各回ごとにテーマを設け、「デザイン」という視点で紹介していきます。 今回は編集とデザインが学べる5冊の料理本を、 会席料理風に序列立ててみました。 料理は味だけではなく、見た目やそれを盛る器の美しさまで楽しむもの。 もちろんそれには順序よく咀嚼していく事が大事だと思います。 そこで、本を肴に見立てて編集やデザインを順序よく楽しめるよう、 料理本の“おいしい”知見を並べてみました。
料理を楽しむ前の小品。
実用書をデザインする前の心構え。
料理本が置かれる棚は、普通の本棚とは違う場合があります。例えば台所のまな板の隣や、ガスコンロの奥など…。
書籍や参考書と違う「実用書」としての料理の本は、読みながら作る人が殆どだと思います。手触りの良い紙を表紙に使って美しくデザインするのも素敵ですが、それ以上に、どう使われるべきかという部分も非常に大切。高山さんのいくつかの著作には透明なブックカバーが付いていますが、台所に置いて汚れてもいいように配慮されていて、日々の料理に欠かせない「野菜」からのたよりを聞けるよう、デイリーユースとしての機能を担っています。
毎日台所に立つ人のことを思っての装幀は、分かり易い手順や説明よりも、ずっと作る料理を美味しくさせるようデザインされています。本を作る時に大切なものはどういうものなのか、本書は、そんなオーダーにささやくような静かさで応えてくれています。
じっくり読んだ後でいいので、ぜひ料理にも挑戦してみて下さい。
- 著者
- 高山 なおみ
- 出版日
料理人の編集プロセスが凝縮された椀物のように、
アーカイヴとエディットの魅力が詰まった本。
フードスタイリストとして数々の料理本を手掛けられている高橋みどりさんが、自身が「好きな」料理の本を紹介する本です。古今東西さまざまな本が紹介されていてとても興味深いのですが、エディトリアル(編集)としても面白い一冊です。
紹介する本の内容や順番、分類の仕方や、選書した本にある料理の写真やレシピの数々、分かり易く付けられた端正な見出しなど、文字通り「集めて」「編む」ことの楽しさが伝わってきます。
好きな本を紹介するのに難しい理屈や専門的な技術は二の次です。高橋さんが集めて編んだ好きなものをほどきながら、「楽しい」を積み上げる面白さを読み解いて頂きたいです。
- 著者
- 高橋 みどり
- 出版日
素材を活かす向付。
素材を生かすデザインの仕方。
本のデザインには様々な行程があります。表紙や本文、紙や印刷、写真、テキスト、レイアウト……。これらの素材を区分け、序列に沿って組み上げていくのが編集デザインですが、これは料理にとても近い作業なのです。素材をそろえ、下準備をし、適した順番に沿って調理をする。
料理をどのように見せるか、それは料理そのものだけではなく、一緒に写る器やテーブルクロスなどにも気を配られており、著者が料理を通して伝えたい世界観を真摯に表現しています。また行程の文章に使われている書体や、日に焼けたように印刷された小口など、静謐で品のよい味を演出しています。
本書が生み出している心地の良いリズムは、それら一つ一つの組み合わせ方で生じる結果ですので、もちろん少し違えば違った味が出ると思います。それも含めて、編集デザインは料理に似ているというわけです。
- 著者
- 松長 絵菜
- 出版日
料理本のデザインは炊き合わせ?
それぞれの素材を組み合わせて作る楽しみ方。
素直に食べたい、作りたいと思わせる料理の本はまとまりが良く、編集が効いていると思わされます。もちろんそこにデザインを介して良さが生まれてくる。取捨択一もエディトリアルの醍醐味で、本書は、その辺りがとても顕著で好感が持てます。
料理の本にとって大切な写真のイメージを、ひと際大胆に扱っているのが本書です。
一般的に小さく扱われる手順の写真を大きく扱ったり、料理全体よりもディティールにフォーカスしたり、素材そのものだけ写したりと、ページをめくるたびに訪れるワクワク感は数ある料理本の中でもかなり際立った一冊。
読んでいるだけなのに、まるで調理をしているような気にさせる不思議な力強さを持った本です。写真の力を信じて押し出すのも、大事な編集の観点です。
- 著者
- 細川 亜衣
- 出版日
- 2014-10-02
味覚と視覚をすっきりさせる、
最後に読むのがオススメな一冊。
料理本というよりアートブックのように華やかな本書は、料理に欠かせない「ソース」にフォーカスし、それに見合った料理と組み合わせて絵本のような世界観を作り上げていて、見ているだけで心が躍ります。
カラーとモノクロが鏡のように合わさった見開きから、画角違いの料理の写真に加えて、精密にスケッチされた素材のイラストがページに流麗な動線を生み出しています。
「料理は冒険」というタイトルにふさわしく、未知の土地を歩いていくような新しい発見を紡いでいく感覚は必見です。甘いデザートのようにデザインされた本ですので、食後にでも是非。
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