桶川ストーカー殺人事件や足利事件など、世間に衝撃を与えた数々の事件を、執念の取材で報道をし続けてきた清水潔。今回は、読者に衝撃を与えるであろう、清水によって著された5冊の本をご紹介します。
清水潔は1958年、東京に生まれたジャーナリストです。週刊誌『FOCUS』編集部にて事件専門記者として活躍した後、日本テレビ報道局記者の解説委員となりました。
1999年に起きた桶川ストーカー殺人事件では、警察より早い段階で容疑者を割り出し、上尾警察署によって行われた被害者告訴のもみ消しをすっぱ抜きました。
2007年からは、足利事件を含む北関東連続幼女誘拐殺人事件の取材を再スタート。その過程で、既に刑が確定していた無期懲役囚について、冤罪を疑うようになります。やがて当時受刑者だった人物は、DNA再鑑定で不一致とされ、釈放されることとなるのです。
また、北関東連続幼女誘拐殺人事件を扱い、2016年に話題を呼んだ「文庫X」は、清水による『殺人犯はそこにいる』であることが公表されています。初版は3万部でしたが、2016年12月初旬には累計18万部までのヒット作へとのし上がっていきました。なお同作は、日本推理作家協会賞評論その他の部門、新潮ドキュメント賞を受賞しています。
その他にも、清水が制作を担当し、2015年に放送された『日テレNNNドキュメント 南京事件 兵士たちの遺言』は、ギャラクシー賞優秀賞、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞、日本民間放送連盟テレビ報道部門優秀賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞公共奉仕部門などに輝いています。2016年には『「南京事件」を調査せよ』が刊行されました。
それでは「伝説の記者」と呼ばれる清水潔が著した5冊の書籍を、ご紹介していきましょう。
北関東の小さなエリアの中で、17年の間に5人もの幼い少女が姿を消した、北関東連続幼女誘拐事件。遺体で発見された被害者も、行方不明のままの被害者もいる中で、犯人はまだ捕まっていません。足利事件で警察は、無罪の菅家利和さんを逮捕し、17年もの間、刑務所に閉じ込めていました。しかしこれは無実の罪で1人の人生を狂わしただけではなく、同時に「真犯人」に「時効」という特典までも与えてしまったのです。
- 著者
- 清水 潔
- 出版日
- 2016-05-28
桶川ストーカー殺人事件を独自の取材で解決に導いた記者清水潔が、改めて警察が自己保身のために情報を流し、マスコミがそれに踊らされるかを伝えるため、そして幼い少女達が理不尽に姿を消したことを伝えるために書いたノンフィクション『殺人犯はそこにいる』。
新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞を受賞し、「調査報道のバイブル」とまでいわれた1冊です。刻銘に記録された取材記録をもとに書かれた内容は、当然の如く真に迫っており、普段身近に感じることのなかった事件を隣に感じさせてくれます。
テレビや新聞の向こうに見る「冤罪」や「事件」は、どこか遠くのように感じます。しかしまえがきで著者が「日本のどこにでもあるようなその街で、あなたが住んでいるかもしれない普通の街で、あなたは刑に服することもない『殺人犯』と、日々すれ違うことになる」(『殺人犯はそこにいる』より引用)と述べているように、それらは自分達のすぐ側にあり、明日巻き込まれるのは自分かもしれないと考えさせられることでしょう。
1999年10月26日、埼玉県のJR桶川駅前で、執拗なストーカー被害にあっていた女子大生が刺殺される事件がありました。被害者をストーカーした挙句に殺害するという悲惨な事件は世間の注目を集めましたが、「犯人」はなかなか捕まりませんでした。
被害者をストーカーしていた男が犯人だとわかっているのに、証拠は何もなく、報道だけが過熱する日々。しかしそんな中で、誰も被害者の「遺言」を聞こうとする者はいませんでした。ただ1人、事件記者の清水潔を除いては……。
- 著者
- 清水 潔
- 出版日
- 2004-05-28
ストーカー規制法が成立するきっかけにもなった悲惨な事件は、当時、警察のずさんな捜査や隠蔽などによって、犯人逮捕どころか、被害者の名誉を汚すような報道が過熱していました。そんな中で1人、事件の真相を追いかけていく記者の姿は、まるでミステリー小説のような印象すら受けます。
