「オレ(ワタシ)の人生って本当についてない!」と叫びたくなる瞬間ってありますよね? でも、人生は一度きりで、誰とも交換できないんです。 不運を嘆きたくなる時、自伝や評伝を読んでみるのはどうでしょうか。 偉人でも、僕たちと同じような悩みを抱えていたり、僕たちが想像できないような壁にぶつかっていてそれを打破している姿に出会います。 すると、不思議と頑張ろうと思えるようになってくるんです。 今回は、偉人の――特に作家の人生を味わう5冊を紹介します。
人生には困難がつきものです。壁にぶち当たってどうすれば良いか分からず頭を抱える夜。そんなときに読んで欲しいのが『文盲』。
アゴタ・クリストフは『悪童日記』で有名な小説家です。小説家の自伝のタイトルに「文盲」という「無学で読み書きが出来ない」という意味の言葉が使われているのに驚きます。(ちなみに「文盲」と書いて「モンモウ」と読みます)
アゴタ・クリストフは、1935年にハンガリーで生まれて、ハンガリー動乱の折に難民としてスイスに亡命します。そこで生活のために当時スイスの公用語であったフランス語を習得することになります。しかし、フランス語は母国ハンガリーを占領していた国の言葉、「敵国語」だったんです。
フランス語を学び、後に小説を発表するようになります。これは希望である一方、絶望でもあったようです。
”私のなかの母語をじわじわと殺しつつあるという事実である”
と葛藤を語っています。
本書の内容は、戦争・難民生活・異国、敵語での生活など極めて劇的です。しかし、母国語と敵国語の間で闘い続けて出来上がった文体のためか異様なほど冷静です。混じり気なしの純粋な言葉が、読み手の心を震わせます。
どんな困難とも向き合い、前向きに闘わなければと思わされます。
- 著者
- アゴタ・クリストフ
- 出版日
- 2006-02-15
何かに没頭することで癒やされたことってありませんか? 次に紹介するのはとにかく「書くこと」に没頭した作家の話です。
『ライ麦畑でつかまえて』は名前を知らない人はいないんじゃないか、と思えるほど有名な作品です。J・D・サリンジャーは、1940年にデビューして、戦争や結婚離婚を経験したのち、前述の小説を書き上げて一躍スター作家になります。しかしその後、数本の短編小説を発表すると1965年を最後に“隠居生活”に突入してしまいます。
そこに至るまでの経緯は、これまでにも多くの研究で明らかにされてきました。よく言われているのが、有名になったゆえの騒がしい日常に耐えられなくなったというもの。そのため、人気(ひとけ)の無いアメリカ東部の小さな町で静かに暮らすことになります。
本書では、作家になる以前の姿や作家としての葛藤、隠居生活の話、今まで少しずつ家族や友人の証言から漏れ伝わっていたものを、丁寧に整理して描かれます。 戦争に行って生き残った自分と死んでしまった他人では何が違ったのか。芸術の追求と利益獲得の葛藤。世間と隔絶したために生まれた虚実入り混じった自身の神聖化。それらの答えを探すかのごとく、隠居生活中も執筆活動は止めません。毎日決まった時間に執筆し続けたようです。
死ぬ直前まで発表することもない「物語」を書き続けていたのは、先述のトラウマや葛藤によって負った傷を癒す治療行為だったのかもしれません。
僕たちも何かに没頭することで救われることがあるでしょう。個人においても騒音雑音煩わしい昨今、「没頭」する能力は自分を守るために大切だと教えられます。
- 著者
- ケネス・スラウェンスキー
- 出版日
- 2013-08-01
誰もが文章を気軽に書くようになった今、「書くこと」=人生な作家はどんな思いを込めて書き続けているのでしょうか?
