デヴィッド・ボウイ新刊紹介、野中モモ本と吉村栄一本

更新:2021.12.16

書評家の永田希が過去2ヶ月の新刊の中から気になった書籍を紹介していくシリーズ。今回はデヴィッド・ボウイの評伝を2冊とりあげます。

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デヴィッド・ボウイとは

デヴィッド・ボウイは、2016年1月に急逝したロックスター。グラムロックと呼ばれるジャンルのアイコンとして世界的に認知されながら、死の直前までロックや音楽に留まらない意欲的な活躍を展開しました。今回とりあげる2冊は、そのボウイの足跡を追うもの。現代でも、その影響を公言する各界のクリエイターが多い彼の生涯を時系列で遡ると、様々な「カルチャー」の今と未来が見えてくるかも知れません。

世界中のクリエイターとの交流を読みやすくまとめた1冊

著者
野中 モモ
出版日
2017-01-05

『キム・ゴードン自伝』『ポストパンク・ジェネレーション』などを手がけ、自身でも自主制作出版物のオンラインショップ「Lilmag」の店主をつとめる野中モモ氏。野中氏は、ボウイの回顧展「DAVID BOWIE is」の図録も翻訳されました。

1947年ロンドン生まれのボウイ(本名はデヴィッド・ロバート・ジョーンズ)が、2016年に69歳で迎えたその早すぎる死までに生きた時代を、
・1960年代中頃までの約20年
・ソロデビュー後の5年間の試行錯誤
・最初の代表作「ジギースターダスト」がリリースされた1970年代初頭
・ジギースターダストから内省的な「ベルリン3部作」に至る数年間
・「ポストパンク」と呼ばれるジャンルが一世を風靡する1980年代から1990年代初頭
・円熟期を迎えなお衰えぬ創作意欲を示した20世紀末から2000年代の活動
・最後の3年間
の7章構成で紹介しています。

1970年代に「ジギー・スターダスト」でブレイクし、1980年代に「レッツ・ダンス」で国際的なスーパースターになり、世界で約1億4千万枚ものアルバムを売ったミュージシャンであるのみならず、映画や演劇、美術やゲームにまで真剣に取り組んだ「マルチメディア・アーティスト/クリエイター」であったボウイの多彩な側面を紹介しつつ、本書はその「多彩」の意味に迫ろうとしているようにも読めます。

博覧強記の著者ならではの、東西南北の同時代の各ジャンルを横断する固有名が多数散りばめられていることが本書の最大の美点です。読みやすくコンパクトにまとめられているのがとても嬉しい。なかでも、日本の女性向け漫画に与えた影響に言及してくれているのは個人的にとてもありがたい。ボウイと同年生まれの大島弓子を中心に、山岸凉子、木原敏江、萩尾望都の作品そしてもちろん雑誌『JUNE』にも触れています。

ボウイの人となりに触れる評伝

著者
吉村栄一
出版日
2017-01-08

上に挙げた野中氏よりもひと世代年長で、1990年代からボウイに関して多くの媒体に執筆、2008年の『リアリテイ・ツアー』から遺作となった『★』までのアルバムのライナーノーツを担当し、ボウイの逝去直後の追悼文が全国の新聞に掲載されるなど、ボウイと深く関わってきた吉村栄一氏の手になる1冊。

本書もボウイの生涯を追ったものですが、とりわけ日本に関するエピソードを意識的に多く盛り込んでいます。

本書の章立ては、生誕からデビュー前の約20年と、2000年から2012年を扱った第13章を除くと、すべて数年単位で切り出されており、刻々と変化したボウイの足跡を寄り添うように読み進めることができます。

また巻末にはオリジナルアルバムの全ディスコグラフィー、そしてその他の主なアルバムと映像作品の紹介も掲載されており、この著者がこの版元(ディスクユニオンの出版部であるDUBOOKS)で刊行している意義を感じます。それぞれ収録曲と参加ミュージシャンの一覧やジャケットアートワークのバリエーションも掲載されており、何かと重宝しそう。

また本書の著者には『坂本龍一 いまだから読みたい本』『戦場のメリークリスマス 30年目の真実』の編著があり、ボウイと親交の深かった坂本龍一サイドからの視点もふんだんに盛り込まれています。

全体的に、個人としてのボウイの等身大の視点を感じさせる文体でとても感情移入を誘う本書ですが、特に著者自身と接近し始める本書後半は、やがて訪れるボウイの死を知っている現在から読むと涙腺にくるものがあります。

そのほかボウイが日本で出演した旭酒造のCMの裏話や、日本人歌手サンディーが語るエピソードなど、非常に生々しく興味深いもの。ボウイの人となりを知りたい読者にもオススメの1冊です。

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