ホラー漫画の第一人者と呼ばれる、楳図かずお。その恐ろしくも美しい絵はイラストとしても人気で、Tシャツなどをはじめ、楳図の絵を使用したグッズも作られるほどです。そんな楳図の漫画作品は、ただホラーなだけではないのです…。そこのあなた、読んだことがないなんてもったいない!今回は楳図の漫画の中でも特におすすめしたい作品を、ランキング形式で5作紹介していきます。
1936年、和歌山県生まれ。小学校5年生のとき、手塚治虫の『新宝島』に出会ったことで漫画家になることを決意します。1955年に発表した作品『森の兄弟』と『別世界』にプロデビューし、以後は貸本作家として活躍していました。
1961年に発表した『口が耳までさける時』で「恐怖マンガ」という言葉を生み出しました。その後『へび少女』『猫目小僧』などがヒットし、楳図の名が広く知られるようになります。最も多忙な時期には、一度に5本の連載を持つほどの売れっ子作家だったのです。
1972年には代表作『漂流教室』で小学館漫画賞を受賞。ホラー漫画家としての地位を確立した楳図でしたが、その後ギャグ漫画でお馴染みの『まことちゃん』を執筆しました。このようにホラー作品以外でも実力を発揮してきます。
1995年に『14歳』が完結して以降は腱鞘炎悪化のため漫画の執筆活動は行っておらず、タレントなどとしてマルチに活躍しています。
「週刊少女コミック」で連載されたホラー漫画です。恐ろしくホラーらしいというよりは、可愛らしく描かれた絵柄が特徴で、1996年には実写映画化もされています。
- 著者
- 楳図 かずお
- 出版日
- 2008-12-26
女優として活躍していた若草いずみは、顔に醜いあざやシワができてしまい引退します。その後、さくらと名付けた女児をひっそりと出産し、優しく愛情を込めて育てます。ところが実はいずみは、自分の脳をさくらに移植し、さくらの体を乗っ取ろうと計画していたのです。
優しかった母の計画を知り娘は逃げ回るのですが、移植手術は強行されてしまいます。さくらの体を乗っ取ることで若さと美貌を手に入れたいずみは、様々な悪事を企てます。かくして欲望と執念に埋もれたいずみの第2の人生が始まっていくのです。
この作品の見どころは、ただ驚かせるだけの恐怖ではなく、巧みな心理描写によって表わされる間接的な恐怖でしょう。例えばさくらの何気ない表情や言葉でも、中身が母のいずみだと知った読者からすれば、まったく小学生らしくない色気にどこかゾッとする不気味さを感じるのです。
また、絵が可愛らしいこそ増す恐ろしさも魅力的です。結末には推理小説のようなどんでん返しが待っているので、最後まで目が離せなくなりますよ。
楳図作品最後の長編と言われるSF物語。作者の代表作でもある『漂流教室』の続編的存在である本作は、コミックスでは全20巻というボリューム満点の大作となっています。
- 著者
- 楳図 かずお
- 出版日
- 2012-10-30
舞台は22世紀。人間が大いに繁栄し自然を完全に支配するようになった頃、突如ニワトリの頭と人間の体を併せ持つ生命体チキン・ジョージが誕生しました。彼は、繁栄の水面下に隠された人類破滅の危機を知ります。それは、その年生まれた子どもたちが14歳になると、地球も人類も滅亡するというものでした。
本作では主に、環境問題がテーマとして扱われています。非現実的でありながら、どこか心の不安を煽ってくるような作品です。また止まることなく次々に広がる展開は衝撃の連続で、その過激さからトラウマになるシーンが多いともいわれています。
例えばエイリアンが男女の見境なく人類をレイプするシーンは、まさに地獄絵図。彼らは人類との交配によって自分たちの遺伝子を変えるために宇宙からやってきたのです。
「地球人のみなさん、あなたたちの遺伝子はわたしたちの遺伝子を変えることができなかった!!」(『14歳』より引用)
人類が恐怖に怯え何人もの死者が出たというのに、エイリアンたちはこの一言であっさりと去って行くのです。結局、彼らの遺伝子を変えるという計画は失敗に終わりましたが、読者には強烈なインパクトを残す場面です。
本作は常に先が読めない展開なので、謎解きが好きな方は特に楽しめるかもしれません。作者のキャリアがすべて詰め込まれた、楳図の集大成といえる作品です。なお2018年現在、楳図かずおにとって、本作は最後の長編作品となっています。
不老不死の美少女おろちが、行く先々で起こる悲劇をただ見守り、時に介入するというオムニバス形式の短編集です。2008年には実写映画にもなりました。
- 著者
- 楳図 かずお
- 出版日
