知っているようで知らない児童労働の実態。今回は児童労働を学ぶときに役立つであろう本を4冊、ご紹介します。絵本から調査書まで、そのスタイルは様々ですよ。
インドと日本に住む9歳の少女の日常を比較しながら綴った児童書『ふたり★おなじ星のうえで』。インドに住む少女の日常を切り取った写真は、途上国や紛争国を飛び回る写真家谷本美加によるもの。一方、日本に住む少女は、イラストレーター塚本やすしが担当しています。写真と絵、そして詩人谷川俊太郎の文章で描き出される彼女たちの生活は、大人が読んでも考えさせられる作品となっています。取材協力は、国際協力NGOハンガー・フリー・ワールド。
- 著者
- ["谷川 俊太郎", "谷本 美加"]
- 出版日
南インドの村に住む少女ラマデビは、Tシャツの元になる綿花栽培の仕事をしています。朝の水くみから始まり、1日中働かなくてはいけません。そんなラマデビが育てた綿花で作ったTシャツが埼玉に住む春佳のもとに届きます。環境の違う2人の繋がりが描かれていきます。
本書は児童労働の現実を知るために、大人にとっても必読であろう1冊です。また、途上国の児童支援のために本の収益の一部が使用される点も魅力的ですね。
児童労働の撤廃と、予防に取り組む国際協力NGOのACE事務局長白木朋子による『子どもたちに幸せを運ぶチョコレート: 世界から児童労働をなくす方法』。
バレンタインをはじめ、日本では日常的に食べられるチョコレート。その原料になるカカオはインドの綿花と同様、子どもたちの労働力が支えになっていることを学べる1冊です。その奴隷的ともいえる児童労働は、子どもたちが学業に就くことを阻みます。彼らの未来が犠牲になっている現実を思い知らされます。
- 著者
- 白木 朋子
- 出版日
- 2015-02-20
本書でも紹介されている、児童労働から子どもを守り、教育を充実させるというACEによる支援活動「スマイル・ガーナ プロジェクト」には誰もが賛同することでしょう。日本では、児童労働のない「しあわせを運ぶチョコレート」が、森永製菓「1チョコ for 1スマイル」キャンペーンと協働して発売されるようになりました。
この本を読むことで児童労働の実態と、私たち一人ひとりがそれに対してどのようにアクションできるか、ということを学べます。今度チョコレートを買うときには、商品パッケージに注目することになると思いますよ。
大人たちの都合で戦場に駆り出された子ども兵の実態やその原因、さらには解決策まで網羅した『ぼくは13歳 職業、兵士。―あなたが戦争のある村で生まれたら』。読者は、冒頭の「ウガンダの子ども兵からのメッセージ」から、衝撃の現実を知ることになります。
「ぼくは2人の人間を殺した。
AK47と呼ばれる小型武器で。
小型武器とは、
ぼくたち子どもでも扱える小さくて軽い武器のことだ。
(中略)
ぼくらのことを
チャイルドソルジャー(子ども兵)と
人は呼ぶ。
小型武器を持って戦う兵士だからだ」(『ぼくは13歳 職業、兵士。―あなたが戦争のある村で生まれたら』より引用)
- 著者
- ["鬼丸 昌也", "小川 真吾"]
- 出版日
多くの人が実際には見たことのない国で続く戦争の背景には、宗教の違いなどだけではなく、複雑なものがあるようです。一見私たちには関係ないと思われるそれらの出来事の裏側で、先進国が武器ビジネスによって利益を得ているという事実からは目を逸らすべきではないでしょう。
戦闘マシンのように知り合いを殺戮しなければならない子ども兵、性的虐待を受ける少女兵。保護された後も精神的に社会復帰できない子ども……。目を覆いたくなるような現実は、子ども兵問題を考える上で知らなければいけないものでしょう。
著者である鬼丸昌也と小川真吾がそれぞれ理事長、理事を務める特定非営利活動法人テラ・ルネッサンスの目標は、「地雷」「小型武器」「子ども兵」「平和教育」という課題の解決。「あとがきにかえて」では、子ども兵だったというウガンダの少年オイェット君(仮名)が紹介されています。壮絶な過去を生き抜いた彼は、希望を忘れませんでした。そして彼はこう語ったそうです。
「ぼくは世界中を旅していろいろな人たちのことをもっと知りたい……。ぼくたちのことをもっと世界中の人に伝えたい。
もし、みんながそうやって、お互いのことを知り、いろいろな考えを理解しあえば、きっとぼくたちが戦ってきたような戦争は終わると思うんだ」(同書より引用)
世界人類の一員として、自分たちに何ができるか考えるためにも読むべき1冊でしょう。
『インド児童労働の地をゆく』。フィールド調査に基づき、インドでの児童労働の現実などをまとめた『インド児童労働の地をゆく』。
たとえば第2章では、過酷な環境下、シバカシという村のマッチ工場で働かされる少女たちが紹介されています。厳しい自然環境の地域であるシバカシ村では、「土地なし農民(労働者)」(同書、49頁より引用)も多く、選択肢ーー家族が全員季節労働で働くか、子どもをマッチ・花火工場で働かせるかーーは限られていると指摘します。彼らの教育の機会は失われ、他の町で就業することさえできないのです。さらに「高利の農村金融の犠牲者」(同書、50頁より引用)でもあるというシバカシ村の人々。このように、シバカシ村からは「飢餓的貧困の連鎖に閉じ込められた農村の姿」(同書、50頁より引用)が見て取れるのです。
本書では引き続き、イギリス植民地時代にまで遡り「マッチの生産過程」を考察し、女児労働が増加した理由、90年代後半から始まった、NGOなどによる児童労働反対運動の高揚から強まる法的規制や取り組み、それらの限界点などが述べられています。以上のように1章分だけでも、学べることは盛りだくさんです。
- 著者
- 田部 昇
- 出版日
他にも、インド特産の工芸品製作を担わされる不就学児童たち、大都会カルカッタのスラム化した街で働く子どもたちなど、インドにおける児童労働の実態が学べます。読者は、本書で取り上げられた子どもたちの運命とは何なのか考えさせられることでしょう。
また、終章では「いわゆる『インドの経験』は教育と社会の二重性や、その根底にある頑強で、硬直した制度・慣習の克服こそ経済・社会発展のために乗り越えなければならない最大の課題であることを教えていると思う」(同書、249頁より引用)と述べられています。インドにおける児童労働の終焉に向けて、学ぶべきことが詰まっている1冊です。
子どもたちの未来を守るという大人の責任が問われる時代です。大人の都合で働かされる児童労働は未来の社会をも揺るがす大きな問題といえるでしょう。今一度、その問題について考える時間を作ってみてはいかがでしょうか。