緻密な書き込みとリアルなタッチが特長的な奥浩哉の作風は、さながら映画のよう。代表作『GANTZ』が実写映画化されたことで一躍、時の人となりました。今回は同作を含むおすすめ5作品を、ランキング形式でご紹介していきます。
1967年、福岡に生まれた奥浩哉。1988年に青年漫画大賞に準入選した『変』を原型にした『変[HEN]』でデビューしました。
細かく書き込まれた背景やリアルな人物描写で人気が高く、特にデジタル処理で背景を描くことについては先駆者的な存在です。Macintoshによる3DCGを用いたリアリティある描画で、多くのファンの支持を集めています。
また、暴力や性的描写といった人間の欲望や衝動などを描き出すことに優れており、それらを巧みに使うことで作品により一層の深みを与えています。映画『ダイ・ハード』とTVドラマ「必殺」シリーズが好きで、そこから着想を得たと思われる作品も存在します。
代表作『GANTZ』をはじめ、同性愛をテーマにした『変[HEN]』と『HEN』や、『いぬやしき』などの話題作を多数生み出しています。
「黒」、「缶」、「へん」、「宿」、「変」、「観察日記」が収録された短編集。緩急あるストーリーでグイグイ引きこまれること間違いなしの本作は、エンタテインメント性に富んだ内容ばかりが収録されているので、お気に入りの話が見つかるはずです。
- 著者
- 奥 浩哉
- 出版日
重い話に抵抗があるという人もいるかもしれませんが、それを差し引いてもストーリーが面白い作品です。暴力や復讐、殺人や拉致誘拐、監禁など日常では意識しないけれど、世の中のどこかで実際に起きている出来事。それらの一部を切り取って奥の世界観が全開である本作は、重苦しい空気が満ちてはいるのですが、そこがとても魅力的なのです。
とりわけ、誰もが持つ心の内側の黒い部分が全面に押し出された「観察日記」で漂う不穏な雰囲気は秀逸といえるでしょう。同作は、ストックホルム症候群[※1]と記憶をテーマにした、幸せで苦しいお話です。身に起きた事実を認めたくないがゆえに、記憶にフタをして精神の安定を図るものの、忘れたと思った記憶は記録として残っている……と、ホラー作品のようなどろりとした空気感が楽しめますよ。心理描写や人物造形、「こいつヤバい」と思わせるディテール(細部)は必見です。
[※1……ストックホルム症候群とは、犯人と長い時間を共に過ごすことによって、犯人へ同情や愛情などが生まれること]
また「黒」というタイトル通り、人間のダークサイドや深層心理に入り込んだ物語を含む本作は、人を選ぶ作品かもしれません。しかし不思議と心をぎゅっとつかまれて考えさせられることでしょう。何に対してかは分からないけれど、泣きたくなるような物語が集約された珠玉の1冊です。
奥浩哉の初期の作品と、短編集『赤』に収録されている「嫌」を原型にして練り上げられたデビュー作。1992年から「週刊ヤングジャンプ」にて連載がスタートし、1996年にはドラマ化もされ好評を博しました。
- 著者
- 奥 浩哉
- 出版日
普通の男子高校生である佐藤ゆうきが、ある日、同性である鈴木一郎に告白されるところから物語が展開していきます。このように書くとボーイズラブのように思えますが、実は鈴木は同性愛者ではありません。そんな彼が男の子に一目惚れしてしまうのです。さらに、好きになったのには前世までさかのぼる理由があるという奇想天外な展開です。
ボーイズラブなの?それとも違うの?佐藤ゆうきはそもそも男なの?と読み進めるうちにたくさんの疑問がわいてきますが、それらも物語のエッセンスとして楽しめるでしょう。途中に恋のライバル的存在が登場したり、最終的に2人はどうなるの?と気になったり、王道ラブコメとしての体裁は十分に整っています。ただ結末まで読み終えると、やっぱり「変」な作品だといわざるをえません。
陽気な登場人物ばかりで重苦しくなく、クスッと笑えて気軽に読める1冊ですので、ぜひ一度手にとってみてくださいね。
『変』と奥浩哉短編集『赤』に収録作品「好」(すき)を原型にした本作は、男同士の恋愛模様を描いた『変』の続編として連載されました。しかし本作では『変[HEN]』とは対照的に、女の子同士の恋愛がテーマとなっています。
- 著者
- 奥 浩哉
- 出版日
- 2011-02-18
主人公は美人でスタイルも良く、成績も運動神経も良いうえに彼氏持ちというスーパー女子高生吉田ちずる。普通の女子高生として過ごしていましたが、転校生の山田あずみをひと目見たその日から、どんどん恋する乙女になっていきます。男性経験もあるのですが、すっかりウブな女の子になってしまうところが何ともかわいらしく感じられるでしょう。
