稲と米の民族誌・だしの神秘・世界全戦争史 新刊紹介(2017/1)

更新:2021.12.15

書評家の永田希が過去2か月の新刊の中から気になった書籍を紹介していくシリーズ。今回は『稲と米の民族誌』『だしの神秘』『世界全戦争史』です。

ブックカルテ リンク

稲作は日本だけのものじゃない!

著者
佐藤 洋一郎
出版日
2016-11-23

植物遺伝学者の佐藤洋一郎氏による、紀行文風の1冊。これまでも米食・稲作についての著作を著してきた佐藤氏ですが、今回は東南アジアからインドや中国といった日本ではない地域の稲作と米の食べられ方を見聞しながら、思索が繰り広げられていきます。

稲作や米食は日本でも非常に重要な文化ですが、著者曰く、稲作と米食のある地域ではどこでも主食にするだけあって独自の文化があり、興味深いことにそれぞれ地域によって多様性があることに思いもよらないくらい、自文化が中心的であると考えていることがわかったとのこと。つまり、もちろん、日本の米食が正解でも正統でもなければ当然ながら唯一絶対でもないということです。

米といっても「うるち米」と「もち米」のような大きな区別があるのはもちろん、品種によって生育できる地域環境が異なっています。「コメ」というテーマひとつとっても、グローバルな視野が開けていく感覚を楽しめます。

著者の他の著作も是非とも手に取って欲しいのですが、『ナチスのキッチン』で有名な藤原辰史著『稲の大東亜共栄圏』もオススメ。これは太平洋戦争の前後、日本の各地で繰り広げられた品種改良の歴史をコンパクトに追ったもの。人類史的な視野でアジアのコメを追ったこの『稲と米の民族誌』と、近現代の1時期に展開された「日本」のコメの歴史を微視的に注目する『稲の大東亜共栄圏』を併せて読むと身近な「コメ」の広大な時空が開かれていくことでしょう。

「だし」その歴史と新旧の知識を動員した実用を手軽に学べる1冊

著者
伏木亨
出版日
2017-01-13

「おいしさ」の専門家、伏木亨が主に昆布と鰹節の「だし」を紹介する1冊です。縄文時代の遺物から「煮物」と「だし」の歴史を語り起こし、日本の歴史と流通網の発達と各地の「だし」の歴史を取り上げ、老舗に蓄積された知識と、現代の科学的な方法を動員しておいしい「だし」の引き方(作り方)を研究するなど、1冊で初心者にも「だし」の薀蓄を広く深く知り始めることができます。

個人的には、昆布や鰹節の種類についての解説がわかりやすく、スーパーに行くのが楽しみになりました。読んだあとにすぐ自分でも「だし」を引いてみたくなること間違いなし。

戦争で辿る人類史。人間、ほんとに戦争やめないよね…

著者
柘植 久慶
出版日
2017-01-06

学校の授業で世界史の教科書を読むのが大好きだった人にオススメの1冊。文体にクセがあるので、人によっては受け付けないかもしれませんが、それを乗り越えられれば、とにかく人類の歴史が21世紀初頭まで網羅的かつ東西混在して書かれているので楽しく読めるはず。

敢えて東西を分けずに書かれているので、同時代性がすごくわかりやすい。ひとつひとつの戦争については第一次・第二次世界大戦は別としてきわめて簡潔に書かれており、ともすればそれぞれの戦争の戦死者や破壊されたものについて思いを馳せて気が沈んでしまうところを、とにかく「飛ばし」て読んでいけるのが最大の長所。そんなことケシカランという向きもあると思いますが、こうしなければ書けないスピード感があるのも事実かも知れません。中南米や中東、東南アジアなど、一般的な戦争史では挿話的に描写されるに留まりがちな領域の戦争についても容赦なく混ざり込んできます。

自分が興味のある時代、関心のある戦争や事件の年代を調べて、その時期に別の場所でどんな戦争が行われていたのかを調べるという読み方が可能で、空間を超えた共通性や差異を読み解くことで「世界史」の見え方も必然的に変わってくるでしょう。正直、こういう本を待っていました。同様の手法の歴史書がこれからも多数出版されて、読み比べることができるようになったらなおいいなあ。

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