もちろん全て真実の話ですが、これが真実だとすると、悲しみや怒りや怖れなど様々な感情が湧き出てくるでしょう。著者が「進んでしまった時計の針を戻すことは出来ない。あの日、事件は起こってしまった。だが、なぜだったのか?」(『桶川ストーカー殺人事件―遺言』より引用)と思うように、被害者を救う手立てはなかったのかと考えてしまわずにはいられません。
1999年に埼玉県桶川市、JR桶川駅前で起こった桶川ストーカー殺人事件。警察の怠惰な捜査に加え、報道の過熱によって亡くなった被害者はもちろん、遺族もひどく傷つけられました。そのような中で、清水潔の執念深い取材は、とうとう犯人を特定し、追いつめ、逮捕にまで繋がっていくのです。
本作『遺言―桶川ストーカー殺人事件の深層』は、悲惨な事件の裏側と、警察の不祥事、被害者の無念、そして犯人を特定して逮捕にまで繋がっていくまでの150日間を刻銘に記録したノンフィクションです。
- 著者
- 清水 潔
- 出版日
当時、「ストーカー」という言葉は、まだあまり世間に知られていませんでした。その中で、警察の怠慢をはじめ過熱する報道に、被害者は繰り返し傷付けられていきます。事件に対する衝撃や悲しみはもちろんのこと、真実を突き止めるために動く記者が孤独になっていく姿にも考えさせられます。
ノンフィクションゆえに辛いものもありますが、事実だからこそ胸に迫ってくるものがある1冊です。
桶川ストーカー殺人事件や足利事件など、独自の調査報道で世間に衝撃を与えた清水潔が、その30年以上の取材経験から「真実の見極め方」を書いた1冊『騙されてたまるか 調査報道の裏側』。
桶川ストーカー殺人事件を始め、強殺犯ブラジル追跡、函館ハイジャック事件、三億円事件などの取材をはじめ、調査報道とはどういうものであり、世間にとってどう必要なものであるのか、そして報道が時として人の命にまで関わってくるものであることなど、作者の記者人生の集大成ともいえるノンフィクションとなっています。
- 著者
- 清水 潔
- 出版日
- 2015-07-17
取材の記録だけではなく、情報が氾濫する世の中で何が「正しい」のかと突き付けられる本です。作中で著者は、こう述べています。
「自分の目で見る。自分の耳で聞く。自分の頭で考える――。言葉にすると、当たり前のように思えるかもしれないが、他に方法はない。(中略)氾濫する情報に対して、“防波堤”を持たずに巻き込まれるのではなく、自らの判断で『何が本当で、何が嘘なのか』を判断することが重要なのだ」(『騙されてたまるか 調査報道の裏側』より引用)
真実を見極めることは、事件記者のような仕事をしていなくても大切なのだと改めて考えさせられます。同時に、「真実」を突きとめようとする作者の取材に対する執念がページをめくる度に伝わってくるので、一度読みだしたら一気に最後まで読んでしまうことでしょう。
戦後70周年記念として制作されたテレビ番組『日テレNNNドキュメント 南京事件 兵士たちの遺言』に、さらに取材を重ねて書籍化された本書『「南京事件」を調査せよ』。
今でも様々な議論を呼ぶ「南京事件」は、多くのメディアが報道を避けてきたものでもありました。しかしそんなメディアの姿勢を疑問に思い、さらには戦争の時代を知らない自分達は戦争と無関係だといえるのかと考えた作者は、テレビ番組という時間や枠が制限された中では伝えきれなかったものを本書に記します。
- 著者
- 清水 潔
- 出版日
- 2016-08-25
本書の元となった、戦後70周年記念として作られたテレビ番組。戦争を知っている世代が少なくなり、戦争を知らない世代が日本のほとんどを占めてきている中、改めて戦争とは何かを考えさせられます。もちろん作者である清水潔も戦争を知らない世代で、本書の中でもこう述べています。
「本書は、戦争をほとんど知らなかった事件記者が、ひたすら調べ続けて書いたものだ。だからこそ、戦争を知らぬ人に読んで欲しいと願っている」(『「南京事件」を調査せよ』より引用)
「南京事件」についての取材記録はもちろんのこと、歴史を自ら知ろうとすること、そして考えることの大切さも感じさせる1冊です。
ノンフィクションだからこそ、読むのが辛くなるほどの真実もありますが、清水潔による本から学ぶべきことは盛りだくさんです。この機会に、ぜひ手に取ってみてくださいね。