フェミニストについて理解し、あなたの価値観を変える5冊

更新:2021.12.16

フェミニズムというと何をイメージしますか?単純に男女平等を訴えるものだと思いがちですが、社会学、歴史学、政治学などにも関わる大変複雑な分野で、それに関する書物は多数あり、論点も見解も様々です。今回はその中からお勧めを5冊ご紹介します。

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ジェンダー論入門書

フェミニズムをはじめて学ぶ方には、『女性学/男性学 (ヒューマニティーズ)』がおすすめです。著者である千田有紀氏は、日本における「家」という封建制度を専攻研究したのち、現在は武蔵大学教授として教鞭をとっている社会学者です。フェミニストの大家である上野千鶴子の弟子でもあります。

本作出版の発端は、普段は難しい論文を書いている著者に対して編集者が「高校生でも読めるように」書いてほしいと依頼したことが始まり。ですから彼らに向けて書くために、文章は話し言葉に近い「です、ます」調で、構造はシンプルに、あまり話を飛躍させたり深く追求しすぎたりしないよう配慮したといいます。

著者
千田 有紀
出版日
2009-11-27


著者ははじめに、女性史を問う前にそもそも「女性」は存在するのかという問いを投げかけています。人は皆、男や女である前に1人の個です。しかし社会においては、自明のものとして考えられてきた女と男というカテゴリに振り分けられてしまっているもの。ここに疑問を持つことから本書は始まっています。

社会学的に見て「性別」はどのような歴史をたどり形成されてきたのか、女性学においてどのような考え方がされてきているいのか、これからの女性学、男性学はどういった方向に進むのか。男性学についてはそれほど多くは触れていませんが、女性学の概説としては十分充実した内容になっています。フェミニズムの入門書としても、最適な1冊といえるでしょう。

女性の身体的問題に焦点を当てた

国内外のフェミニズムについて、女性の身体、健康問題に焦点を当てて書かれた『女のからだ : フェミニズム以後』。著者である荻野 美穂は、女性史やジェンダー研究を専門とする歴史学者です。本書では1970年代に全米で始まり日本のウーマン・リブ運動に大きく影響を与えた「女の健康運動」について、詳しく解説しています。

著者
荻野 美穂
出版日
2014-03-21


妊娠、出産というイベントは女性の人生において多くの制約を生じさせるものであるにもかかわらず、長年において産む産まないの選択を個人ではなく社会的な圧力によって定められてきました。中絶や避妊を否定的にみる風潮、ホルモン剤によって妊娠をコントロールされ健康を害した女性たち。しかも女性の身体を扱う医者のほとんどは男性で、子宮や卵巣を子供をつくる部品としかみていないと著者は言います。

女性は自らの子宮や卵巣、月経、妊娠、性に関する問題となると、周囲にも隠し通す傾向があります。今もその風潮は色濃く残っていますが、フェミニズム運動が起こる以前はもっと顕著でした。女性たち自身のからだの問題であるにもかかわらず、それが論じられる時、個々の人格は無視され続けてきたのです。

フェミニズム以後、女性たちはこれまで社会に支配された自分たちのからだを取り戻そうと立ち上がりました。本書はそのきっかけになった時代背景や事件などについても触れながらまとめられています。身体的な問題は、ジェンダー論において避けて通れません。女性学について学ぶなら必読の一冊です。

多くのフェミニストたちの原点

鍼灸師でもある著者田中美津氏は、1970年代日本のウーマン・リブ運動における中心的な指導者として有名です。日本のフェミニズム運動の種を蒔いた伝説的人物であり、『いのちの女たちへ―とり乱しウーマン・リブ論』は約40年前に著者が初めて書いた本として知られています。学術書ではなく著者が運動をおこすに至った経緯が記された自伝的書物ともいえるでしょう

女が「母」か「便所=性欲処理機」の二通りのイメージしか持たれていなかった時代。8歳で性的被害にあい、中学生のときに母が不感症であることを知る彼女。しかし本書はそういった過去にとらわれる女性の物語ではありません。もっと強く自分の生き方を模索した強い女性の生の声が綴られているのです。

著者
田中 美津
出版日


ウーマン・リブ運動は、世間からたくさんの嘲笑と非難を浴びてきました。男性を敵と見ているとみなされたり、もてないブスのひがみによるものだと言われたり。しかし彼女らはただ、「自分」として生きたかっただけなのではないでしょうか。社会が持つ女性のイメージ、男性が持つ女性のイメージによるカテゴリから自由になりたかったという思いが本書から感じられます。そうでなければ、平穏に快適に生きていくことなどできなかった時代だったようです。

