2011年頃から注目を集めるようになった「貧困女子問題」。単身女性の3人に1人が貧困状態だといわれています。今回は女性の貧困の実態、その背景、対策などを学べる本をご紹介します。
先進国では「所得の中央値の半分を下回っている人の割合」[※1]という、相対的貧困の概念が用いられます。これは、社会において「標準的な生活を送れないこと」[※2]を意味しているのです。
つまり「貧困女子」とは、「標準的な生活を送れない女性」のことを指します。
日本において、20〜64歳の単身女性の3人に1人が相対的貧困に陥っているとされています[※3]。単身女性の3人に1人が、毎日の生活に精一杯で苦しんでいます。
貧困女子に陥る原因には、女性の非正規雇用率の高さや、女性の賃金の低さなどが主に指摘されています[※4]。
女性の非正規雇用の割合は、平成27年度時点で、「56.3%」で5割を超え[※5]、それに伴って賃金格差も埋まることが難しくなっており、貧困問題の解決はまだ先が見えません。
この他にも、日本の会社社会で閉ざされている女性のキャリアアップ、女性だけに集中してしまう出産と失職のリスク、シングルマザーの増加、独身女性の介護破綻……など女性が貧困に陥る原因は様々で、自己責任として片付けられるものではなく[※6]、様々な原因が交錯しています。
10代〜20代、30代の貧困女子に、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
まず10〜20代では、シングルマザーの貧困が問題視されています[※7]。たとえば、20代のシングルマザーの80%は、年収114万円未満という貧困状態に直面しているのです。
なお大阪子どもの貧困アクショングループの調査によれば、7割のシングルマザーがDV(家庭内暴力)の被害に遭ったといい[※8]、シングルマザー家庭への元夫からの養育費は、8割が不払いといいます[※9]。このように、離婚による女性の貧困は「自己責任」として片付けられるものではありません。
30代の貧困女子の主な原因としては、計画的ではない結婚や出産、離婚が貧困があるといいます。
結婚年齢の平均は30.1歳、離婚に集中する年齢の平均は30~35歳とされていますが、この間に子どもの誕生と離婚を迎えると、貧困に陥る可能性が高まります。というのは、この時期に、子育ての繁忙期や再雇用の壁となる「35歳」を迎えるうえに、夫からの支援にも頼れない、という状況になってしまうからです。
まとめると、10〜20代で貧困に陥っている女性では「シングルマザー」という状況。30代の貧困に陥っている女性では「計画的ではない結婚や出産、離婚」が、それぞれの特徴の一つとして、挙げられることになるでしょう。
「保育園落ちた日本死ね」
国会でも取り上げられ、2016年の流行語大賞トップ10にもランクインしたこの言葉。共感をもって聞いた人も、目にして眉をひそめた人もいると思いますが、なぜここまで広がったのでしょう。男女平等が当たり前になった現代でも、女性は仕事と家庭の「二重の負担」を強いられている……。そんな議論は様々なメディアで繰り返されてきたと思います。
そうはいっても、家事に協力的な男性だって増えてきているはず。「イクメン(育児を積極的に手伝う男性)」などという言葉も登場したくらいだし、時間とともに自然と変わっていくのでは?と思う方もいるかもしれません。
ですが本書の巻頭対談からは、この問題が単に理解や意識の問題ではないこと、時が経てば解決するような性質のものではないのだということがわかります。
- 著者
- アジア女性資料センター発行
- 出版日
- 2016-09-26
本書は女性にまつわる様々な問題の啓発運動を行っているNPO法人アジア女性資料センターが「女性の貧困」を特集した1冊です。男女雇用機会均等法や労働者派遣法といった法整備、福祉がきちんと機能しているといわれる国とはどのような点が違うのかなど、日本の社会制度の問題が、政治的な視点から冷静に分析されています。
女性の貧困がどのように成立してきたのかをふり返ることで、貧困が実は身近な問題であることを認識するでしょう。他にも、年金問題、DV、原発事故の自主避難者、外国人労働者やLGBTなど、様々な切り口から、女性の貧困が取り上げられています。
この機会に、女性の貧困について深く考えてみませんか。
これだけ盛んに貧困問題が報道されているのに、多くの人は貧困の実態を知らない。そんな焦燥感から生まれた対談がまとめられた『貧困とセックス』。
共に「B級出版社」のライターとして15年以上、執筆を続けてきた著者の中村淳彦と鈴木大介。この2人が特に救済が難しいという女性たちの貧困の現状が語られています。
私たちが知らなかった貧困女子のリアルとは?
