水は限りある資源だと聞いたことはあるけれども、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。日本では、水道の蛇口をひねれば水が出てくるのが当たり前のように感じられています。水資源に関して、世界はどのような危機に直面しているのか学んでみましょう。
水資源問題は様々な社会的要素が絡み合う、非常に複雑な問題であると同時に、人類にとってきわめて身近な問題であるといえます。にもかかわらず全くその内容を知らない、いきなり難しい話はちょっと……という方には、『67億人の水 「争奪」から「持続可能」へ』がおすすめです。
著者橋本淳司氏は主に水問題を扱うジャーナリストである一方、「アクアフェスタ」という団体を立ち上げ、自らをアクアコミュニケーターと名乗り、ローカルな水課題の解決や水問題に関する理解の普及に尽力しています。
ちなみに、著者の活動をわかりやすくまとめた『100年後の水を守る 水ジャーナリストの20年』は、小中学生向けの推薦・指定図書に選ばれています。平易でわかりやすい文章は、著者の得意とするところなのでしょう。
- 著者
- 橋本 淳司
- 出版日
- 2010-05-22
『67億人の水 「争奪」から「持続可能」へ』はページ数も200ページ程度、字も小さすぎず、余白も広めにとってあるので、身構えることなく読みはじめられます。市民向けの講演内容をそのまま本に起こしたような丁寧でわかりやすい文体も、とても読みやすい印象を受けます。
しかしながら内容は初心者向けとしては十分に充実しています。市民の視点に立ちつつも、世界の水問題を客観的に解説しながら、水問題について取り組むべき課題や、理想的な解決策を提示しているので、1章1章がとてもきれいにまとめられています。水資源問題の入門書としては最適と言えるでしょう。
岩波書店発行の『水の未来――グローバルリスクと日本』は、2016年出版で比較的新しい新書です。著者である沖 大幹氏は東京大学生産技術研究所教授であり、水文学者であり、気象予報士でもあります。水文学とは、地球上の水の循環について物理学・化学・生理学、さらには社会学や人間学にまで範囲を広げ、その相互作用について研究する学問です。
大学教授が執筆したとあって、内容は先ほど紹介した『67億人の水』よりもさらに専門的な内容となっています。新書なのでコンパクトで持ち運びも楽ながら、内容はギュッとつまっています。著者が気象予報士の資格も持っていることから、気候変動の話題にまで触れるなど、水資源問題について網羅的に解説されています。
本書の中で、水問題の関して重要なキーワードとして「ウォーター・フットプリント」と「バーチャル・ウォーター(仮想水)」が挙げられています。
「ウォーター・フットプリント」とは、ある商品(農作物や食料品など)の生産過程で消費、汚染される水の量を可視化したものです。「ウォーター・フットプリント」による評価を用いることで、世界的な水リスクに対抗するような政策が可能となるのか、その問題点とは何かということも述べられています。
「バーチャル・ウォーター(仮想水)」とは、商品を生産する際に必要とされる水のことです。水が最も多く必要とされるのは、工場や家庭ではなく、食糧生産のための農業です。水が不足している地域は、自分たちの土地で作物を育てることが難しいため、食糧そのものを輸入することで水不足を補っています。
- 著者
- 沖 大幹
- 出版日
- 2016-03-19
それは水そのものを輸入してはいないものの、結果的に水資源を節約し、自分の地域の利用可能な水を減らさずに済むことにつながっていきます。こうした生産の際に水が必要なものを輸入することで使用せずに済んだ水を「仮想水」と呼び、それに関する貿易を「仮想水貿易」と呼んでいます。水資源が豊富な日本ですら、仮想水総輸入量は一年で約640億立方メートルになるといいます。
水資源の枯渇という問題は、一見その地域に限定されたローカルなものに思えますが、実は水以外の、水を必要とする製品、食糧の問題とも複雑に絡み合う、非常にグローバルな問題になりつつあるということです。そうした現代の水資源問題を広く網羅的に学ぶには、最良の一冊です。
水資源問題についての本の執筆者らは、世界中のデータを参考にその解析をしています。データから何を読み取るかは、その研究者によるので、解釈が各々かわってくるのも事実です。
