環境問題対策について考えるおすすめ本5冊

更新:2021.12.15

自然破壊、飢餓問題、食料不足など環境問題からくる諸問題が世界中で取りざたされています。日本においても壊滅的な大震災の後、様々な方面から環境問題を問う声が上がりました。そんな今、この時代だからこそ読むべき本を5冊紹介します。

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環境問題を取り上げた先駆者から学ぶ

『レイチェル・カーソンはこう考えた』は世界中が環境問題を考えるきっかけを作ったともいえる作家レイチェル・カーソンの功績とそこから何を学ぶべきかを問う作品です。

20世紀に最も影響力のあった偉大な知性20組24人に、女性としてただ一人選ばれているレイチェル・カーソン。多種多様な作品を遺した作家ですが、特に現代の環境問題を初めて取り上げた『沈黙の春』が有名です。

著者
多田 満
出版日
2015-09-07

『沈黙の春』は殺虫剤DDTの散布による鳥への被害から薬剤汚染の恐ろしさを訴えた本で、アメリカから全世界へと環境問題への提言が広がっていった作品です。他にも遺作になった「センス・オブ・ワンダー」などの作品を取り上げ、彼女の思想や世界に与えた影響を考査した伝記的な作品と言えます。

「「私たちのすんでいる地球は人間だけではない」との認識のもとに、かけがえのない生命と環境を守るための、新たな可能性の探求への努力は惜しんではならないとカーソンは述べています」(『レイチェル・カーソンはこう考えた』より引用)

環境問題を考える上で、その先駆者ともいえるレイチェル・カーソンを学ぶための入門書です。
 

公害被害者達の戦いの歴史を記録した1冊

『四大公害病 : 水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害』は副題にある水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害の全貌と今なお続く戦いの歴史をまとめた本です。

四大公害病のそれぞれが認定されるまでの経緯を、その現状の悲惨さから、訴訟へと戦っていく人々の姿が記録されています。当初地域限定の風土病とされていた病気がどのような経緯で公害と認識されていったのか。その記録には高度経済成長時代の理不尽に取り残された人々の声が聞こえます。

著者
政野 淳子
出版日
2013-10-22

「規制権限を持つ国が、加害と被害の関係を明らかにせず、時に結論の先延ばしにより企業活動と経済成長を守った歴史でもある。被害者の側が司法に訴えて法的責任を明らかにすることによって、その誤りを認めさせた歴史でもある」(『四大公害病 : 水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害』より引用)

この本から環境汚染や公害などの被害認定の難しさの要因になっている既得権力。それらを明らかにして被害者救済を訴える人々など、その関係性のバランスが非常に複雑なものになっていることを知ります。

未だに終わりを見ない公害病の解決の難しさと、その原因を作る経済発展の追求を、今まさに考える時ではないかと思わせてくれる本です。
 

公害がもたらした苦行を生きる人たち

『新装版 苦海浄土』は水銀による汚染で発症した水俣病患者達の記録にノンフィクションを織り交ぜて描いた名作です。被害地で生まれ育った著者の石牟礼道子の描く「水俣病」とその患者たちの未来への希望に心打たれる作品です。

物語は被害にあった不知火の海に暮らす人々の日常の崩壊を描いていきます。自分が自分ではなくなる恐怖。発病により周囲から孤立し孤独に陥っていく人々。それでも尚、愛する海の復活を望む未来。登場人物の方言のある語りから人間としての誇りが見える気がします。

著者
石牟礼 道子
出版日
2004-07-15

「この日はことにわたくしは自分が人間であることの嫌悪感に、耐えがたかった。釜鶴松のかなしげな山羊のような、魚のような瞳と流木じみた姿態と、決して往生できない魂魄は、この日から全部わたくしの中に移り住んだ」(『新装版 苦海浄土』より引用)

このように著者が言う通り、被害者の生の声が乗り移ったがごとく描かれる本作は、経済発展を続けてきた今だからこそけっして忘れてはいけない物語なのだと思わされます。

環境問題は政治的問題だ!

『いちばん大事なこと―養老教授の環境論』は『バカの壁』がベストセラーになった大学教授養老孟司が独自の発想で書いた環境論。その歯に衣着せぬ発言は養老ワールド全開の作風です。

「生態系全体をシステムとして捉え、その生態系のバランスが崩れないように「手入れ」をしてシステムを保全すべきである。自然とつき合うにはこの「手入れ」的思想が大切である。」(『いちばん大事なこと―養老教授の環境論』より引用)と著者が提唱する「手入れ」は人間が自然と向き合う姿勢を問います。

著者
養老 孟司
出版日
2003-11-14

「「人間社会」対「自然環境」という図式が、問題を見えにくくしてきたし、人間がなんとか自然をコントロールしようとして失敗をくりかえしてきたのが、環境問題の歴史だともいえる。」(『いちばん大事なこと―養老教授の環境論』より引用)環境問題のわかりやすい解釈として読みやすい作品です。

本作で提唱する解決方法の一つに1年の内、最低3ケ月は田舎で暮らすというものがあり、環境問題の新たな切り口としてだけではなく、地方の過疎化や一極集中化の問題にも繋がる著者らしい極論として楽しめます。

世界における自然との共存例から学ぶ

20世紀型の鉱物エネルギーを主体にした「ブラウン経済」から21世紀型と言われる自然エネルギーを活用した「グリーン経済」。世界的に取り組まれているグリーン経済の実例から日本の道標を探るのがこの『グリーン経済最前線』です。

「日本にいるとなかなか気づきにくいのだが、グリーン経済の実現に向けた歩みはすでにさまざまな国で本格化し、国連や多くの国際会議の主要テーマとされるまでになってきた。」(『グリーン経済最前線』より引用)世界各国のグリーン経済への取り組みを見ると、如何に日本における取り組みの遅れ、物足りなさを痛感されます。本書ではそれを浮き彫りにして警笛を鳴らす趣向になっています。
 

著者
["井田 徹治", "末吉 竹二郎"]
出版日
2012-05-23

「産業活動の結果として出てくる二酸化炭素は単に大気中に出してしまえばそれで終わりだった。だが、いまや企業は「二酸化炭素の排出はコストである」という価値観への転換を迫られている。(『グリーン経済最前線』より引用)
まさしく今の環境問題の現実を明確にとらえていると言えます。

「原発事故が日本人に教えたことは、短期的な利益の追求に必死になって巨大なリスクに目をつぶる愚かさ、社会と経済における持続可能性という規範の大切さだったはずだ。(『グリーン経済最前線』より引用)
と問題提起された本作は環境問題を考える上で、まさに今のトレンドとして読むべき本です。
 

環境問題は、人間がこれからも地球上で生きていくうえで考えなければいけない、世界的な問題です。経済成長の負の遺産として様々な問題が露見している今日、現実を捉え未来に向けて何をするべきかを模索する指針となる作品を紹介しました。

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