沿線を擬人化したかわいすぎる鉄道漫画『終電ちゃん』。沿線ごとにキャラクターがおり、終電に乗る様々な人間ドラマを見守っています。今回は各沿線のキャラをストーリーも混じえてネタバレ!
- 著者
- 藤本 正二
- 出版日
- 2016-03-23
終電の先頭車両に乗った3頭身のかわいい女の子たち。それが終電ちゃんです。彼女たちの役目は人々をしっかりと目的地まで送り届けること。時には酔っ払いを介抱しながら、時には連結車両待ちの乗客たちのクレームを一身に受けながら、その仕事を全うしようとします。
『終電ちゃん』たちを通して見る、あたたかな人間ドラマは都市部で電車を利用する全ての人々の心を和ませます。そんなほっこりする鉄道擬人化漫画は2015年にちばてつや賞に入選しました。
メインの終電ちゃんは中央線のバリバリキャラですが、その他にも魅力的な沿線キャラたちが盛りだくさん!彼女たちは年を取らないので、みんな小さいのに頼り甲斐のある背中をしています。今回はあたたかい座席シートに座ったときのような安心感を持つ彼女たちを、セリフを添えてご紹介します!
出典:『終電ちゃん』1巻
都市部移動手段の心臓といっても過言ではないJR中央線。様々な沿線が混在して走る時間帯もあり、その路線はカオス。その中央線の終電ちゃんは他の終電ちゃんとは一線を画す、バリバリ仕事が出来る頼もしい存在です。
中央線の終電ちゃんが初登場するのは高尾行きの最終電車が新宿に乗り入れた場面から。ショートカットの彼女は小さい体に制服を身にまとい、背中に勾配標(鉄道線路の勾配を示す標識)を背負っています。
中央線の終電ちゃんは0話で男運のない女性、京子に泣きつかれます。彼女は彼氏に振られ、近頃めっきり終電で帰っているのです。その様子はみていて痛々しいほど。ある日、とうとう京子は終電ちゃんが仕事を終えて寝ている場所から離れないで泣き続けてしまいます。終電ちゃんはため息をつきながら、彼女と初めて会った時のこと、その時一緒にいた母親のことを回想し、京子に語りかけます……。
中央線の終電ちゃんの魅力はその面倒見の良さ。酔っ払いたちをたたきおこし、ひきずり、多少の遅れも乗客たちのために多めに見るほどです。
しかし何と言ってもすごいのは乗客ひとりひとりの名前を覚えていること。そして彼らの仕事やプライベートの状況まで覚えているのです!もし終電ちゃんがいて、終電での様々な痴態を見られていたら確かに自分のことは筒抜けかもしれませんね。安心感があるけれど恥ずかしいものです。
でもこんな終電ちゃんにもう終電に乗るんじゃないよ!と叱ってもらえれば、少し行動を見直せる気もしてきます。たまには会いたくなってわざと終電に乗るということもありそうですが……。
出典:『終電ちゃん』1巻
都心部の代表的沿線、JR山手線。品川駅を起点として渋谷や池袋、秋葉原や東京など国内のハブステーションを繋ぐ主要路線です。その終電ちゃんは可愛い顔して都会的な割り切ったクールさがあるキャラクター。
山手線の終電ちゃんは第2話から登場します。長いツインテールを揺らしながら、ゴスロリ服に身を包むかわいい少女。いつも普通転轍機(線路が分岐する箇所に設置される「分岐器」の一種)をひきずりながら歩いています。しかしその口の悪さはなかなかのもので、中央線の終電ちゃんが「じゃじゃ馬」と呼ぶほど。
しかし、彼女もまた仕事を全うしようとする熱い終電ちゃん。4、5話では雪の降りしきる中、意識を失いながらもどうにか新宿まで乗客たちを送り届けます。乗客たちに運休の謝罪をしますが、逆にお礼を言われて赤くなり、「早く行きなさい!」とそっぽを向くのです。
彼女はデレることがほとんどなく、いつもツンツンしているのでこれは貴重。普段はピリピリしている山手線の終電ちゃんですが、実はとてもかわいい子なのです。遅延が多発する山手線ですが、彼女が頑張っているのかなと想像すると我慢できてしまいますね。
