漫画『雷雷雷』は漫画アプリ「マンガワン」などで連載されているSFアクションコメディです。エイリアン侵略の爪痕が残る世界を舞台に、宇宙害獣と融合した不幸な少女が過酷な戦いに挑むストーリー。 本作は「このマンガがすごい!2025」にもランクインした注目作です。どんなところが面白いのか、作品のあらすじや内容から魅力をご紹介していきます。

『雷雷雷』はWeb漫画配信サイト「裏サンデー」と漫画アプリ「マンガワン」でSFアクション。作者はヨシアキ(芳明慧)です。既刊4巻で、最新第4巻は2025年1月17日発売。
エイリアンとの戦争に地球人類が勝利してから50年。主人公スミレはもういなくなったはずのエイリアンに拉致、なぜか肉体を改造されて、戦争で残された宇宙害獣(いわゆる怪獣)を巡る戦いに巻き込まれてしまいます。
『雷雷雷』は2023年8月の連載開始直後から、重い設定に反した軽妙でコミカルなやりとり、キャッチーなキャラクターによる迫力満点のアクションで話題になりました。
近年、漫画界隈では怪獣をモチーフにした作品がちょっとしたブームになっていますが、『雷雷雷』は日常系漫画にも似たゆるさとスリリングな展開で魅せる辺りがかなり異色です。「このマンガがすごい!2025」オトコ編では第7位にランクイン、「次にくるマンガ大賞2024」でもノミネートされるなど、人気と面白さの両面で高く評価されていることがわかります。
現在『雷雷雷』はまだ第4巻までしか発売されていないので時期尚早ですが、今後2~3年ほど順調にストーリーが進めばメディアミックスされる可能性は高いです。
エイリアンとの戦争が終わって長い月日が経ち、公式にはエイリアンは消え去ったとされていても、彼らが残していった脅威は未だ健在。実家の借金を返すべく、若くして働きに出た市ヶ谷スミレは、そんな脅威の1つ――生態系を改変する宇宙害蟲の駆除会社に勤めていました。
ところがそんなある日、スミレの身に奇妙な出来事が起こります。いなくなったはずのエイリアンに拉致され、肉体改造で宇宙害獣と融合させられてしまったのです。スミレはダスキンと名付けた宇宙害獣と強制的に共生関係となり、上手くコントロール出来ないものの、人間の意識がありながら宇宙害獣の力が使えるようになりました。
はた目には宇宙害獣そのものでしかないスミレは討伐されかけますが、大手企業「ライデン社」がその特異性に注目。スミレは高給と引き換えにスカウトされます。
宇宙害獣を巡る危険な任務や訓練、そして他社の不気味な暗躍……スミレは否応なく過酷な戦いに巻き込まれていくのでした。
『雷雷雷』には何人ものキャラクターが登場しますが、ここでは序盤から活躍する主要人物に絞って紹介していきます。
主人公は市ヶ谷スミレ。家庭の事情……というか父親が事業で失敗した挙げ句に蒸発してしまったせいで、進学を諦めて過酷な宇宙害蟲駆除業者に就職した薄幸の少女です。生真面目な性格で学生時代は成績優秀でした。生い立ちのせいで自分を押し殺しがちで、巻き込まれ体質なのもあって、なかなか不憫なキャラクターです。
当初は宇宙害獣(エイリアンの侵略用の生物兵器)と文字通り一心同体でしたが、紆余曲折あって体が分裂しました。
スミレと融合した宇宙害獣の名前はダスキン。初登場時、スミレの精神内での見た目は骸骨じみた顔に、体は体毛の薄いゴリラのようでした。が、実際のダスキンは体格こそ変わらないものの、なぜか骸骨ではなく羊角を備えた悪魔に似た顔になっています。
通常の宇宙害獣は生きる災害のような存在ですが、ダスキンはなぜか意思疎通が可能です。ただし、口調は乱暴であまり頭はよくありません。人類を毛嫌いしており、隙あらば反抗しますが……。
スミレと分裂した後は、ちょっと大きめのぬいぐるみのような姿に変化します。
狭山(さやま)ハヅキは「ライデン社」所属の雷伍特務部隊副隊長。とっつきにくいクールな女性に見えますが、意外と面倒見がいいです。スミレの境遇には同情的で、彼女が「ライデン社」に入ってからは同居することになります。
特製コンバットスーツに身を包み、最前線で戦う戦闘要員。スミレの初めての変身でダスキンが表に出てきた時、宇宙害獣対処で派遣されたのがハヅキでした。
他には「ライデン社」社長の石動デンスケを筆頭に、雷伍特務部隊の隊長・神保ハルヒコや特殊な立ち位置のキヨハルなど濃いキャラクターが多数います。キヨハルは同作者の『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』の登場人物と見た目がそっくりの同姓同名(いわゆるスターシステム)なので、前作からの読者は思わずニヤニヤしてしまうでしょう。