『水の世界地図 第2版 刻々と変化する水と世界の問題』は、「水」に関するデータを集めたファクト・ブックです。世界地図やグラフを用いてビジュアル化した形でデータとの内容を解説しているので、感覚的にも理解しやすく、研究者でなくともその数字を読み取ることができます。
パート1からパート7までの章に分け、それぞれ地球上の資源としての水データ、気候や洪水など水資源に影響する環境データ、飲んだり洗ったり生活するための水のデータ、工場やレジャー・商品の生産に使われる水データ、水質汚染や水路の傷みに関するデータ、水問題の未来に向けて世界の動きを示すデータ、最後に参考資料やリンク、索引などを添付するといった展開になっています。
- 著者
- ["Maggie Black", "Jannet King"]
- 出版日
- 2010-12-28
世界地図を基本に、各国の水の不足度や使用量などのデータを一目で比較できるよう工夫されています。各データで上位から下位まで段階に分けて国を色分けしているので、ぱっと見ただけでどの地域にどういう傾向があるのかを読み取ることができます。
余白には割合を比較するための円グラフや、推移を示す棒グラフが掲載され、さらに特徴のある国は特記事項が追記されています。1ページの端から端までたっぷり情報量がつまっていながら、配置良くすっきり見やすく構成されています。
純粋にデータだけを拾い上げて掲載した資料集ではなく、そのまとめ方から著者のメッセージ性が感じられます。そのため、ファクト・ブックとしては少々バイアスがかかった資料集かもしれません。しかしその分、読み物として飽きずに読み続けることができそうです。
学生時代の社会科の資料集を思い出します。これが社会科の教材になればいいのにと思います。
『水危機 ほんとうの話』という、暴露的なタイトルの本があります。先ほど紹介した『水の未来――グローバルリスクと日本』の著者でもある、沖 大幹氏による本です。
水問題に関する書物の多くは、客観的な理論の中に著者個人の悲観論や理想論などのやや偏った視点が含まれがちとも思えます。沖氏は水資源問題に対し、強い批判や理想を述べるというより、学者としてデータに基づいた理論を展開し、中立的な態度をとっていると思います。
そのため若干歯切れが悪いような印象を受けるかもしれませんが、あらゆる問題が複雑に絡み合った水資源問題がテーマだと思うと、正解のないことが真実であるような気もしてきます。
- 著者
- 沖 大幹
- 出版日
本書は水危機問題に際してよく話題に上がる内容を、研究者の視点で客観的に、多角的に解説しています。世間で騒がれる水に関する話題に、いかに誤解や思い込みが多いかがわかります。
しかし視点を変えてみているというだけで、決して批判的な内容ではありません。他の書物などで読んだ内容に、実際、それってほんとなの?と疑問に思ったことのある方に特におすすめです。
先に紹介した本のうち、ファクト・ブックである『水の世界地図』以外は、日本のジャーナリストや水学者による著作です。そうすると、海外の専門家はどのような意見を持っているのかも気になるところです。
『「水」戦争の世紀』は、カナダの政治家モード・バーロウと、研究所の理事トニー・クラークによる共著です。
- 著者
- ["モード バーロウ", "トニー クラーク"]
- 出版日
第一部では水資源の枯渇や汚染問題を中心に淡水資源の危機について述べ、第二部では政治も絡む水の商品化と多国籍企業の参入、及びその危険性について解説、第三部ではその事態に対抗して何を目指し何をすべきか、という政治家としての方向性を述べています。
水はいったい誰のものか、ということをテーマに、広い視野で水資源問題について学びたい人は、読んでおきたい一冊です。
まとめ:水問題はローカルでもありグローバルな課題でもある
一日のうちで、水を使わない日はありません。お風呂、トイレ、プール、洗濯、どんなに節水してもかなりの水を使用しているのは、ちょっと考えれば誰でも想像がつきます。
しかし、実は私たちの使っている商品一つ一つの生産過程では、見えない水がもっと大量に使われているのです。また、世界ではその日に生きていくための水を確保する労働の為に、教育や他の労働の時間が大量に消費されています。
水問題がこんなに複雑なものだとは、考えもしませんでした。ご紹介した本を一冊読むだけでも、水に対する見方が変わります。ぜひ一読をおすすめします。