無」にはならないとも表現しました。「有」とは「存在しているもの」を、「無」とは「存在していないもの」を意味します。
パルメニデスの考えでは「存在は常に変わらないもの」であり、存在から非存在へ、あるいはその逆へと変化することはないのです。この主張は存在の不変性を示す、パルメニデスの中心的な考え方と言えるでしょう。
パルメニデスの存在論は、自明の理から出発し、存在の不変性を主張するものでした。彼の考え方は、存在についての哲学的議論に新たな視点をもたらしたと言えるでしょう。
パルメニデスは、理性を使って導き出された結論は、感覚に基づく主張よりも信頼できると考えました。理性によって得られた結論は、個人差のない普遍的なものであり、万人が納得できる共通の理解を提供します。
その一方である感覚は、人によって異なります。感覚に頼った主張は個人的な印象に過ぎず、普遍的な真理とは言えません。
したがってパルメニデスは、存在の問題を探求する際には、感覚ではなく理性を用いるべきだと主張しました。理性に基づく思考は、人類に共通の確かな知識をもたらすと考えられたのです。
パルメニデスの言う「存在の不変性」を、別の例えで説明してみましょう。目の前にあるリンゴが、突然メロンに変わることは絶対にありえません。リンゴはあくまでもリンゴであり、それ自体の性質を保ち続けるのです。
それと同様に存在を構成しているものも、その本質を失うことはないと考えるのが妥当です。たとえ時間が経過しても、存在そのものは消えたり、別のものに変化したりすることはありません。リンゴがメロンにならないのと同じ理屈だと言えます。
このようにパルメニデスは、存在の不変性という考えを、日常的な例を用いて説明し、その理解を深めようとしたのです。
パルメニデスの存在論は、感覚に頼ることの限界を指摘し、理性に基づく思考の重要性を説いています。「存在の不変性」を主張し「有」は決して「無」にはならないと論じました。
リンゴを小さく切り刻んでも、リンゴはただ小さくなるだけで、消えてなくなることはありません。同様に、存在を構成するものは、形を変えても本質を失うことはないのです。
パルメニデスは“自明の理”を積み重ねることで、普遍的な真理に到達しようとしました。
彼の哲学は、現代に通じる示唆を与えてくれます。現代社会を生きるにあたって、感覚や感情に惑わされることなく、理性を用いて物事の本質を見極めることがとても大切だからです。
パルメニデスの存在論は、現代の私たちに、重要な問いを投げかけているのかもしれません。
山川偉也(2023)『パルメニデス − 錯乱の女神の頭上を越えて』講談社
- 著者
- 山川 偉也
- 出版日
『パルメニデス 錯乱の女神の頭上を越えて』は、古代ギリシャの哲学者パルメニデスの思想に新たな光を当てる意欲作です。
「あるはある あらぬはあらぬ」という一節で知られるパルメニデスの詩的断片は、後世に様々な解釈を生みました。しかし著者によると、従来の解釈は全て誤っていると断言しています。
本書では、テクストを丁寧に読み直し「あるもの」をめぐる論証を「帰謬論法」として捉え直すことで、パルメニデス哲学の核心に迫ります。最新の考古学的発見も踏まえつつ、政治家でもあった哲学者の全体像を描き出します。
古代哲学の深みに引き込まれながら、著者の独創的な思考の展開を追体験できるでしょう。哲学史上最大の難問に挑む知的冒険は、驚くべき結末へと導かれます。
本書は、パルメニデスの思想を根本から理解し直すための必読書です。西洋哲学の源泉に立ち返り、存在をめぐる根源的な問いを再考したい方にはオススメの一冊と言えます。
ドミニク・フォルシェー(2011)『西洋哲学史 − パルメニデスからレヴィナスまで』(川口茂雄、長谷川琢哉訳)白水社
- 著者
- ["ドミニク フォルシェー", "川口 茂雄", "長谷川 琢哉"]
- 出版日
『西洋哲学史 ─ パルメニデスからレヴィナスまで』は、フランスの哲学者ドミニク・フォルシェーによる、2500年にわたる西洋哲学の壮大な物語です。
著者は本書を通じて、哲学とは本質的なるものについての言説であり、樹木のように成長し、枝分かれし、開花するものだと捉えています。そして、膨大な哲学的諸作品の核をなす根本精神を紹介することを目的としています。
存在と思考(理性)の同一性を述べたパルメニデスを哲学の始まりとし、主要な哲学者たちの思想を年代順に解説していきます。ソクラテス、プラトン、アリストテレスといった古代ギリシャの巨人たちから、デカルト、カント、ヘーゲル、ニーチェなどの近代の重鎮まで、各時代を代表する哲学者の核心的な思想が、簡潔かつ明快に説明されます。
20世紀の終わりには、「未来倫理」を展開するハンス・ヨナス、また「他者の哲学」で知られるエマニュエル・レヴィナスが登場します。科学やテクノロジーの目覚ましい進展によって、人間の存在や本性に変更がもたらされるかもしれない21世紀の哲学へ予感を感じさせる締めくくりとなっています。
西洋哲学の全体像を鳥瞰したい人におすすめの一冊です。哲学の歴史を貫く根本精神を理解することで、現代の諸問題を考える上での確かな視座が得られるでしょう。
各哲学者の思想の核心を的確に捉えた著者の解説は、哲学をこれから学ぼうとする人にも分かりやすく、哲学の面白さと奥深さを伝えてくれるはずです。
千葉 雅也 , 納富 信留 , 山内 志朗 伊藤 博明 , 斎藤 哲也(2024)『哲学史入門Ⅰ − 古代ギリシアからルネサンスまで』NHK出版
- 著者
- ["千葉 雅也", "納富 信留", "山内 志朗", "伊藤 博明", "斎藤 哲也"]
- 出版日
日本を代表する哲学者たちが結集し、西洋哲学史の壮大なパノラマを描き出す全3巻シリーズの第1巻です。近代以降の哲学を理解する上で必須の基礎知識となる、古代ギリシアからルネサンスまでの哲学の歩みを丁寧に解説しています。
哲学という営みがどのように誕生し、時代を超えて受け継がれていったのかを、主要な哲学者の思想を通して明らかにしていきます。ソクラテス、プラトン、アリストテレスといった古代ギリシャの巨人たちから、アウグスティヌス、トマス・アクィナスなどのキリスト教思想家、ルネサンス期の哲学者たちまで、各時代を代表する哲学者の思想の核心に迫ります。
本書は単なる知識の羅列ではなく、哲学史の重要な論点とダイナミックな流れを浮かび上がらせることに力点を置いています。「聞き書き」形式で展開される平明な語り口は、哲学初学者にも分かりやすく、哲学の面白さと奥深さを伝えてくれます。
また哲学をゼロから学ぶための方法論や、現代において哲学を学ぶ意義や効用についても触れられています。哲学史を学ぶことは、私たちの思考を鍛え、世界を見る眼を養うことにつながるのです。
哲学に関心のある全ての方におすすめの1冊です。古代から中世、ルネサンスに至る西洋哲学の源流を辿ることで、現代の私たちの思想的基盤がどのように形作られてきたのかを理解することができるでしょう。