こうした一癖も二癖もあるキャラクターが、『雷雷雷』の物語を大いに盛り上げてくれます。
『雷雷雷』の1番の魅力はなんと言ってもアクションです。世界観もキャラクターの境遇も基本的にハードですが、合間合間にゆるいギャグ調のやりとりとアクションが挟まれるおかげで、すいすい読めてしまいます。
宇宙害獣に変身したスミレとダスキンの、偉業の姿から繰り出される破壊的な力。ずんぐりむっくりでな見た目のため、どことなくコミカルなアクションになっているのが面白いです。
2人のする戦いはたいていコメディタッチ。ただコメディの質にも違いがあって、ダスキンは知能が低レベルで人間を侮っているせいですし、スミレはいきなり変身してしまったせいで単に慣れてないだけだけという……。作中最高クラスに強いはずなのに、ただ圧倒するだけじゃないのが本作の魅力に繋がっています。
一方で人間が行う戦いは、見栄えのするスタイリッシュなアクションです。ストレートの黒髪をなびかせて素早く動き、日本刀の鋭い一撃で断ち切るハヅキには胸が躍ります。スーツは体のラインが出るデザインで、フェティッシュなのも注目すべきポイント。
スミレやダスキン、ハヅキのアクションが目立ちますが、途中参戦するキヨハルも化け物じみています。「ライデン社」特秘別働隊という特殊な役職に就くキヨハルは、なんと生身(?)でハヅキはおろか、本気のダスキンを上回ります。
宇宙害獣との戦闘では汚染も気にする必要があって、コンバットスーツには身体能力向上以外に汚染対策も兼ねているのですが……。キヨハルらがどうして生身で無事なのかは謎。
戦いといえば、派手派手な大立ち回りだけでなく企業間の対立、暗闘も見所です。人間としての意識があって、宇宙害獣の力を使えるスミレは貴重すぎる存在。その力を巡って政府と綱引きをしたり、あるいは「ライデン社」のライバル会社があれこれちょっかいをかけてきたりします。
スミレが狙われる理由は、彼女とダスキンが口から放つ光線。「破壊砲(デストロイキャノン)」と呼ばれるその攻撃は、侵略戦争時代にエイリアンが人類の半数を消滅させた究極の破壊兵器と同じものだそうです。
それらアクションに加えて、謎めいたストーリーと世界観も魅力。エイリアンはすでに地球人類によって撃退されたはずなのに、なぜスミレの前に現れて、あまつさえ誘拐して肉体改造を施したのか。スミレ個人の過去に何か理由がありそうですが……。
『雷雷雷』は近いジャンルの別作品、漫画『怪獣8号』との類似性が指摘されることがあります。主人公がいきなり怪獣になるという部分は確かに似ているものの、敵と同質の力を持つ変身ヒーローモノとは得てしてそういうものなので、パクリパクられの関係にあるとは言えません。
とはいえ、『雷雷雷』のコミカルな展開は初期の『怪獣8号』と近いノリがあるため、そのころの『怪獣8号』が好きだった人には文句なくおすすめ出来ます。
スミレは変身でダスキンに体を乗っ取られかけるも、ハヅキの活躍で「ライデン社」に保護(?)されました。人体改造――それも意識のある人間と宇宙害獣が動ける状態で融合しているのは前代未聞で、調査を担当する第伍研究所は大騒ぎになります。
ハヅキに切断されて、宇宙害獣の体に頭だけついているスミレと、頭部だけになっても生きているダスキン。……彼らは研究者にとって、格好の研究材料でしかありませんでした。
解剖の寸前、ダスキンは首から下が再生してスミレから独立し、鬱憤を晴らすかのように大暴れ。再びハヅキが討伐しようとしますが、小賢しく学習したダスキンに苦戦してしまいます……。
- 著者
- ヨシアキ
- 出版日
一難去ってまた一難。「ライデン社」の庇護下で少しは安心出来るかと思いきや、実験動物扱いで大ピンチに。思ったより間抜けだったダスキンの恐ろしさが浮き彫りになりますが、それより驚くべきはスミレの底力です。
スミレ本人は我慢強いものの、彼女は他者が傷つくのを黙って見ていられない性分でした。ハヅキや第伍研究所の職員の窮地を黙って見過ごせず、咄嗟の行動で思わぬ力を発揮します。ダスキンもたじろぐ強さと、外見の謎の変化――変身体が着ぐるみのような姿になるのが印象的です。
宇宙害獣ダスキンとは意思疎通が出来てもわかり合えるわけではないし、「ライデン社」も建前は良くても決して善意の会社ではないとうのが面白いです。
かつての戦争で激戦区となった……というより消滅した旧東京、「破壊砲」爆心地。スミレが変身能力をコントロール出来るように、特秘別働隊のキヨハルによる訓練が行われることになりました。
