世界的数学者として数々の功績を残した岡潔。昭和時代を生きた生粋の日本人で、誰よりも「情緒」を重んじる人でした。また優れた知識人でもあり、常に日本の将来を案じながら自らの作品を発表し続けたといいます。そんな彼の著作のなかでも特におすすめしたい5作品をご紹介していきます。
1901年に大阪府で生まれた岡潔。数学・理科学に精通し、朝日文化賞や文化勲章を受けるなど、研究分野において素晴らしい功績を残しています。
岡の著作は彼が創造した数学的世界に基づいて綴った随筆が多く、その研究以上に広く人々に親しまれています。彼の純日本人らしい情緒を重んじる世界観と論理的な語り口からは、作家としての才能をうかがい知ることができるのです。
作家としての活動は晩年である1963年に発表した『春宵十話』から始まりました。初期は日本の未来を憂う文章が多く見られましたが、世界を俯瞰するうちに「日本は安泰である」と確信し、作風に変化がみられています。
本書は、世界的数学者である岡潔が、幅広い世代に向けて記したエッセイ集です。
文系・理系に関わらず面白く読める一冊となっています。
- 著者
- 岡 潔
- 出版日
- 2015-12-14
本書の魅力は、タイトルのイメージとは違い、数学者としてではなく情緒を重んじる純日本人「岡潔」としての一面を見ることができる点です。一節を引用してみましょう。
「敬虔ということで気になるのは、最近「人づくり」という言葉があることである。人の子を育てるのは大自然なのであって、人はその手助けをするにすぎない。「人づくり」などというのは思い上がりも甚だしいと思う」(『岡潔 数学を志す人に』より引用)
なんとも古風で信心深い思考がうかがえます。時代によって失われてしまった昔の「日本人らしさ」が、岡のすべての思考の基盤です。このような考え方と流麗な文体が評価を受け、本書には今でも数多くのファンが付いています。
明治・大正時代の日本のスタンダードであった「情緒」に触れてみませんか。
岡が語る数学的世界について触れた一冊です。
数学とはいかにして学ばれるべきか、そして教育とは何なのか……教育問題の本質に訴えかける普遍的作品となっています。
- 著者
- 岡 潔
- 出版日
- 2006-10-12
本書で彼が一貫して語るのは、「数学を勉強するために必要なのは情緒である」ということです。情緒を理解することが数学の理解でもあり、論理的思考の第一歩となります。
なかでも注目したいのが、「発見の喜び」ということ。勉強の過程で必ず出会う「問題が解けた時の達成感」は、誰もが1度は経験したことがあるのではないでしょうか。それがやがて、新たな数式を証明する喜びに変わり、彼は数学にのめり込んでいったのだそうです。
このような教育の根本にある「発見の喜び」や「つまずき」などを例にとり、「学ぶということ」について記します。
長年学問を研究していた岡だからこそ語ることができる「学問の面白さ」を知ることで、学生でなくとも何かを勉強したくなる魅力的な一冊です。
本書は、幅広い教養に精通する岡潔の思考を余すところなく綴った一冊です。
数学だけに限らず科学や芸術、教育など多岐にわたるテーマについて論じています。
- 著者
- 岡 潔
- 出版日
- 2014-05-24
本書の魅力は、教養人としての岡が語る学問について、余すところなく体感できる点です。通常なら敷居の高い学問も、体系立てて論じてくれています。
たとえば「哲学」について。岡が考える「自分」について語った文章を引用します。
「自分というものは何だろうか。自分は本当に在るのだろうか。在ると思っているだけなのだろうか。(中略)自分というものがあると思っていることがあるだけだというのが正しいように思える」(『春風夏雨』より引用)
「自分」というものは極めて希薄なもので、もしかすると「ある」と思っているだけなのかもしれない……なかなかとっかかるのが難しい哲学的問題に言及します。日ごろは触れる機会のない学問を、ひとりの教養人の目線から見ることができる一冊です。
本書は、誰よりも日本人としての情緒を重んじていた岡潔の、名著ともいえる一冊です。
数学以外の教養にも造詣の深い作者から、若者に送るエールが綴られています。
- 著者
- 岡 潔
- 出版日
- 2015-04-03
かねてから岡が述べている、日本人に必要な情緒。それは野道に咲く花を「美しい」と素直に感じられる心です。数学者として学問を研究する彼には似つかわしくない発言にも思えますが、「心で感じること」が数学の分野においても新たな世界を創造できる力になる、ということが岡の一貫した主張なのです。
このような考え方をもとに、現代の若者の生き方、人間の未来について論じています。
「『君のクラスにはよくできる人が多いが、なぜだろう』と聞くと、その男は『それは先生がいなかったからです』と答えたということです」(『情緒と日本人』より引用)
「教える人間がいなければ、人は自分で考えるようになる」という特性を良く表した一文です。これは本書が出版された昭和時代の若者に対してのアドバイスですが、いつの時代にも通じる普遍性を持っています。
本書は、数学者である岡潔と、文芸評論家である小林秀雄の対談集です。
2人の天才による知的な雑談が楽しめる一冊となっています。
- 著者
- 小林 秀雄
- 出版日
- 2010-02-26
本書の魅力は、対談というよりも「雑談」と呼ぶのがふさわしいような岡と小林の軽妙な会話の数々です。それをよく表しているのが、冒頭の部分。
「小林:今日は大文字の山焼きがある日だそうですね。ここの家からも見えると言ってました。
岡:私はああいう人為的なものには、あまり興味がありません。小林さん、山はやっぱり焼かない方がいいですよ。
小林:ごもっともです。」
まさに単なる「雑談」ですよね。このような軽いトーンで続いていく会話のなかに、学識者らしい知的なエッセンスが加えられるのです。それは時に学問分野に関することであったり、時に世間に対する批評であったり。知識人の率直な考えが垣間見える面白い一冊となっています。
岡潔の書く文章は、常に情緒的かつ流麗で、読む人に深い納得と知見を与えてくれます。前時代的な考え方と感じる部分もあるかもしれませんが、それも昭和の日本に確かに存在していた考え方。ぜひ数学者であり教養人である岡の世界を楽しんでみてください。