出典:『終電ちゃん』1巻
新宿駅を起点として神奈川県小田原駅を結ぶ路線で、通称小田急線こと小田急小田原線。他の終電ちゃんと同じく、通勤や通学の用途でも利用されますがこの路線は観光にもよく使用されています。小田原駅からは箱根登山線や「ロマンスカー」の乗り入れがあるのです。
そんな小田急線の終電ちゃんは7話から登場。おだんご頭に和服を身にまとい、腕木式信号機用カンテラ(手動の信号機を使用するための石油灯)を持っています。乗客たちに温泉卵を配ったりするちょっと変わった終電ちゃんです。
そんな彼女はある日中年のサラリーマンに出会います。彼は昔尊敬していた上司が衰えていく姿を見て、自分の将来に不安を抱いていました。そして普段は中央線しか使わないのですが、ふらりと小田急線に乗り込んだのです。そんな彼を見て、終電ちゃんは元気を出してと温泉卵を渡します。その硫黄の香りに、サラリーマンは小学生の頃、毎年ロマンスカーで箱根に行っていたことを思い出し……。
小田急線の終電ちゃんの魅力は何と言ってもそののんびりしたところ。都心部に乗り入れているとはいえ、どこかマイペース。しかし都会で熱心に働いている人たちへの尊敬も忘れません。その上で、今乗っている電車で違うところへもいけるのだと分かっていてほしい、と優しく抜け道を用意してくれるのです。箱根の良さが彼女の人柄からも伝わってくる、癒し系のキャラクターです。
- 著者
- 藤本 正二
- 出版日
- 2016-09-23
出典:『終電ちゃん』2巻
大阪市民の足、大阪環状線。大阪駅から京橋、天王寺、西九条をとおって市内の要所をぐるりと繋げる都市の主要路線です。車両のカラーはオレンジ色に赤のラインとレトロなもの。2017年現在ではシルバーのスタイリッシュな車両も導入されていますが、その昔ながらの見た目に親近感を覚える人も多くいます。
この環状線の終電ちゃんは10話から登場。こてこて関西弁のツインテール少女で、背中には遮断機、右手には時刻表で作ったハリセンを持っています。関西人ならではのノリで乗客たちの軽口にも応対しますが、普段は厳しめ。駆け込み乗車客や酔っ払いにはお尻に容赦無くハリセンをお見舞いします。
しかし、実は結構ナイーブ。ハリセンをしようとした客に本気で怒られてしまった時はさすがにこたえたようで、姉御と慕う中央線の終電ちゃんに電話をかけます。
「またお客さん怒らせてもうてん(中略)
ウチはただ…みんなにちゃんと帰って欲しいだけやねん…」
普段はチャキチャキしているだけに、車両の上で三角座りで肩を落とす彼女の表情は弱々しくてつい守ってあげたくなります。しかも実はこの会話、車内放送のスイッチが入ったままになっており、乗客たちに丸聞こえなのです。
クレーム対応で大阪に来た圭一はこの終電に乗ったうちのひとり。一緒に乗っていた取引先の客からこう説明されます。「あの子たまにマイク切り忘れよんねん でもええ子やろ?」謝罪の時にイライラしていた顔とは正反対の優しい笑顔です。その表情はまるで孫か娘のことを話しているかのよう。環状線の終電ちゃんは乗客たちにおてんば娘のように愛されるツンデレキャラクターなのです。
出典:『終電ちゃん』2巻
東京から新横浜、静岡、名古屋、京都、そして新大阪までを繋ぐ、路線距離およそ515kmにもなる東海道新幹線。太平洋側の主要都市から内陸に入り京都、新大阪を結ぶ新幹線ということで観光客はもちろん、ビジネス客の利用が多い路線です。
そんな東海道新幹線の東京行きの終電ちゃんは11話に登場。大阪環状線の次の話なので、圭一の出張帰りというエピソードで登場します。
彼女は胸元と腰にリボンをあしらったワンピースを身にまとい、シングルアーム型パンタグラフ(架線から電気を取り込むための集電装置)を背負っているという見た目。「ごめんあそばせ」とビジネスマンのお父さんをお見送りに来た少年の頭を撫でている姿はまるで貴婦人。終電ちゃんいちお上品なキャラかもしれません。彼女のいる電車は何だか大人のゆったりとした空気が流れています。
