“遊びの時間はすぐ終わる”
母親と食料品の買い出しに一日おきに行った「ショッピングセンター・セール・フレンドリー セフレ」。やがて放課後友達と一緒に行くようになったセフレ。東京に行った「私」と地元で母になった加賀美。2人が久しぶりに会う場所もまたセフレであった。
“どちらの世界とも、微妙に反りが合わないけど。わたしはその中間で、どっちつかずにぷらぷら浮遊している”
このショッピングセンターに相当する少し大きめのスーパーが自分にもある。しばらく会わなくて、環境も違うとなると感覚の違いに気づくことは少し寂しくもあるけれど仕方のないことだ。
“遊びの時間はすぐ終わる”
11編から成る短編小説集。
人間としての「生き方」
大学を卒業して働きながら小説を書いている栞は、同じ大学の先輩である紙川さんと付き合っている。栞は紙川のことが好きで大事に思っているけれど、彼から大して影響は受けていないと思っている。その2つは彼女にとっては関連のないことなのです、きっと。紙川さんとお別れしてしばらく、また付き合おうという彼に栞はこう答えます。
「ひとりの愛より、みんなの小さな好意をかき集めて、生きていきたい」
この言葉に彼女の生き方が投影されているように感じました。男性でも女性でもなくひとりの人間としての生き方を、栞はこの時には選んでいたのだと思います。
悩んだり考えたりする暇もない
三段跳びにオペラにネズミの飼育。突然何かのきっかけで、四六時中そればっかりになる。ジュゼッペは町の人たちからトリツカレ男と呼ばれている。そんなジュゼッペが出会って夢中になった少女、ペチカ。彼女の、笑顔の底に見えるくすみを取り除こうと突っ走るのですが、それまでトリツカレてきたことが、一つひとつジュゼッペの力になって不思議な方法で叶えていきます。
とにかくペチカの心配ごとが、わずかでもなくなることしか頭にないジュゼッペ。だからジュゼッペには自分の人生について悩んだり考えたりする暇もないのです。“完璧な春がきたのさ”と物語の本編は終わる。
この物語の中には、完璧な春があるのです。