あずみが傍にいるとドキドキしてしまったり、他人と話しているあずみを見て嫉妬してしまったり……。ちずるの恋する乙女っぷりにキュンとしてしまうこと間違いなしの作品です。また思春期にありがちなちょっぴりエッチな描写や妄想もあり、大人の読者は子どもを見守るかのような気持ちになることでしょう。
ちずるとあずみ、女の子同士の恋の行方はどうなるのでしょうか?気になった人は、まず読んでみてください。青春時代の甘酸っぱい思い出が甦ってくる1冊ですよ。
2014年より「イブニング」にて連載をスタートさせた本作。本作では、正体不明の宇宙人の手によってある日突然、機械の身体となってしまった初老の男性と高校生の、それぞれの活躍や苦悩を軸に「人間らしさとは何か」を模索していくSF漫画です。
- 著者
- 奥 浩哉
- 出版日
- 2014-05-23
冴えない初老のおじさん犬屋敷壱郎(いぬやしき いちろう)を主人公に、アクション満載のヒューマンドラマが展開する本作。息子にまで「うちのホビット族なんだから、穴の中に隠れて怯えてやり過ごせばいいんだよ」[※2]と言われてしまうほどしょぼくれた印象の犬屋敷ですが、実はとても格好いい人物なのです。
[※2……ホビットとは、ファンタジー小説『指輪物語』などに登場する種族のこと]
ある日アンドロイドになってしまった犬屋敷のあふれ出る正義感、善意の塊、心の強さに読者はきっと惹きつけられることでしょう。全身機械だけれど、人間として生きている実感を感じる瞬間のために人を助ける犬屋敷には胸が熱くなりますよ。本作は、美少女でもイケメンでもない、おじさんのアンドロイドが主人公という斬新な設定ではありますが、王道のヒーロー漫画として楽しめるのです。
一方、犬屋敷と同じく全身機械になってしまった高校生獅子神は、生きている実感を得るために人を殺すのです。犬屋敷と獅子神による、人間らしさのアプローチは真逆です。しかしその善悪の対比もまた、今作を魅力的にしている理由のひとつといえるでしょう。
彼らはこの先どのような道を進んでいくのでしょうか?先の読めないストーリーから目が離せなくなりますよ。
『いぬやしき』については<漫画『いぬやしき』の魅力を最終10巻まで全巻ネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
「週刊ヤングジャンプ」において、2000年から連載を開始した本作。奥の得意とするデジタル技術を駆使した美しい背景や効果が充分に活かされ、死と直面した人間の深層心理に切り込む内容で、多くのファンから人気を集めています。2004年にテレビアニメ化され、2011年には実写映画が公開されました。
- 著者
- 奥 浩哉
- 出版日
冒頭から主人公の死亡、しかもスプラッターで始まる本作。事故死したはずの主人公玄野は、死んだはずのその他の人間とともに不可解な部屋に閉じ込められます。そしてそこには不思議な黒い球があって……。ここから始まる「何が起きているかわからないけど、やるしかない」「やるからには、生き残らないといけない」という心理描写が絶妙です。
黒い球(ガンツ)は、得体の知れない星人という相手を「やっつける」という指令を出します。玄野たちそれを拒否もできず、戦いの中に身を投じていくのです。逃げても負けても待っているものは、死。玄野たちはもう死んでいるのに、生死と向き合うことになったのです。戦いの中でやがて、玄野たちにも仲間意識が芽生えたり、人として成長したりしていきます。生きている時よりよほど人間らしい生き方をしているように感じられる展開は、見事としか言いようがありません。
「正義とはいったい何なのか?」を問いかける本作には、人間の心の奥底をえぐるような奥浩哉の真骨頂が発揮されています。
今回は紹介できなかったものの、2017年12月に連載がスタートした『GIGANT』は話題を呼びました。そんな『GIGANT』については<『GIGANT(ギガント)』5分でわかる魅力!AV女優が巨大化?!SF【2巻までネタバレあり】>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
『GANTZ』など話題作が多い奥浩哉。巧みな心理描写や人物造形は、読者を掴んで離しません。どこかが引っかかる、読了後も忘れられない世界をぜひ堪能してみてください。