1巻のはじめに収録されている「姉妹」は、実写映画化のもとにもなった物語です。おろちが入り込んだあるお屋敷には美しい姉妹エミとルミが暮らしていました。実はその家に産まれた女は18歳になると醜い姿になるという呪われた血筋があったのです。
しかし母の死により妹のルミは養女だったことがわかります。そして姉のエミは自分だけ醜くなるのは許せないと、仲良し姉妹の絆は崩れていくのです。
本作で描かれている恐怖とは、主に「人の心」です。姉だけ醜くなるのが可哀相だと、妹のルミは同情し姉に優しく接していたのですが、物語のラストではその優しさが読者の恐怖心を引き立たせる布石だったと判明。最後まで読むと気付く怖さが、本作の見どころだといえるでしょう。
誰もが持つ心の汚い部分が巧みに表わされていて、各話ごとに鳥肌が立つこと間違いなしです。最後の最後まで驚きの展開が待っているので、疑いながら読み進めるとさらに楽しめるかもしれません。
「錆びたハサミ」「消えた消しゴム」「女王蜘蛛の舌」「黒い絵本」「影亡者」の全5話で構成された短編集。こちらも2006年に、「黒い絵本」をもとに作られた物語が実写映画化されています。
- 著者
- 楳図 かずお
- 出版日
- 2011-02-26
最初に収録されている「錆びたハサミ」は、ある姉弟の恐怖体験を描いた作品。
少年「山の辺想」はある日、姉の泉の目からハサミが飛び出してくる夢を見ます。うなされて起きた想は慌てて泉を起こすのですが、夜中に起こされたことで逆に怒られてしまうことに。そこへなぜか泉の友人法子が現れ、担任の先生が死んでしまったから見に行こうと誘い出します。法子について行った先にあったのは謎の地下室。
そこで泉はひとつのハサミを拾い、それをきっかけに奇妙な出来事が起こるようになっていくのです。
この作品はどこからが夢で、どこからが現実なのかわからない点が鍵となっています。読んでみると恐怖とは人間の心が勝手に生み出すものだと実感できることでしょう。そして物語の展開に合わせて悪者が変わるところも巧妙です。
また楳図はあるインタビューで「自分の作品の中で『神の左手悪魔の右手』が1番怖い」と語っていました。その言葉通り思わぬ方向から恐怖が襲ってきて、グロテスクなスプラッター作品が楽しめます。ただし苦手な人は要注意。
ホラー漫画に肥えている方に特におすすめできる本作。曖昧な結末となっているので、周りの人たちとまわし読みして議論するのも面白いかもしれません。
未来の世界へ飛ばされてしまった小学生たちの生存競争を描いたホラー作品。
連載当時に認知されつつあった「公害」と「母子の愛」がテーマに盛り込まれています。こちらの作品は1987年に実写映画化、2002年に実写ドラマ化、2009年には舞台化されており、漫画以外で本作に触れたことがあるという方も多いかもしれません。
- 著者
- 楳図 かずお
- 出版日
小学校6年生の高松翔は、ある日母親とケンカをしたまま学校へ行きました。しかし大地震に見舞われ、揺れが止むと、なぜか学校の外の景色がすべて砂漠になっていたのです。やがてその世界が環境破壊によって滅んだ未来の地球だということを知り、生き残った児童たちはこの世界でどう生き抜くかを学んでいきます。
しかし未知の世界による不安や恐怖心から、学校にいた先生や児童たちは次々に命を落としてしまいます。多くがパニックに陥り、内部抗争、飢餓、伝染病、暴虐など次から次へと困難が襲いかかってきます。そんな中で翔がいつも気にかけていたのは、ケンカしたまま会えなくなってしまった母親のことでした。
つまり本作は、ただのホラー漫画ではないのです。恐怖の世界の中に、時空を超えた親子の絆が盛り込まれているところに、楳図の凄みを感じられることでしょう。
未来にいる息子をどうにかして助けようと足掻く母の愛情は、子を持つ親世代には強く胸に刺さるものだと思います。特に、翔の母親が最後にした喧嘩を思い出して涙すシーンでは、いつ何があるか分からないこの世界で、大切な人との付き合い方を考えさせられてしまいます。
「週刊少年サンデー」で連載が始まったのは1972年ですが、本作の面白さは何年経っても色褪せません。映画やドラマしか見たことがないなんてもったいない、漫画界の歴史に残る大作だといえるのではないでしょうか。
実写化されていることからもわかる通り、名作揃いの楳図かずお作品。実際に漫画を読むと、テレビで見る陽気な姿とは違う作者の顔が見えてきます。よく練られた構成に美しい作画、ホラーの中に隠された愛情など、作者の繊細な人柄を知ることができことでしょう。恐怖マンガの第一人者といわれる楳図による漫画は、一度は読んでおきたい傑作ばかりです。