インターネットの発展はビジネスのあり方を一変させました。無論、“世界最古の職業”も例外ではありません。オンライン・チャットルームの世界では、ウェブカム・パフォーマーたちが日常の会話からあからさまな性行為まで、何でも商品にしています。そして、いわゆるポルノや売春と違い、この形態でのセックス労働を規制する法律は、ないに等しいのです。
ウェブカム自撮り産業への参入は手軽にできます。必要なのはPC、普通のウェブカム、そして高速インターネット接続と運営サイトへのアクセスのみ。労働時間はフレキシブル、労働環境は安全、悪くない収入も望める。パフォーマーの大半は女性だが、男性やトランスジェンダーもいます。
ChaturbateやMyFreeCamsといったサイトでは、公開チャットルームでのチップ制を採用しています。支払いは客の自主性に一任されており、パフォーマーは性的および非性的行為に対してチップをもらう。パフォーマーにしてみれば稼ぎやすいし、客は比較的低料金で利用できるのです。
プライベート・チャットルームでは、パフォーマーはプライベート・ショーを提供し、分単位で収入を得ます。客は具体的な性行為をリクエストできるのです。公開ルームでのそれと違い、パフォーマンスは極めてわいせつ性が高い傾向にあります。パフォーマーと客はキーボードやマイク、カメラを介して対話ができます。
ところが、消費者と制作者側が新たな可能性をさまざまに試している一方、政府と運動家たちはどういうわけか沈黙を続けているようです。これは妙と言うしかありません。というのも、英政府は性的商売に対する規制強化を進めているからです。
たとえば、2014年には特定行為の描写およびアップロードを禁じる法律が施行されました。さらに、現在審議中の法案デジタル・エコノミー・ビルは、ネット上のわいせつ物に対する未成年のアクセス禁止を目的の一つとしています。
ただし、どちらも取り締まるのは録画物であり、ライブストリーミングは対象になりません。つまり、立法府は事実上、ウェブカムでの自撮りを無視しているのです。このため、ちょっとした矛盾が生じます。ウェブカムであからさまなポルノ行為を見せることはお咎めなしですが、それと同じ行為を録画してアップロードすると、パフォーマーは1万ポンド以下の罰金刑に処される可能性があるからです。
同じくなぜか沈黙を守っている一団が、急進的フェミニストたちです。19世紀、フェミニスト運動の誕生以来、セックス労働に関わる女性は救済が必要な被害者とされてきました。だが現在、ウェブカム・パフォーマーたちはその典型像にはっきりと異を唱えています。
ウェブカム・パフォーマーは往々にして旺盛な起業家精神の持ち主であり、Twitter、Facebook、Tumblrといった大手SNSを利用して、客との関係を構築および維持します。そんな抜け目のないビジネスウーマンを、ソーシャル・メディアを巧みに使い、数千ものファンを獲得しているかもしれない女性たちを、わいせつ行為に関わっているのだから被害者だと決めつける急進的フェミニストの主張には、無理があるでしょう。
ウェブカムでの自撮りを介し、女性たちは長らく男が支配してきたポルノ産業から利益を取り戻す好機を掴みました。しかも、自らのイメージだけでなく、自分を見せる条件や状況までもコントロールできている――それも、比較的安全な自宅にいながらにして、そうしているのです。実際、ウェブカム自撮り産業では、個人が世界市場に参入する道も開かれており、貧困地域に暮らす女性たちが困窮から逃れる機会を掴むことも不可能ではありません。
ただし、ウェブカム自撮り産業は必ずしも、セックス労働者にとってのオンライン・ユートピアではないのです。そこには危険もあります。私が博士論文執筆のための調査の一環として話を聞かせてもらった女性たちは、客にパフォーマンスを録画されてポルノサイトで公開されたり、個人情報を盗まれてストーカー行為や脅迫メール行為に悪用されたりするのではないか、との不安を抱いていました。
とはいえ、ウェブカム産業で大多数を占める素人女性の存在が急進的フェミニストの姿勢、つまり、わいせつ物の制作は女性を貶めるものであり、そうした行為に従事する女性は救済される必要がある、という主張に真っ向から異を唱えていることに変わりはないでしょう。
また、ウェブカム自撮りは女性にセックス労働の場を提供する一方で、巨大な企業利益も生んでいるのです。運営サイトはチャットルーム、支払いサービス、既存の顧客ベースを供する代わりに、パフォーマーの稼ぎの40~65%を取ります。
儲けているのは、運営サイトの経営者だけではありません。ウェブカム自撮り産業における商取引はすべて金融機関を通じて行なわれ、そのたびに金融機関を潤します。Varwijkによれば、金融機関の手数料は7~15%で、通常の2~3%に比べると、かなり高いのです。
ウェブカム自撮り関連の支払いの場合、クレジットカード不正使用の危険性が通常よりも高いというのが理由とのこと。もっとも、Varwijkによれば、cams.comを営んで15年になるが、支払い拒否を受けたのは全商取引のわずか0.03%だといいます。
ウェブカム自撮り産業を動かしているのは、低俗なポルノ制作者でも悪徳商でもありません。まったく別の勢力――主流派の企業なのです。これといった被害者は見当たらず、金融取引は公明正大。ウェブカム自撮りの世界は今、立法府を、そして反セックス労働運動家たちを当惑させています。少なくとも当分の間、起業家精神旺盛な女性たちは、自らがそのあり方を決められる合法のセックス産業に自由に参入できるのです。
The Conversation誌(theconversation.com)より転用
レイチェル・スチュアート(Rachel Stuart):ケント大学の大学院生
Photo:(C)WENN / Zeta Image
Text:(C)The Independent / Zeta Image
Translation:Takatsugu Arai
- 著者
- 羽山 大輔
- 出版日
- 2000-11-25
- 著者
- 鳥胸インターネット
- 出版日
- 2016-11-02
- 著者
- 中山 美里
- 出版日
- 2015-08-20