スティーヴン・キングの書いた小説を読んだことがない! という人でも『スタンド・バイ・ミー』や『キャリー』『グリーン・マイル』などの映画は見たことがあると思います。 今回はそれら映画の原作を手がけた作家自身について書かれた自伝をご紹介しましょう。
本書『書くことについて (小学館文庫)』は、タイトル通り「書くこと」(原題『On Writing』)についてを扱った本ですが、前半の自身の半生について回想している部分がとても読み応えがあります。
この人もサリンジャーと同じように「書くこと」によって生きている実感を得ていたようです。
印象的なエピソードに、幼いころ初めて書いた物語を母に見せたら原稿料をもらうことができたというものがあります。息子のやる気を引き出すような母親の行為もすばらしいですが、幼いころから「物語」を綴り続けていたのだと関心します。やっぱり、継続は力なりですね。
書くことで幸せになる、と信じ続けて、売れない時代も耐えてきたキングが出世していく姿も本書の見所でしょう。素人でも文章を書くことが多くなった現在において書くことについて言及している部分も、役立つものが多い1冊です。
- 著者
- スティーヴン キング
- 出版日
- 2013-07-05
「お前は、注意力散漫で、何にでも首を突っ込みたがるし……」なんて叱られたことがありませんか?でも、好きなことを見つけるとすごい集中力を発揮したりして。そんな人にぜひ読んでいただきたいのが福沢諭吉の『福翁自伝』です。
福沢諭吉は、みなさんご存知でしょう。しかし、彼が何をなした人か知っているでしょうか。 私も本書を読むまで、「教育者」「お札の人」「慶応大学の人」くらいにしか思っていませんでした。
数々の印象深いエピソードがありますが、度の過ぎた悪戯話は出色です。 幼少期に、バチが本当に当たるか試すためにお札を踏んだり、学生時代に、仲間に鯛だと言って実はフグを食べさせてみたり、船めがけて上から皿を投げたり、好奇心旺盛と言うにはいくらなんでもやりすぎです。
そんな福沢も勉学には真面目に励んでいました。
ある日、寝ようと枕を探したところ見つかりません。少し考えてみたら、ずっと勉強や読書をしたまま机につっぷして寝ていたので、布団で枕を使ったことがなかったことに気が付いたのです。
アメリカ留学後、イギリスなども回って知見を広げて行きます。その後、教育者として学問の大切さを人々に教える活動に取り組み、塾を開きます。現在の慶応義塾大学ですね。そこは身分に関係なく開かれた学び舎でした。福沢は、この塾で「時代の狭間で戦渦に巻き込まれようとも、決して学ぶことを止めてはいけない」と塾生たちに伝えます。
読み進めると、幼少期の好奇心旺盛な性格が後に世界各地を見て回ることにつながり、勉学に関する異常な集中力が福沢を支える語学の基礎を作ります。
挑戦してみたことが後に役立つ、遠回りはあっても人生において無駄なことなんてないんだと、気が付かされる1冊です。
- 著者
- 福沢 諭吉
- 出版日
最後は、努力し続けることはひとりでは難しい。夢をつかむためには仲間も必要なんだと気付かされる漫画をご紹介。 著者は『笑ゥせぇるすまん』や『忍者ハットリくん』で有名な藤子不二雄Aです。
本書は、才能を持った二人の少年が、漫画家を目指して共に成長していく自伝的青春物語。主人公の少年は著者自身で、もう一人は『ドラえもん』の著者である藤子・F・不二雄をモデルにしています。
戦後の日本、漫画文化が根付く前夜、どんな因果が二人の天才を引きあせたのでしょうか。共に、漫画家を夢みて、手塚治虫に夢中になり、技術を切磋琢磨し、挫折を乗り越え、本当にプロの漫画家へと成長していく姿は、正直なところ物語として出来すぎています。
しかし、あまりにも人間臭さの詰まった魅力的な登場人物たちの言動、行動の描かれ方を見ているとあっという間に、次の巻次の巻と時間が過ぎていきます。
近くにいる友人や同僚が大活躍している姿をみるのは、正直なところとても励みになりますが、少し辛い面もあります。
だけど、同じ目標を掲げて前に進む友達がいることは、やっぱり素晴らしいことなんだと、読後そっと友達に感謝したくなる1冊。
- 著者
- 藤子 不二雄A
- 出版日
こうして偉人――今回は作家の人生を味わってみたわけですが、どんな困難も目標や夢に向けて続けていくことで乗り越えていけるんだ、少し安心します。
今回は作家に絞りましたが、ご紹介したい自伝・評伝は他にもあります。 また機会があったら、スポーツ選手編やビジネス編などもご紹介いたします。