息子に見送られ、ひとり帰路につく途中で単身赴任の寂しさに泣いてしまったサラリーマン。終電ちゃんは彼を優しく寝かしつけ、その愚痴を聞いていた圭一に東海道新幹線につけられたキャッチコピー、シンデレラエクスプレスのことを話します。日曜の夜に時間の許す限り大切な人と過ごし、 新幹線の終電で元の場所へと帰っていく人々と童話のシンデレラをなぞらえた言葉だということ。
「大切な人」という言葉を聞いた圭一は新幹線に乗る前からずっとメールの送信を迷っていた意中の相手、雪奈のことを思い出します。そして降りる間際に終電ちゃんから背中を押され、思い切ってメールを送信するのです。携帯から顔をあげると、なんと改札を出たところに彼女が立っていて……。
買収先の会社に出向、単身赴任が決まり仕事でもプライベートでも寂しい思いをしているサラリーマン、くっつきそうでくっつかず、煮え切らない男性。乗客たちの様々な気持ちを汲み取って優しくアドバイスする東海道新幹線の終電ちゃんはさすがです。そのゆったりとした優しさでみんなを包み込んでくれる、何だか甘えたくなるキャラクターです。
出典:『終電ちゃん』2巻
長崎本線から佐賀県肥前山口駅から分岐し、そこから長崎県佐世保駅までを繋ぐ佐世保線。そして佐賀県有田駅から伊万里駅、松浦駅、上佐世保駅などを経て佐世保駅までを繋ぐ鉄道路線の松浦鉄道西九州線(以下西九州線)。どちらも北九州の交通の要所を繋ぐ路線です。『終電ちゃん』ではこの2つの路線を姉妹に見立てています。
何だかいつも眠そうな佐世保線はお姉ちゃん。出歯止め(停止車両を動かないように固定する器具)を腰にぶら下げ、車内販売員のようなスカーフにエプロン姿の終電ちゃんです。
出典:『終電ちゃん』2巻
続いてパキパキしたしっかり者の西九州線は妹。ツインテールでメガネをしており、格好は姉と同じで、形の異なる出歯止めを持っています。
ちゃんぽん特集で長崎に来た雑誌編集者の寺岡は松浦鉄道のビール列車の余韻で酔っ払ったまま帰り道とは逆方向の電車に乗ってしまいました。彼のお酒を間違って飲んでしまった西九州線の終電ちゃんはお酒に弱く、どうしようと焦る寺岡にもふにゃふにゃで的外れの返答をします。
そこに来てくれたのが西九州線と直通運転をする佐世保線の終電ちゃん。寝過ごす人などのために終電後も近隣路線を見回りしているのです。これが佐世保線の終電ちゃんがいつも眠い理由。寺岡とふにゃふにゃになった妹の前にさっそうと現れる佐世保線の終電ちゃんは何だかヒーローのようです。
ふたりの終電ちゃんはギャップ萌えの姉妹。普段はぼーっとしている佐世保線の終電ちゃんですがいざという時にやはり姉らしい頼もしさがあり、学級委員長のようなしっかり者の西九州線の終電ちゃんはお酒を飲むとふにゃふにゃで可愛く、どちらもギャップに惹かれます。姉妹という設定もただの直通運転を強い結びつきのように感じさせてくれて、そこで乗り換える機会があったら何だかじんとしてしまいそうですね。
- 著者
- 藤本 正二
- 出版日
- 2017-04-21
『終電ちゃん』にはその他にも大阪や長崎、北海道まで様々な終電ちゃんたちが登場し、それぞれの地域性や沿線特徴を体現して楽しませてくれます。
会社が嫌な原因のひとつに電車通勤をあげる人は多くいますが、複雑に入り組んだ路線で正確さな運行をし続ける日本のダイヤの素晴らしさは周知のものです。そしてその裏では職員さんたちの苦労があります。
『終電ちゃん』は駅職員含め、働く人みんなの苦労を優しく包んでくれる作品。だからただのキャラ漫画で終わらない人間ドラマとしての魅力があるのです。嫌なことが会った時に、ちょっとだけ『終電ちゃん』を読んで癒されてみませんか?
おすすめの癒し漫画を紹介した<癒し漫画おすすめ16選!疲れた時は、何も考えずに読めるコレがいい>の記事もおすすめです。