漫画『らんま1/2』は「週刊少年サンデー」で連載されていた少年漫画です。水をかぶると女体化する主人公の少年が、一癖も二癖もあるヒロインや数々のライバルたちとトンデモバトルを繰り広げるアクションラブコメディ。 本作は連載終了から30年近く経っても未だ根強い人気を誇る、ヒットメーカー高橋留美子の代表作の1つです。2024年10月から完全新作(リメイク)アニメの配信もスタートした『らんま1/2』について、原作漫画の概要を紹介しつつ、作品の魅力について紹介していきます。
笑いあり涙ありバトルありの格闘ラブコメ漫画『らんま1/2』は、日本が誇る漫画家・高橋留美子の代表作の1つです。1987年から1996年にかけて「週刊少年サンデー」で連載されていました。コミックスは全38巻。世界22か国で翻訳版が出版されており、シリーズ累計発行部数は5,500万部を突破している大ヒット作品です。
幼いころから格闘技の修行に明け暮れる主人公と、ある道場の娘であるヒロインは親同士が決めた許嫁。成長して出会った2人は当初反発しますが、日常のドタバタやライバルたちとの戦いを通して仲を深めていきます。1つ問題があるとすれば、主人公は水をかぶると性転換してしまう特異体質なこと……。
エンタメ性に富んだ本作はアニメや映画、TVドラマにゲーム、多数のメディアミックス作品が制作されました。特に1989年から放送されたアニメ第1期と第2期「熱闘編」の人気は絶大で、幅広い世代に根強いファンがいることで知られています。
そんな『らんま1/2』ですが、2024年6月に「完全新作的アニメ」を謳う再アニメ化が発表され、同年10月から放送中です。制作はハイクオリティな映像に定評のあるMAPPA。再アニメ化発表時、主要キャストの一部が1989年の旧アニメ版から続投することが判明すると、SNSを中心に大きな話題となりました。
劇場版やOVAを除いたTVアニメとして『らんま1/2』の新作が作られるのは、なんと32年振り。このように時代を超えて愛され続けている作品はさほど多くありません。従来のファンはもちろんのこと、新アニメ版で初めて本作を知った方も、ぜひこの機会に原点である原作漫画にも触れてみてください。
乱馬(らんま)は幼いころから無差別格闘早乙女流を修めるべく、父・玄馬(げんま)とともに武者修行の旅に明け暮れていました。玄馬は同門かつ親友である天道早雲(てんどうそううん)と互いの子供が成長したら結婚させると約束しており、乱馬が高校生になったころに急遽帰国すると、そのまま早雲の天道道場に転がり込みます。
事情を全く知らなかった、早雲の娘3人は寝耳に水で混乱。当事者の乱馬も乗り気ではありませんでしたが、彼の特異体質――水をかけられると女性に変身してしまうことがわかると、姉2人は男嫌いの三女あかねが適任だと押しつけてしまいます。
こうして乱馬とあかねはなし崩し的に許嫁となり、居候生活がスタート。2人は風林館高校に通いながら、次々起こるトラブルやライバルとの戦いの日々の中、衝突したりわかり合ったりして仲を深めていくことになります。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
- 2016-07-15
『らんま1/2』は長期連載だったこともあって、登場人物はかなり多いです。ここではストーリー上で何度も登場する主要人物に絞って、簡単にご紹介していきます。
まずは主人公の早乙女乱馬。16歳の細身少年です。とある事情から三つ編みにしたお下げ髪が特徴で、ズボン型のチャイナ服を愛用しています。中国で修行中に呪われた泉「娘溺泉」に落ちたことで、水をかぶると女性に、お湯をかぶると元の男性に戻る特異体質になりました。