これまでの傾向から、彼女の力が発現するのは窮地に陥った時のみ。そこから導き出される最良の選択肢は――一方的な暴力。変身出来なければただの無力な一般人でしかないスミレに対して、苛烈すぎる責め苦が襲いかかります。
- 著者
- ヨシアキ
- 出版日
外部との連絡は制限されており、頼れるものは自分の身一つ。淡々と、しかし確実に痛めつけてくるキヨハルがただただ不気味です。
小さくなったダスキンは無力化済み(キヨハル曰く教育)で、完全に萎縮した様子が非常にコミカル。凄惨な展開を緩和してはくれるものの、助けにはならない……と思いきや、本当にスミレの命が危険に晒された瞬間に反撃に撃って出るのが熱いです。ダスキンなりにスミレを心配するのと、他にもどうやら彼にも何か秘密がありそうなのが見所。
普通はここから事態が好転しそうですが、そうはならないのが『雷雷雷』です。キヨハルは戦闘用に元通りの姿になったダスキンを遙かに上回り、飛んで逃亡しようとするのをあっさり阻止するなど、人間離れした能力を見せつけます。
前作『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』にも登場しためちゃくちゃなスペックのキャラクターというだけなのか、それとも他に理由があるのか気になるところ。
そしていよいよとなった時、介入してくる第三者。スミレの覚醒に留まらない、謎とアクションがてんこ盛りのエピソードです。
首都上空に突如UFOらしきカプセル上の飛行物体が出現。それはテレビ放送の一部を乗っ取り、なぜかスミレの映像を流し始めます。
政府は街中での被害を避けるために、「ライデン社」および「R・R(レッド・ロック)社」による合同任務を発令しました。ハヅキら雷伍特務部隊は表向き調査の名目で、UFOが望んでいると思われるスミレを連れて行くことに。
色々あってスミレたちは、現場にいた大勢の見物人ごとUFOに集団アブダクションされ、すべての元凶であるエイリアンとの直接対面を果たします。
- 著者
- ヨシアキ
- 出版日
ここに至るまでエイリアンの影が匂わされていましたが、ついにエイリアンらしき存在が登場。なぜスミレを選んだのか、どういう意図があって肉体を改造したのかが語られます。
スミレの体は宇宙害獣ダスキンと融合したのではなく、正確には高次元(フルディメンション)ジャケットと呼ばれる、現在の地球上でもっとも強力かつ特殊な装備を与えられた結果だということが判明。
エイリアン(?)は高次元ジャケットがかえってスミレの邪魔になっているのなら、自分が回収すると申し出ますが……。
かつて地球に侵略戦争を仕掛けてきた当事者とは思えない、極めて理性的な提案。本当なら少なくともスミレの体が元に戻りますが、当然すんなり話は終わりません。
スミレに一体何が起こったのか、他の超人的な特務部隊隊員や「R・R社」が保持する切り札の阿良波々岐(あらはばき)コハル、エイリアン(?)の正体など物語の核心と思われる謎と情報が次々描かれます。
一筋縄ではいかない展開が、さらなる盛り上がりを予感させるエピソード。
漫画『雷雷雷』の作者はヨシアキです。別名義は芳明慧(よしあきけい)。詳しい経歴は不明ですが、「STUDIO ZOON」のインタビューによれば商業漫画家となって11年目です(2025年2月現在)。
連載デビュー作は「マンガボックス」で発表していた『蝕人孤蟲』。同作は致死率100%の寄生虫を巡る、ムラ社会のホラーサスペンスでした。
- 著者
- 芳明 慧
- 出版日
代表作は「マンガワン」連載の『殺し屋は今日もBBAを殺せない。』です。こちらは『雷雷雷』にも通じるアクションコメディで、なぜか命を狙われる老婆が毎回超人的な能力を発揮して殺し屋を返り討ちするお話。
- 著者
- 芳明 慧
- 出版日
サスペンスとコメディでジャンルはまったく異なるものの、ヨシアキ作品には不必要な台詞がほとんどなくて、ドラマや映画のような迫力があります。実際に画面で魅せることを意識しているらしく、そのおかげでアクションシーンで独特の勢いと爽快感を味わえます。線画をアナログで行っていることも、絵的な魅力に繋がっていそうです。
ヨシアキはまだ寡作な漫画家ですが、実力は間違いなくあるので今後面白い漫画をいくつも発表してくれることでしょう。
漫画『雷雷雷』は現在も絶賛連載中です。既刊4巻と今からでも追いかけやすいですし、漫画アプリ「マンガワン」なら基本無料で読めます。気になった方はぜひチェックしてみてください。