500社以上の企業ブランディングを手がけてきた「聞き役」のプロ・戸部二実による「強みを見つけるブランディング」

更新:2024.10.25

「あなたの会社のよいところ、ちゃんと伝わっていますか?」 AIが多方面の分野で進出する中、AIには出来ないプロフェッショナルな仕事、その1つに「ブランディング」があります。デジタル化やDXが叫ばれる一方、あえてアナログでしか出来ない「ブランディング」は「人」にしか出来ない緻密な作業です。 『強みを見つけるブランディング』は、中小企業を中心に500社をブランディングで成功に導いてきたプロ・戸部二実さんのノウハウが詰まった一冊。企業の“隠れた強み”を引き出すにはどうすれば良いか、事例をまじえて解説しています。 この記事では、その一部とともに、著者がブランディングの専門家になるまでの、本著には書かれていないエピソードもインタビュー形式でご紹介します。

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著者
戸部二実
出版日

【著者インタビュー】リクルート時代、制作でビリスタートだった著者が起業に至るまで

ー現在クリエイティブ、コンサル、企業ブランディングと幅広く手掛けている戸部さんですが、どのような子ども時代だったのですか?

小さい時からクリエイティブの世界へ憧れがありました。高校時代から広告批評を読み込み、マガジンハウスの記事づくりを研究するほどでした。

ーでは大学時代は?

大学では社会心理学を学びました。なぜ人はそんな行動をするのか、どのような感情が人を動かすのか、それを知ることで優れたクリエイティブを作れると思ったんです。      

ー大学卒業後、社会人デビューはリクルートだったんですね。

新卒で入ったのがリクルートでした。広告媒体という”他人の土地”を提案する広告代理店より、自らの手で情報誌という”土地“を作ってしまったリクルートのビジネスモデルに面白さを感じました。と、同時に、採用広告の世界でも何か面白いモノづくりができるのではないかと考えクリエィティブも事業づくりも経験できそうと思ったのです。

とはいえ、リクルートでの新人時代はビリスタートだったんですが。

ーそんな時代があったんですか?

「戸部というヤバい新人」のレッテルまでつけられてしまい……お客様を怒らせて取引キャンセルまで招いたことがありました(笑)。

転機はある道路舗装会社を担当した時でした。競合他社と基本技術の差はあまりなく差別化が難しかった中で「コツコツと道路づくりの面白さ」を書いてみたことが功を奏しました。

しかし社内コンテストではまさかの落選だったんです。理由は「自分の社内評判が悪かったから」……。そこで自分自身のブランド力がないことを悟り、ブランディングの大切さを痛感しました。      

ーそれが現在の事業のきっかけに?

はい、一方でブランドが確立されている先輩に今は負けてもしょうがない。あとは実力で賞を取るだけと考えて、自分らしく頑張るうちに狙っていた社内賞を実質1位で獲得。以来、難しいと言われる外部の広告賞も受賞するなどして、着実に実績を積んでいきました。大成功もいくつかあったと思います。

しかしプロジェクトは終われば解散となってしまうのが寂しかったんですね。自分のチームを作ってみたいと思ったことが起業のきっかけになりました。

ー起業にはそのような想いが込められていたんですね。

2012年6月に(株)カラビナを設立し、まずはチームづくりのため人材の確保からはじめました。それまで得意としてきた採用ブランディングとともに、企業の本質的な価値を見つけ出す企業ブランディングなどを手掛けるようになっていきました。

 

「見つけ出す」ことが最重要!ブランディングの真意とは?

(株)カラビナのホームページトップ画面

 

著者は現在までに、大手企業や中小企業など約500社のブランディングを手がけ、多くを成功に導いています。その秘密は何なのか、ここからは本書を読み解いてご紹介します!

ブランディングとは「自社のブランド=強みや特長を世の中に発信すること。そして対象とのコミュニケーションを最適化し、活性化し企業経営を円滑にする一連の活動」であると本著ではまず「はじめに」で紹介されています。

そして、まず大事なことは「そこ(企業)に存在する「強み」を「創る」のではなく「見つけ出す」こと、だそうです。

著者はとても話し上手です。学生時代の話からブランディングを手がけるまで、そしてブランディングで成功するまでを非常にユーモラスに私(ライター)の興味を惹き続けながら話してくれました。

しかし、話し上手である以前に著者は聞き上手でした。それはこの記事の最後に紹介するブランディングの成功事例を見てみればわかことでしょう。「強み」を見つけ出すことは、あらゆるステークホルダーから話を聞く、“ひきだす”ことからはじまるのです。

 

ブランディングにおける「クリエイティブ」=「伝えること」の重要性

企業の強みを見つけ出したら、それをどうやって何で伝えていくかが重要になります。逆に言えばどんなに素晴らしい強みを見つけ出したとしても、それを上手く表現出来なければ意味がなくなってしまうからです。そこはクリエイティブに携わる人間の腕の見せ所となるのでしょう。

