本の中に知らないことが出てくる。気になるので次の本で調べる。気になることがあったから本を読んでいるのに、またその本で気になることがでてきて、新しい本を読む。 読書とは総じてそういうもので、この無限ループは抜け出せず、もはや抜け出そうとも思っていない。 ただ、こんな本の読み方をしていると、意外と“遠く”まで行けることもあって……。
昔はただ楽しむだけだったのに、大人になると「作り手」のことが気になってくる。自分も作り手側に回るようになるから。例えばゲーム。僕の場合はポケモン。
- 著者
- ["田尻 智", "宮 昌太朗"]
- 出版日
- 2009-04-22
『田尻智 ポケモンを創った男』(メディアファクトリー、宮昌太朗+田尻智)は、ポケモンを制作したゲームフリーク(発売は任天堂)の社長、田尻智さんのインタビューをまとめた本。いまは社長業がメインだが、90年代はバリバリの制作者だった。
有名な話だけれど、ポケモンアニメの主人公「サトシ」は彼の名前から取られている。当時のゲームカルチャーとポケモンをめぐるやりとりは驚きの連続。その中で任天堂のスタッフとして名前が出てくるのが現任天堂専務取締役でマリオの生みの親として有名な宮本茂さん。そして「横井軍平」という名前。どうやら任天堂のスゴイ人、らしいのだが……。
- 著者
- ["横井 軍平", "牧野 武文"]
- 出版日
- 2015-08-06
結論から書くと、スゴイ人だった。「ゲーム&ウォッチ」や「ゲームボーイ」の開発責任者、といえば凄さが客観的に伝わるだろうか。ただ僕がもっとスゴイと思ったのはその前。玩具の開発だ。
「ダックハント」という玩具がある。壁に投影した光のカモを別に用意された手元の銃で撃つ。照準がしっかりしているとカモは打たれて墜落する。もちろん、外れることもある。あれ?「光」を「線で繋がれていない銃」で打つと「反応」するのだ。
1976年、携帯電話もない時代。実は仕組みは簡単で、光の反射と太陽電池による受光、鏡による屈折を利用している。身近にあるもので、簡単には想像できない仕組みを安価に作り上げている。スゴイ。
この本を読むと、横井さんが「手仕事がまだリアルだったころの天才」だということがわかってくる。ものの技術と仕組みを自分自身で理解し、手になじむ形で面白さを追求する人なのだ。
何気なく遊んでいるものの中に、工夫と技術が詰め込まれている。ということはもしかしたら、僕らが普段使っている品物の中にも、スゴイ技術と発想が隠されているかもしれない……。
- 著者
- ["涌井 良幸", "涌井 貞美"]
- 出版日
- 2012-08-01
瞬間接着剤はなぜチューブから出した途端に固まるのか。すぐに答えられる人は少ないと思う。「私たちの身のまわりの多くの「モノ」は、20世紀の科学技術の結晶」と語るこの本は、他にもさまざまな「モノ」の仕組みを解説してくれる。
海外でも人気の日本の紙おむつは3層構造で、尿の吸収には「浸透圧」を利用しているとか、工事現場のタワークレーン(建設途中のビルの屋上にあるやつだ)は、建設と共に自らビルを登るが、解体時には他のクレーンの助けが必要、など。うーん。知らないことが多すぎる。世の中に技術は溢れているのだ。
- 著者
- ケヴィン・ケリー
- 出版日
- 2014-06-20
『WIRED』の創刊編集長であるケヴィン・ケリー氏は、『テクニウム』(ケヴィン・ケリー、みすず書房)で、そのような技術=テクノロジーは全体として、生物学のような形態をとる、と語る。それを例えば生物の進化系統図と、ハンマーの進化系統=バリエーションで説明する。またお互いに支え合いながら進化もする、と。
あぁ、そういえば紙おむつも3層の素材それぞれにもスゴイ技術が使われていて、相互に作用しているんだよな、と思い出す。さらにそれは宇宙が生まれたときから内包しているもので、人間の進化にも相互に影響しあうものになっている、と語る。壮大な話だが、いままで見てきたような、僕たちの生活と技術の関係を振り返ると、「そうだな」と思えてしまうのだ。
それでは生物の進化って、そもそもどういうものなのだっけ……。
このあたりで、はたと気づく。「あれ、僕はポケモンについて調べていたはずだ」と。随分遠くまで来ていた。でも、決して悪い旅ではなかったのだ。たぶん。