- 著者
- ["中村淳彦", "鈴木大介"]
- 出版日
- 2016-08-10
著者は「エロや裏社会」、たとえばAVや風俗といった性産業の業界の内幕、詐欺など犯罪の現場を取材して、サブカルチャー雑誌の記事にしてきました。その取材活動の中で、大手メディアの報道には登場してこない、貧困の現状に触れてきたといいます。
長年の付き合いがあるという彼らの対談は、くだけた言葉で読みやすいものですが、その内容は衝撃に満ちています。「『所得移転』としての売春」「優等生ほど自分の体を高く売る」「介護業界は中年童貞ではなく風俗嬢を雇用すべきだ」など、目次だけでも驚くような言葉が並び、世間の「当たり前」と、社会の裏側の「当たり前」がいかにかけ離れているのかを痛感します。
「一般誌のライターとか編集者とか、大手メディアの方々と自分たちは別世界」(『貧困とセックス』より引用)と語る彼らの貧困に対する視線は、新聞やテレビで見かける議論とは異色そのものです。
貧困の最前線を見てきた彼らが「地獄だ」と語る日本の姿。そこには貧困問題はもちろん、性産業への規制、教育問題、パワハラや高齢者を狙った詐欺など、現代日本のさまざまな問題が立ち現れます。少し視点が変わっただけで、驚くほど悲惨な光景が浮かんできます。
この「地獄」は、私たちの生活と確かに地続きになっていることを認識させてくれる一冊です。
「風俗や売春の世界に行ってしまうのは、貧困家庭の子」、「援助交際なんて、どうせ遊ぶ金ほしさでしょ」。
こんな感想をお持ちであれば、ぜひ本書『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』を読んでみてください。いかに「普通の子」が風俗と近い位置にいるのか、現代社会の実態がみえることでしょう。本書では、JK産業で働く一見普通の女子高生の姿がリアルに綴られています。
- 著者
- 仁藤 夢乃
- 出版日
- 2014-08-07
JK産業とは、女子高生によるマッサージが受けられる「JKリフレ」、女子高生とデートができる「JKお散歩」など、女子高生であることを売りに、主に男性をターゲットとして行われるサービスです。
デートくらいならと思われるかもしれませんが、どちらも男性と2人きりになる仕事。JKお散歩では、店側の監視の目すら届かない場所に行ってしまいます。
著者はJK産業で働く女子高生たち31名に対して調査を行っていますが、「客に性行為を求められたことがある」と回答した人数はなんと29名。また米国務省が発表した人身取引に関する報告書の中では、JK産業が「児童売春の温床」と指摘されているといいます。
そんなJK産業で働く少女たちの実態を、高校時代には路上生活やメイドカフェでのアルバイトを経験し、少女たちと近しい感覚をもっている著者が描きました。「ゆめのさん、お姉ちゃんみたい」と慕ってくる少女たちに応えるように、著者は彼女たちの生育歴や家族構成にまで深く踏み込んでいきます。
「服を買いたいから」「ブランド物が欲しくなった」。初めはそう語る彼女たちの背景に、実は切実な背景が潜んでいることがわかります。本書を読めば、「ちょっと贅沢がしたいからって、そんな危ない仕事する?」と考えられるのは、彼女たちを取りまく世界を知らないからなのだと痛感することでしょう。
貧困女子に関する報道では、風俗や売春で生計を立てる女性など、多くの人の日常からはかけ離れた人々の生活をセンセーショナルに扱った記事が目につきがちです。そんな中、平凡で地味な彼女たちの声を拾い上げようと試みたのが本書です。
女性の問題としては取り上げられにくかった、実家暮らしのパラサイト・シングルや、ニート、ひきこもり。恋人や配偶者を頼ることで何とか生き延びている女性、非正規雇用でぎりぎりの収入をやりくりする女性、正社員ではあってもブラックな労働環境で酷使される女性……。
そんな女性の等身大の姿を垣間見ることの出来る一冊です。
- 著者
- 飯島 裕子