著者本人はコピーライターとして数々の賞を受賞していますが、代表を勤めるカラビナにはデザイナーやアートディレクターなど様々なクリエイティブに携わる人間がいます。それらのチームワークで一つのクリエイティブが築き上げられていきます。

著者が代表を務めるブランディング会社(株)カラビナのロゴ

 

ここまでブランディングについて、抽象度の高い言葉でポイントを解説してきましたが、ここからは具体的な企業の成功事例をご紹介します。

 

ブランディングの成功事例その1~地元密着の電気設備会社、優秀な技術者の採用が増加~

成功事例の1件目は千葉県にある地元密着の電気設備会社。実直な経営と誠実丁寧な仕事で地元での信頼は厚く業績も良く2代目になっても更なる成長を続けていました。ただただ悩みは「良い人材がなかなか集まらない」こと。そこでカラビナは採用ブランディングを手がけました。

話をよくよく聞いてみると、「強み」はいっぱいありました。しかしそれらは全てがバラバラで社外に全くアピール出来ていませんでした。そこを伝えることが出来れば「ここで働きたい」という人が沢山いるはずだと確信を持ちました。

見つけ出したその会社の強みは、とにかく誠実、丁寧な仕事をこなしていること。具体的には、「古くからの業者は面倒がってやりたがらないという“     作業工程の可視化     ”を大手並みに行っている」。さらに「ワークライフバランスを大切にし、女性やシニアでも働きやすい職場を実現している」などなど。

 

そこで、まずは採用サイトを作り直すことからはじまりました。それらのメリットを立体的に組み立てて、わかりやすく伝えていくようにしました。

出来上がった採用サイトのキャッチは「Sincerity in Quality~誠実を、つくる。誠実を 生きる~」

採用メッセージは「ひとを、技術の真ん中に」。

この電気設備会社の代表者は二代目社長。他にもいくつかの会社からブランディングの提案を受けたものの……なぜカラビナにしたかは本著に詳しく書かれています。ただ一番費用が高かったのがカラビナだったということ、そして最初の打ち合わせから代表の戸部さんが出てきてしっかりと話を聞いてくれたことから最初の印象でもうほとんど決めていたといいます。

 

このブランディング施策ののちの具体的な成果として、国内トップの通信会社からの技術者採用にも成功したこと、そもそも応募数が増えたこと、それから平均年齢が42歳から37歳へ引き下がったこと、などがあげられています。

今まで意識づけがなかった会社の強みを前面に出した会田電業(株)採用サイト ©会田電業(株)

 

ブランディングの成功事例その2~新卒採用に課題があったセキュリティ系ベンチャー企業、企業イメージを一新~

成功事例の2件目は、とあるベンチャー起業。各部門の社員に詳しくヒアリングしたところ、経営の透明性が高く、みんなが明るく前向きに働いている。まっすぐで正直な人物が多い、社長も謙虚で知性に溢れている、という一見するととても良いように思える会社でした。一方で、華やかなキラキラしたベンチャー系企業が並ぶ就活説明会などでは、この良い個性が「地味で大人しく」見えてしまうのだろうという印象でした。

顔認証や指紋認証などITを駆使しているサービスが多いのに、「セキュリティ=防犯」というだけでちょっと泥臭く地味なイメージをもたれがちです。そこでセキュリティだけでなくマーケティングにも活用できる事業価値を再定義することにしたのです。

 

試行錯誤の結果、見いだしたのが「目力(めぢから)」という言葉でした。一見化粧品メーカーかとも思える言葉のようですが「(防犯カメラ等は)休みなく人間よりも優れた目で社会を見つめている」という結論に達し、「社会にもっと、目力を」というスローガンコピーをつくりました。

この「目力」というコンセプトを用いたことで、セキュリティの持つ「守り」や「保守的」なイメージから、一気に「知的」で「洗練」されたベンチャー企業へと大きく変換。ベンチャー企業の集まる就活説明会などでもブースは多くの学生で賑わうことに。上位校の採用も増えたといいます。

その背景には、クリエイティブ開発の課程で生まれた事業説明の仕方についても、採用担当者が新しい会社のコンセプトをよく理解して話したことが大きかったと記されています。

防犯セキュリティ会社の採用スローガン「社会にもっと目力を」 ©(株)セキュア

 

まとめ

以上の事例の他にも、中小企業だけではなく、大手新聞社、誰もが知る全国店舗展開のライフスタイル企業など、特に採用ブランディングについてどうやって成功に導いていったかが本著には記されています。

新聞社採用ポスター「ココロは少年、まなざしはプロ」 ©読売新聞社

本著は特に中小企業の経営者や採用担当者に読んで欲しい1冊です。ブランディングは経営の要となる施策であり非常に大切なことであることは言うまでもありませんが、改めて本著を読んでまずは「自分の会社の強みは何なのか」を冷静に考え、再考してみてはいかがでしょうか。

著者
戸部二実
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