女性の姿だと背格好が一回り縮み、グラマラスな体型になります。見た目で区別するために男性時は「乱馬」、女性時は「女乱馬」か「らんま」と書かれることが多いです。
ヒロインは天道あかね。
乱馬とは同い年で、天道家3人姉妹ではただ1人格闘センスがあり、父の無差別格闘天道流を学んでいます。初登場時は背中まで届くロングヘアを緩くまとめた髪型でしたが、ある出来事からショートカットに……。
乱馬のライバル筆頭と言えるのが響良牙(ひびきりょうが)。良牙は乱馬が中国へ渡る前の学校の同級生で、何かと張り合うものの負け続けています。我流ながら戦闘力はかなりのもの。乱馬を追って渡った中国で彼も呪いの泉に落ち、黒い子豚(Pちゃん)に変身する体質になりました。あかねに片思いしているため、乱馬とよく張り合います。
ライバルで忘れてはいけないのが、九能帯刀(くのうたてわき)です。風林館高校の先輩で、作中屈指の剣道の達人。あかねに惚れられていると勘違いしており、乱馬を恋敵として一方的にライバル視すると同時に、女性のらんまにも気があるという極めてややこしい人物です。
帯刀の妹・小太刀(こだち)も厄介な少女です。乱馬やあかねとは同級生に当たる新体操部のエース。彼女の惚れた相手は乱馬で、あかねが恋敵――と相手が逆転しているだけで、ポジションはほぼ帯刀と同じです。
久遠寺右京(くおんじうきょう)、通称「うっちゃん」は乱馬のもう1人の許嫁です。関西弁とお好み焼き道具をアレンジした武器が特徴。乱馬とは面倒な経緯があって、男装することがあります。
中国・女傑族のシャンプー(珊璞)もヒロインの1人。一族の掟により、1度負けた乱馬と結婚するためしつこく追いかけてくるようになりました。関係者として祖母のコロン(可崘)、幼馴染みで暗器の達人ムース(沐絲)が登場します。
そしてトラブルメーカーの八宝斎(はっぽうさい)。八宝斎は玄馬や早雲の師匠に当たる、無差別格闘流を興した格闘家です。作中最強クラスの強さを誇りますが、極端なスケベじじいでもあり、さまざまな問題を起こす厄介な人物。
漫画『らんま1/2』最大の魅力は、いつ何度読んでも飽きの来ないエンタメ性です。
本作はラブコメの特にコメディ要素が印象的ですが、前提として乱馬(と呪泉郷に落ちた者たち)が呪いを解いて元の体質に戻るために奮闘するという大枠があります。これによって呪泉郷を巡るストーリーを縦軸に、ラブコメのドタバタやバトル展開が横軸として挟まれることで、エンタメ性を重視しつつマンネリ化しない構成になっているのです。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
さらにそのエンタメ性を高めているのが、水をかぶることで変身してしまう設定。しかも主人公が女の子になったり、実直な少年が愛らしいマスコット的子豚になったり、他にもパンダや猫やアヒルと種類はさまざまです。
「男は男らしく、女は女らしく」といった価値観が当たり前だった当時、男主人公が日常的に女体化して時にセクシーに振る舞うことや、ヒロインが途中のエピソードで髪を短く切ってイメージをガラッと変える展開は非常に斬新でした。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
この変身設定は奇をてらった一発ネタではなく、それぞれのキャラクターの個性を際立たせることに一役買っています。特に乱馬とらんまのギャップが凄まじく、本当は男なのに女体化すると妙に色気があって、色々と可愛らしい衣装も着るのに男っぽいがさつさも感じる……と多方面の性癖を刺激しました。
変身を活かした誤解やすれ違いによるギャグも多く、多様性の時代と言われる現代でも受け入れやすく、とても面白いです。