元々研究者ではない人物による著作なので、構造的な文章ではなく、かといってエッセイのように気軽さもありません。本のタイトルにもあるように、とり乱しながらも「いのち」を論じています。それは闘いつづけた女の心の叫びであり、今もなお多くのフェミニストたちの原点となっているのです。

教育を受けられる権利は当たり前じゃない

今回ご紹介する中で世界的に最も知名度のある本は、この『わたしはマララ: 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女』でしょう。現代日本では男女平等に学校に通い教育を受ける権利を持っているのが当たり前となっていますが、世界に目を向けると決して当たり前ではないということを気づかせてくれる本です。

著者はただ学校に通っていただけで、タリバンに銃を向けられました。タリバンから逃げるため、大切な本を捨てていかなければいけない悔しさ。暴力によって、勉強する権利を奪われそうになる現実。しかし聡明で勇敢な彼女は負けませんでした。

著者
マララ・ユスフザイ クリスティーナ・ラム
出版日
2013-12-03


国連で演説したスピーチが有名な彼女。見たことのある人は、テレビでスピーチをする彼女を堂々としていて、カリスマ性に満ち溢れた特別な人のように思っている方が多いのではないでしょうか。しかし本書を読むと、ごく普通の女の子の感性ももって生きてきたことが感じられます。

彼女が求めていることは、決して特別なことではありません。人種や性別に関係なく、学びたいと思う人が教育を受けられる世の中になってほしいというふつうの願いです。そんな世界中の多くの女の子たちの気持ちを代表して声を上げた、その勇気が人々の心を動かしました。

日本では当たり前のように学校に通い、将来のため大学に受かるためという理由から勉強し、入学した大学ではまともに勉強もしない学生もいます。学ぶことができる権利というものが、いかに尊いものなのか、男性も女性も再認識する必要があるのではないでしょうか。フェミニズムの問題だけではなく、様々な問いに直面させられる1冊です。

第一線の社会学者による研究結果を集約

本格的に社会学と女性学に取り組みたい方におすすめなのが『差異の政治学』。ジェンダー論や女性学において数々の著書を執筆し、辞書や辞典などの共編著者も務めた東大名誉教授、上野千鶴子氏による著作です。彼女はジェンダー問題を論ずる時に必ずと言っていいほど名前が出てくる人物ですよね。

本書には、上野氏が1990年代に執筆した論文を加筆修正したものが収録されています。これまでご紹介した本の中では最も専門的で、基礎知識が無い方は読みにくく難解に思えるかもしれません。しかし性別だけに限らない「差異」の問題について著者の研究結果がギュッと集約されており、多くの人に読んでほしい読み応えのある内容になっています。

著者
上野 千鶴子
出版日
2015-11-28


人間を女性と男性に分けて考えるのも、健常者と障害者、白人と黒人を区別して考えるのも、すべてそこに「差異」を見出しているからで、それらは常に差別を伴うものです。本書ではジェンダーの問題を「差異」という広い意味でとらえつつ、歴史や労働などのテーマごとに深い考察が述べられています。

そもそも性差はどこから出てきたのか、歴史上どんなふうに扱われてきたのか。労働においてジェンダーの問題はどのように変容してきて何が問題となってきたのか。全ページをサラサラと読み流すような本というよりは、読者の研究テーマに沿った章を読み込んでいくような本といえるかもしれません。

著者は各分野で過激な発言をして世間を騒がせてきた人物です。『差異の政治学』からも感じられますが、著者の論点は決して一つの方向から批判したり擁護したりするものではありません。常に多角的に、マクロもミクロも見据えたうえで論じられたものなので、騒がせることは多いですが冷静な人物像が見えてきます。

多くのマスコミがそうであるように、社会というのはつい一方的な見解に偏りがちになり、個人もそれに流されてしまいがちです。本書ではそんな中で常に別方向から見て切り込んでいく著者の意欲的な姿勢が感じられます。女性学やジェンダー論だけでなく、社会学の在り方について学び考えさせられる本です。

男性と女性、人間はこのふたつに分類され、それによって社会的役割も分けられると長年考えられてきました。しかし現代では男女平等が唱えられ、女性の権利が主張されています。一見改善されたようですが、その潜在的なカテゴリ分け事体も、社会の中で生み出されてきたものなのです。人は、男性や女性である前に1人の「個」である。この5冊はそれを改めて感じさせてくれる本です。

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