あの頃の青春が永遠に続くとしたらなかなかマゾだ
青春って、いつ始まっていつ終わるのだろう? 人によってまちまち? まあそうだろう。きっと教科書にも載っていない。思春期の方がもう少し限定されたイメージ? 第二次性徴に伴う体の変化と共にその時期に突入するような。
青春は曖昧だ。何となく始まって何となく終わる(しっかり青春期を謳歌した人は、もしかしたら「今日で俺の青春は終わりだ! 」みたいに華々しく終えるのかもしれないけれど)。死ぬまで青春を宣言する人もいる。多分間違っていない。僕もキープオン・ロケンロー、キープオン・青春のつもりで日々音楽活動や生活に勤しんではいる。青春は人生の彩りの大きな要素だし、ロックの原動力だし、青春していない人のロックってなんだかつまらなさそうだし。
じゃあ青春は終わらないこともあるんじゃんと思うかもしれないが、我々アダルトの延命的青春と学生諸氏のプリミティブな青春とはやはりどこか本質的に違う。きっとそれは、我々アダルトが俯瞰の視点を持ち得てしまった点にあると思う。キープオン・青春だと思っていても、何かの折にかつての自分を振り返り「ああ、あの頃青春だったな」と一度でもしみじみ回想したことがあれば、その人の青春は既に青春Next Stage(敢えてネクステと呼ばせて頂く)に突入している。分詞構文やto不定詞は高校時代と同じように理解できていても、青春は残念ながらあの頃とは異質なものなのだ。
まあしかし、思い返すとその真っ直ぐさ(イタさ)に赤面、悶絶することしばしばなので、あの頃の青春が永遠に続くとしたらなかなかマゾな人生だと思う。若くあろうとする青春感が良い塩梅なのかもしれない。ただ、キープオン・青春のためにはあの頃の記憶や感情を適宜思い出してあげる必要があり、薄れゆく自分の脳みその中の記憶だけでは頼りないので、あの頃の感覚がふんだんに詰まった青春小説をいくつか紹介する。青春真っ只中な若い読者の方は、憧れたり反面教師にしたりしながら読んで頂けたら幸い。
ぶっちゃけ全部背伸びだったなあ
- 著者
- 村上 龍
- 出版日
- 2013-06-26
もうみんないい大人なんだから、全部認めちまおう。あの頃観た映画も、読んだ本も、聴いた音楽も、全部背伸びだっただろ? 後々ハマるものもあったろうけど、きっかけは背伸びだったろ? 誰も聴いていない音楽を好む自分、人とは違う自分。そんな高尚なものに憧れたはずなのに高尚という世界からは程遠い涙ぐましい努力を続けた結果気付くのは、ヤバい全然バイト先の人達と話が合わない! もっとジャンプとか読んどきゃよかった! スターウォーズ観ときゃよかった! ってことだ。
この本の舞台は1969年の長崎県の片田舎の高校。1969年と言えば世の中的になかなか激動の時代ではあったわけだが、九州の端っこの町で平和に暮らす高校生にとってはリアリティのないことばかりだし、結局一番切迫して考えなきゃいけないことは、どうやったら女の子とヤレるかとかそんなことなのだ。
主人公の矢崎は、好きな女の子に振り向いてもらうために持っていないレコードを今度貸すと言うし、彼女の見てる前では教師にだって歯向かうし、なんなら高校をバリケード封鎖までしてしまう。ランボーの詩を読むのも喫茶店でカフェオーレを注文するのも全部モテたいから。それ以上でもそれ以下でもない。田舎の何も持たない文化系の高校生にとって、ありのままの自分で勝負するなんていう発想はない。知識武装ファッション武装である。語りの文章がやや差別的とも言えるくらいに独善的でエッジの利いた文であることも、10代の瑞々しい感性やスピード感を表現しているようで小気味いい。久しぶりに読み返して、以前よりもハッとした文章を作中から最後に引用する。
「暗く反省しても誰もついて来ない。誰も、判断なんかできないのだ。こんな高校に、バリケード封鎖を思想的に判断できるものはいない。だから、楽しんでいるやつが勝ちなのだ。」
流されて青春
- 著者
- 吉田 修一
- 出版日
- 2012-11-09
奇しくもこの作品も長崎から上京してくる若者の物語だが、今度は大学生の青春である。『69』の矢崎は自分から楽しいことを求めて動くタイプだったが、こちらの主人公の世之介は少しボーっとしていて周りの人間に流されて人生が進んでいく。
冒頭の世之介が上京してきてアパートで荷を解く場面や、入学式の後に学科で集まって、まだたいして打ち解けていない学友と仕方なしにサークルの新歓を見て回る場面などを読むと、入学時の不安や故郷へのおセンチな気持ちなどがありありと思い出されて、切なくも甘い気持ちになる。基本的には派手でも地味でもないありきたりな学生生活の様子が、田舎出身であるがゆえの滑稽な失敗や感想などがユーモラスに交えられて進んでいくのだが、この何の変哲もないような青春時代というものが過ぎ去った今ではいくら大金を積んだところで手に入らないわけだし、そもそもずっと音楽に没頭してきてベタな青春を過ごしてこなかった身としてはなんとも羨ましい。
普通最高! って、『ヒミズ』って漫画の主人公も声高に叫んでいたし、普通って本当に幸せですよね。渦中にいる間はなかなか気付けないものだけど。そして人との出会いが人生を如何様にも変えていくし豊かにしていく。無数に打った出会いの点が線になっていき、最後は哀しくも誇らしい気持ちで笑い泣きみたいな表情になってしまう作品。