多数の格闘家が登場する本作は、ライバルたちとのバトル展開も魅力です。ただ良い意味でとてもクセの強いキャラクターが多いため、意外と王道のバトルは多くありません。以下、具体例を出す際に何巻かを併記しますが、新装版に準拠した巻数となっています。
比較的まっとうに戦うのは乱馬対良牙でしょう。年齢が近くて互いに認め合う実力伯仲の相手であり、さらに結果的に同じコロンに師事(乱馬とシャンプーをくっつけるために色々画策した結果)するなど、因縁には事欠きません。とんちきな修行や由来から激アツバトルに発展する爆砕点穴(第6巻)、獅子咆哮弾(第20巻)のエピソードは必見。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
ムースとの戦闘もかなり白熱します。ムースは基本的に暗器(隠し武器)を使うので正々堂々ではありませんが……。格闘演芸会(第4巻)ではムースの多彩な暗器に対して、女の姿のまま工夫して立ち回るらんまを楽しめます。
格闘と言えば、多数登場するちゃめちゃな「格闘○○」シリーズは『らんま1/2』ならでは。本来戦闘やバトルとは結びつかないジャンルのものが、無理矢理「格闘○○」として登場し、型破りで非常識極まりない攻防が繰り広げられます。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
最初期の格闘新体操(第3巻)などはそもそも激しく動くスポーツなのでまだ理解出来る方ですが、格闘茶道(第6巻)に格闘出前レース(第7巻)、果ては格闘ディナー(第16巻)になるともう意味不明! 不条理ギャグの領域に片足を突っ込んでいるので、わけがわからないまま笑い飛ばすのが正解でしょう。ちなみに格闘ディナーはある種の早食い・大食い対決です。
このようにバラエティ豊富なバトルこそ、漫画『らんま1/2』の魅力であり人気の理由と言えます。
ラブコメ視点で見た『らんま1/2』もかなりの名作です。
キャラクター間の関係で言うと乱馬とあかね、乱馬と右京が許嫁で、一方的に乱馬へ言い寄ってくるのが小太刀とシャンプー。さらにあかねに片思いする良牙や、片思いされていると思い込んでいる帯刀……女らんまは省きますが、レギュラーに限っても恋愛に関連するキャラクターが多数登場します。
ほとんどの場合はコメディ、ギャグとしての恋愛描写が大半ですが、そんな中で特に真面目――と書くと少し変ですが、ストレートに仲が進展(物凄く遅々としてですが)するのは乱馬とあかねです。
2人とも素直な性格ではないので大抵反発しますが、何かの出来事の合間やふとした瞬間に一瞬だけ見える本音にときめきます。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
例えば、あかねが髪を切るきっかけのエピソード(第2巻)。
あかねは幼いころから接骨院の先生・小乃東風(おのとうふう)に憧れており、女性らしくあろうと髪を伸ばしていました。ところが乱馬と良牙の対決に巻き込まれて、バッサリ切れてしまいます。あかねは気持ちを吹っ切るため、それを機にショートカットに。半ば自棄の行動ではあったものの、乱馬に可愛いと慰められて喜ぶ様子が非常にピュアです。
乱馬が最大のピンチに陥る貧力虚脱灸(第13巻)のエピソードでは、乱馬とあかねがお互いに思い合う姿が感動的。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
八宝斎のせいで力を出せなくなった乱馬は、あかねに内緒で修行に出るのですが、これは弱った姿を彼女に見られたくないという格好つけの気持ちの裏返しでした。その後の展開で飛竜昇天破にあかねが巻き込まれた際、命がけで守ろうとする乱馬は必見!
