国内外の飢餓原因や解決策などを学べるおすすめ本4冊

更新:2021.12.16

世界には飢餓に苦しむ人々が約8億人。実に9人に1人が困窮しているという計算になります。しかしこのような飢餓問題は、なぜ起きているのでしょうか。今回は飢餓の実態と原因、そしてその解決策を学ぶためには欠かせない4冊の本をご紹介します。

ブックカルテ リンク

飢えは「運命」なのか?

『世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実』は、世界の飢餓問題をわかりやすく解説した入門書的書籍です。本書では、飢餓問題研究の第一人者でもある、ジュネーブ大学のジグレール教授が、飢餓問題に関する息子からの質問に丁寧に答えていくという形式を採用。その回答は問題の本質に鋭く迫り、世界が抱える暗部を照らし出していきます。

著者
["ジャン ジグレール", "Jean Ziegler"]
出版日

アフリカの飢餓問題に焦点が当て語られていきますが、それらが遠い国の問題ではなく、身近な問題なのだと考えさせられます。なぜ飢餓が起きるのか、なぜ飢餓はなくならないのか。飢えは天災や運命ではなく、必然的な人災なのだと語る本書に、改めて自らの生活と飢餓問題の取り組みを考えることになるでしょう。

「食糧自体は豊かに存在するにもかかわらず、貧しい人びとはそれを入手するための経済的手段を持っていない。そのため不公平な食糧分配しかおこなわれず、なん百万人もの餓死者を生み出しているのだ」(『世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実』より引用)

息子を目の前に飢餓問題の真実を赤裸々に暴いていく教授の言葉。途上国の飢えを抱えた子どもたちの映像や、ニュースを見ることも多いでしょう。心を痛める問題ですが、その解決のためにも、問題の本質を理解する必要があります。本書は、様々な諸問題が複雑に絡み合う飢餓問題の基本を学ぶための入門書として読むべき1冊です。

食糧危機を引き起こす先進国の欲望

アジア、アフリカ、ラテンアメリカが直面した食糧不足問題の背景を読み解く『なぜ世界の半分が飢えるのか―食糧危機の構造』。著者はアメリカ出身の政治経済学者で、社会運動家のスーザン・ジョージです。

著者
スーザン・ジョージ
出版日

読者は、冒頭から驚かされることになるでしょう。

「前世紀の『資産階級』があらゆる改革に異を唱え、8歳児の工場労働を禁止するならどんな経済破綻に見舞われても知らないぞと脅したように、今日の特権グループも、人びとを飢えに閉じこめる貧困から富を引き出しながら、世界に厳存する貧富の差をなんとしても維持しようとしている」

こうして、飢餓問題を「維持しよう」とする特権階級の人々を批判してきるのです。彼女は本書で飢餓問題は天災などによるものではなく、人災だと説きます。原著は1976年に出版されていますが、今なお食糧危機の本質を捉えた1冊となっています。

たとえば、1972年の大凶作について、世界穀物収穫量は前年比1%減だったといいます。その1%が飢餓による多くの犠牲者を生み出したのですから、それはまさに「人災」であったのです。このような危機的状況の中でアメリカなどの国々は、行きすぎた生産を防ぎ、需要と供給のバランスを保つため、3分の1を休耕にしていたといいます。

本書ではさらに、先進国のアグリビジネスなどに触れていきます。本書のような良書は、何年経っても物事の根本、現代の問題を捉える際に役立つことでしょう。

飢餓問題を、もっと知る

執筆者は総勢25名という『世界から飢餓を終わらせるための30の方法』。その顔ぶれは、大学教授、NPOやNGO関係者、ジャーナリストなど多岐にわたります。

まず読者が驚かされるであろうことは、現在、世界の食料は十分に足りているという事実でしょう。本書では、世界で生産される約22億トンの穀物が人々に等しく配られれば、1人あたり年間300キロも食べられると指摘しています。日本人1人の場合、年間の穀物消費量は160キロだそうですから、確かに食べ物が十分にあるということが納得できますね。

著者
出版日
2012-04-10

本書では引き続き、飢餓の背景を探っていきます。少しご紹介すると、飢餓には大きくわけると、天災や紛争などによって生じる緊急性の高い「飢饉」と、政治機能や教育・環境問題などが関わってくる「慢性的飢餓」という2つの意味があるそうです。後者については緊急性が低いため、注目が集まりづらいといいます。このようにして読者は、本書を通して、飢餓の背景をきちんと整理することができるのです。

他にも具体的で目新しい取り組みなども紹介されていたり、身近な対策法が記載されていたりします。たとえば、第4章で紹介されている「メタボランティア」。このプロジェクトでは、運動や野菜中心の食事によって健康になった分のカロリー換算数×1円が、NGOなどに寄付されていくそうです。健康が支援に繋がる、なんとも魅力的なプロジェクトですよね。

私たち一人ひとりの意識や行動が、世界の飢餓をなくすことの一歩に繋がっていくのかもしれません。一人ひとりが動けば終わる飢餓問題について、ぜひ本書で学んでみてください。

食問題の背景に潜む貧困も学べる

昨今、日本でもその活動が注目されてきたフードバンクの活動などについてまとめた『フードバンクという挑戦――貧困と飽食のあいだで』。

フードバンクとは、品質には問題がないが何らかの理由で廃棄されていた食べ物を、必要な人々に届ける団体やシステムのこと。1960年代後半のアメリカで、「フードバンクの父」と呼ばれたジョン・ヴァンヘンゲルさんらが始めた活動といいます。このようなフードバンクの歴史に興味がある方は、第2章「フードバンクの誕生」がおすすめです。フードバンクのヒントになったシングルマザーの方の言葉なども紹介されていますよ。また第2章では、現在アメリカで行われているフードバンクの興味深い取り組み、たとえば、放課後に無料の食事やおやつを提供する「キッズ・カフェ」などについても触れられています。

著者
大原 悦子
出版日
2016-03-17

さらに、本書で紹介されている、日米のフードバンクの違いは興味深いものでしょう。たとえば、アメリカのフードバンクは、個人の寄付によってその活動資金の半分以上を得ているといいます。一方、本書で紹介されている2005年の調査によれば、日本では、寄付の受け入れが50万円未満であるNPO法人が全体の78%というのだから驚きです。第4章「日本に根づくか、フードバンク」では引き続き、このような日米の寄付文化、日本で寄付文化が育ちづらい背景などを学ぶことができます。

日本においても、食べ物に苦しむ人達も多い今の時代。日米のフードバンク事情を知り、食や貧困について新たな一面から考えられるようになる本作は、貧困問題や飢餓問題を考える上で読んでおくべき1冊でしょう。

世界の飢餓問題を考えることは、現在の世界を知ることだけに留まらず、未来の地球に生きる人類を考えることになるでしょう。食べ物不足や貧困問題を負の遺産として次世代に引き継がれることを避けるためにも、私たち一人ひとりが何をするべきか、立ち止まって考える頃なのかもしれません。

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