- 出版日
- 2016-09-22
生活のために体を売る世界が「遠すぎて見えない」貧困だとすれば、本書に登場する平凡な貧困女子たちは、余りにもありふれているがゆえにその窮状を見過ごされている、「近すぎて見えない」貧困です。
彼女たちが一般的には普通とみなされていますが、著者は警鐘を鳴らしています。経済的にも行き詰っており、様々なプレッシャーを抱え、精神的な問題や家族とのトラブルに苦しむ女性も少なくありません。
また著者は、親が働けなくなったり、恋人や配偶者と別れたり、体を壊したり、少しでも業務量が増えたり……など、ちょっとした変化によって簡単に路頭に迷ってしまうことも指摘しています。
彼女たちが貧困に陥る原因は、いじめ、パワハラ、就職活動の失敗と、今やどこにでも見られるようなものばかり。ときには不運で片づけられ、ときには自己責任と批判すらされてしまう。職場で、学校で、地域で、彼女たちはひっそりと埋もれ、孤立し、気づかれないままに苦しんでいます。
あなたの隣にいるかもしれない、「平凡な」貧困女子の実像をその目で確かめてみてください。
売買春に取り込まれる女性たちを追いつづけてきた著者が、30余人の「売春するシングルマザー」たちにインタビューした経験から書き上げた本書。
生活は破綻寸前で、精神的にもぼろぼろ。友人もおらず、支援の手も届かず、体に鞭打つようにして売春行為を続けるしかない。しかもそんな状況でありながら、救済すべき存在だと思ってもらえない……。
そんな最貧困女子の、「遠すぎて見えない貧困」を描いた一冊。
- 著者
- 鈴木 大介
- 出版日
- 2014-09-27
取材対象の1人だった加奈さんは、丸々と太った体にレースだらけのワンピースを着て、濃すぎる化粧をした29歳の女性です。腕には無数のリストカットの痕があり、2人の子供を抱え、毎日出会い系の掲示板で売春相手を探しているといいます。
状況だけを聞けば、「普通に働けないのか」「本人に問題があるのでは」と思うかもしれません。実際、彼女たちは時に支援者からも非難され、救済の道を失ってしまうのです。著者は取材した女性たちを支援団体につなごうと努力したものの、「ひとりとして状況を改善に導けたケースはなかった」ともいいます。
本書はそんな最貧困女子たちのバックグラウンドを掘り下げ、鬼気迫る筆致でその現状を伝えようとしています。ぜひ手にとって欲しい一冊です。
[※1]BIG ISSUE ONLINE『相対的貧困率とは何か:6人に1人が貧困ラインを下回る日本の現状(小林泰士)』より引用
[※2]NEWSポストセブン『貧困女子高生騒動 「相対的貧困」への無理解も原因(女性セブン2016年9月22日号)』より引用
[※3]朝日新聞デジタル『単身女性、3人に1人が貧困 母子世帯は57%』、2011年12月9日。
[※5]厚生労働省雇用均等・児童家庭局『平成27年版 働く女性の実情』
[※4]雨宮処凛『なぜ増える?見えない女性ホームレス。単身女性3人に1人が貧困(雨宮処凛)』、BIG ISSUE ONLINE、2013年6月28日。
[※5]厚生労働省雇用均等・児童家庭局『平成27年版 働く女性の実情』
[※6]ウートピ『「女性も自立すべき」という風潮が貧困を生む ―『最貧困女子』著者が語る、負のスパイラル構造』、2014年12月25日。
[※7] NHK クローズアップ現代+「あしたが見えない ~深刻化する“若年女性”の貧困~」、2014年1月27日)。
[※8]ハートネットTVブログ(NHK)「【取材記】母子家庭の貧困は自己責任?」、2014年04月30日。
[※9]朝日新聞デジタル「母子家庭への養育費、8割が不払い どうすれば防げる?」、2016年2月1日。
貧困女子といっても、背景は様々です。共通するのは支援の手が届いていないこと、そして、誰もが当事者になりうる問題だということでしょう。あなたの隣にいるかもしれない貧困女子の問題に、ぜひ目を向けてみてください。