さらにバレンタインデーのお話「小さなハート」(第34巻)に至っては、2人とも完全に意識してしまって逆に素直に行動出来ない、いわゆる両片思い状態で読んでいて思わず身悶えしてしまいます。
くっつくのかくっつかないのか絶妙なバランスで最後まで進むため、漫画『らんま1/2』はラブコメ好きにも非常におすすめです。
『らんま1/2』の新アニメは2024年10月から日本テレビ系で放送中です。動画配信サービスではNetflixが独占配信中。
「完全新作的アニメ」(作中頻出表現である○○的××を意識したファンサービス)という新アニメ制作が発表されたのが同年6月だったので、根強いファンのいる人気作とはいえ、かなりのスピード感があります。おそらく2022年から断続的に放送されている、同じ高橋留美子原作の新アニメ『うる星やつら』の好評を受けたものと思われます。
キャラクターデザインは今風にアレンジされていますが、旧アニメよりシンプルな印象。原作の画風に近づけつつ、昨今のジェンダーフリーの風潮に合わせたのかも知れません。
そうなると気になるのは、『らんま1/2』の特徴でもあるお色気の有無……きわどいシーンそのものは健在ながら、センシティブな部位は描写しない、という方式がとられています。時代的に仕方ないところですが、ファン的には少し残念。
逆にファン目線で嬉しいのは、主要キャストが旧アニメから続投ということですね。乱馬とらんまはお馴染み山口勝平と林原めぐみ、あかね役には日髙のり子、良牙役は山寺宏一でシャンプー役も佐久間レイです。天道姉妹も高山みなみ、井上喜久子がそのまま当てているので、昔からファンの人ほど新アニメは胸が熱くなるでしょう。
新アニメは現在数話放送済みですが、面白いのは作中が1980年代と明記されている点。変に時代設定を変えると食い違いが出ますし、現在の価値観では少しあれな表現も時代性を考慮した結果と釈明出来ますから良い判断と言えます。原作に忠実にアニメ化するという意思表示とも取れますからね。
忠実なアニメ化に関連するところいくと、旧アニメのオリジナル要素がどう扱われるかにも注目が集まっています。旧アニメは一部レギュラーキャラクターの性格が変更され、さらに少なくないオリジナルキャラクターが登場することで、原作とは違うストーリー展開やアニメだけのエピソードがありました。
新アニメが原作通りなら当然それらもないことになりますが、帯刀の従者・猿隠佐助(さるがくれさすけ)やシャンプーの妹分であるリンリン、ランランなど印象深い人気のオリジナルキャラクターが少なくありません。
実際どうなるかはわかりませんが、ファンとしてはなんらかの形で新アニメが旧アニメの要素も引き継いでくれることを期待しながら、視聴するのが良いでしょう。
漫画『らんま1/2』の作者は言わずと知れた巨匠・高橋留美子です。愛称は「るーみっく」。1957年10月10日生まれ、新潟県出身の女性漫画家です。日本屈指の漫画家であり、1978年のデビュー以来約50年に渡って最前線で活躍し続ける漫画界の偉人。
その凄さは代表作の多さでも明白。『うる星やつら』、『めぞん一刻』、『らんま1/2』、『1ポンドの福音』、『犬夜叉』、『境界のRINNE』……現在「週刊少年サンデー」で連載中の『MAO』を除いて、連載作品がすべてアニメ化やドラマ化されています。
漫画業界では1作でもヒットすれば万々歳と言われますが、発表する漫画が残らず大ヒットする高橋留美子は、正真正銘のヒットメーカーです。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
作風は明るいラブコメが基本ですが、『犬夜叉』以降はややシリアスな設定が目立ちます。SFにバトル、ファンタジーに伝奇、連載作品以外のシリーズモノや短編作品にはホラーもあって作品は多種多様。
題材が常に変化していることからもわかりますが、漫画家としてまったく衰える気配がないのは新しい感覚を磨き続けているからで、それこそが人気の秘訣なのでしょう。ちなみに高橋留美子は「漫画を描くこと以上に楽しいことはない」と公言しており、職業としての漫画を愛するワーカホリック(仕事中毒)のようです。
おそらくこの先もずっと高橋留美子の世界、「るーみっくわーるど」で読者を楽しませてくれることでしょう。
漫画『らんま1/2』は小学館の漫画アプリ「サンデーうぇぶり」なら基本無料で読めます。全38巻(少年サンデースペシャル版は全20巻)をいきなり購入していくのは少し躊躇われますが、漫画アプリなら気楽に楽しめますよ。気になった方はまず「サンデーうぇぶり」で読んでみるのをおすすめします。