ニュースでよく耳にする、アメリカの白人警官による黒人射殺事件。黒人が差別と向き合ってきた歴史は、どのようなものなのでしょうか。今回は、アフリカ系アメリカ人の辿ってきた道筋を3冊の本から見ていきたいと思います。
奴隷制プランテーション(商業的な大規模農園)から始まったとされる、アメリカ黒人への差別や抑圧。プランテーション制度が典型的に培養されたというアメリカ大陸の大西洋岸諸地域では、奴隷制が解体された後も、主な労働力を黒人に頼っていました。つまり奴隷制廃止後も引き続き、強制労働を保つ文化が必要だったのです。そしてその文化こそ、人種的差別だったといいます[※1]。
また奴隷制を支持していたアメリカ南部の社会については、以下のような記述もあります。
「南部社会では、白人人口が全体の3分の2を占め、かつ先住民社会が相対的に強固で、なお白人の膨張に抵抗し続けたため、白人支配層は黒人を抑え込み、プランテーション制度を維持するために、貧しい者を含めた白人全体を味方につけ、先住民と黒人の抵抗に備える必要があった。それゆえこの社会では『純潔』な白人としての自尊心が強調され、独特の『人種偏見』が形成されたのである」[※2]
このようにしてアメリカ黒人の歴史を知ることは、現在も続く差別について知見を深めることにも繋がっていきます。また多様な文化的背景を持つ人々と関わるチャンスのあるグローバル時代においては、語学だけではなく、それぞれの文化が持つ歴史を学ぶことは、対人関係を築いていく上でも重要となることでしょう。
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[※1]『小学館 日本大百科全書』を参考
[※2]『小学館 日本大百科全書』より引用
始めにご紹介したい本は『地図でみるアフリカ系アメリカ人の歴史―大西洋奴隷貿易から20世紀まで』。タイトルにもあるように、地図が豊富に用いられています。また本書は「黒人アメリカの起源」と題して、アフリカ諸国の10世紀からの歴史が触れられており、まさにその「起源」を学べるという特徴を持っています。
- 著者
- ジョナサン アール
- 出版日
- 2011-04-08
たとえば、15世紀にヨーロッパ人がアフリカに到着する前から存在していた、アフリカ大陸における奴隷制について触れられています。著者はこうした奴隷制が「残酷で搾取的なことは言うまでもない」(本書より引用)と述べつつも、その後の奴隷制との違いを3点指摘しています。
①明確な人種偏見にもとづいておらず、特定の社会階級に閉じ込められることもなかった
②おおむね主人の召使いとして働いていたため、過酷で永久的な農業労働にさらされなかった
③奴隷という身分は必ずしも相続されていかなかった
そして時は経ち、ヨーロッパ人による奴隷貿易が開始します。本書では無論、その経済的利益に初めに注目した国がポルトガルであることに触れていますが、それだけでは受験勉強で暗記した「項目」に過ぎず、おもしろみがありません。この本の魅力はしかし、その背景に潜んでいる、「なぜ」奴隷貿易が発展したかというファクター、そして奴隷貿易のルートを地図=目で学べる点にあるのです。
このようにして、じっくりとアフリカ系アメリカ人の歴史が綴られていきます。ベトナム戦争における黒人兵の参加、アメリカでの公民権運動、そして黒人音楽の広がりについても触れられていく本書では、その理解をいつでも地図が手助けしてくれる1冊となっているのです。
続いてご紹介する本は、豊富なカラー写真によって、映像を見ているかのような感覚になる『アメリカ黒人の歴史』。マーティン・ルーサー・キングによる有名な演説「私には夢がある」の言葉からスタートする本書の初版は、2010年。奴隷制の廃止から、2008年に大統領に当選したバラク・オバマまでの歴史が展開されていきます。
- 著者
- パップ・ンディアイ
- 出版日
- 2010-10-28
本書では、黒人セレブなどの華やかで力強い活躍に触れる一方で、「激しい人種差別と大きな社会不安によってつくりあげられた」(本書より引用)ハイパーゲットーにおける社会問題にまで記述が及ぶため、学ぶことは多いといえます。また日本語版の監修者序文で、本書の中心的なテーマの一つとしてキング牧師についての業績を扱うとあるように、第4章ではキング牧師の誕生からその死までがフルに描き出されていきます。キング牧師の歩んだ軌跡を力強い写真とともに知れる本書は、当時のアメリカ黒人たちの息遣いまで感じられるような1冊です。
2冊目のメインテーマの一つともなっていた、キング牧師。それもそのはず、アメリカ黒人の歴史を語る上で公民権運動は外せません。そこで大いに活躍した人物こそキング牧師ですが、3冊目にご紹介する本書『CD付 I Have a Dream! 生声で聴け!世界を変えたキング牧師のスピーチ』では、彼の実際のスピーチ『I Have a Dream!』をオーディオで聞けるとともに、その歴史的背景まで学ぶことができるのです。
- 著者
- ["マーティン・ルーサー・キング・ジュニア", "山久瀬洋二"]
- 出版日
- 2013-10-25
英語が苦手な人も、対訳やワードリストがついているため安心です。しかし、ただの英語学習に終わらない点も、本書の魅力といえるでしょう。というのは、スピーチの背景にある公民権などについても細かな解説があるからです。邦訳文の意味が理解できたとしても、スピーチに含まれる独立宣言の引用などについての知識がなければ、せっかくのスピーチも、本当の意味では心に沁み入ってはこないことでしょう。本書でぜひキング牧師の声に、心から耳を傾けてみてくださいね。
地図やカラー写真、そしてオーディオまで、それぞれ特徴溢れる本をご紹介していきました。黒人差別の歴史について知り、改めて彼らが対峙している差別について考えてみてはいかがでしょうか。