ヘイトスピーチの意味とは?日本での具体例や対策法を学ぶ本を紹介!

更新:2017.3.30

日本でも社会問題化している「ヘイトスピーチ(差別憎悪表現)」。2016年には理念法ではありますが、ヘイトスピーチ対策法が成立しました。今、その意味や法規制を学ぶべき時が来ています。具体例から対策法についてまでしっかり学べるおすすめ本を紹介します。

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ヘイトスピーチの意味とは?

ヘイトスピーチとはただの悪口ではなく、特定の人種、宗教、性的指向を持つ集団に向けて、差別的意図のもとに行われる差別や暴力行為を煽(あお)る言動などを指します [※1]。その他にも、職業や外見、国籍、性別、障害など、個人が抱えている欠点を、誹謗(ひぼう)中傷したりすることも該当します。

個人や集団に直接差別発言をすることだけでなく、TwitterなどのSNSやインターネットへの書き込みも、ヘイトスピーチの対象となり、新たな大きな問題となっています。インターネットの普及は、誰もが自らの意見を自由に発信できるようになったと同時に、より誹謗中傷を引き起こす可能性を高めたと言えるでしょう。

ヘイトスピーチは、人権侵害が顕著に表れたものです。2014年には最高裁判所によって、京都にある朝鮮学校に対するヘイトスピーチが、人種差別撤廃条約[※2]で禁じられている「人種差別」に相当するという判断が下されました。

また国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、ヘイトスピーチの被害の実態を「A恐怖、B自尊心の傷つき、C社会生活への影響、D子どもへの影響、E日本社会に対する恐怖」という5つに分類しています[※3]。Aについては、不特定多数に対して行われる差別発言を自分に向けられているものと感じ、強い恐怖感を覚えたことが報告されました[※3]。

また在日コリアン弁護士教会のメンバーで、弁護士の金竜介は以下のようにも述べています。
「私たちは、さまざまな集会で、『ヘイトスピーチは必ずジェノサイド、虐殺につながる』、『言葉の暴力は肉体的な暴力につながる』という話をしています。しかし、それは象徴的な話にすぎないというように受けとっている人が多いのではないかと感じています。(中略)しかし、私たち在日コリアンにとって、ヘイトスピーチはそういうものではありません。私たちはいまに殺されるのではないか、と本気で考えているのです」[※3]

このように、ヘイトスピーチは実は身近で起こっている、無視されるべきではない、深刻な問題なのです。

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[※1]『日本型ヘイトスピーチとは何か: 社会を破壊するレイシズムの登場』では、ヘイトスピーチが「個々人ではなく、必ず人種・民族・性などの何らかのグループ(もしくはそのグループのメンバーとしての個々人あるいはそう思われた人びと)に向けられている」としている。

[※2]人種差別撤廃条約の正式名称は「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」。1965年の第20回国連総会で採択された国際条約で、締約国には人種的差別撤廃の政策や措置を行うことが義務付けられている。日本は1995年に批准した。

[※3]「」内は『ヘイトスピーチはどこまで規制できるか』より引用。それ以外については同書を参考にしている。

日本におけるヘイトスピーチの具体例と対策法

日本国内では2010年以降、レイシスト(人種的差別主義者)集団が新大久保にて、在日韓国や朝鮮人に対し「日本から出て行け」「殺せ」などと繰り返すデモ(ヘイトデモ)が、マスコミでも社会問題として取り上げられるようになりました。

そこで、法務省は2016年「ヘイトスピーチ対策法」を成立させました。この法律は、憲法が保障する「表現の自由」によって、罰則や禁止規定はない理念法ですが、自治体に働きかけることや裁判時の判決に影響が出ることが期待されています。

実際、2017年6月には、在日朝鮮人である女性ライターに「朝鮮人のババア」「反日記者」と暴言を吐き、インターネット上でも彼女の容姿や人格を中傷する書き込みをした男性の行動に対し、大阪高裁は人種差別と女性差別との「複合差別」だと認定。これは国内で初めてのヘイトスピーチの認定となったのです。

更に、法務省はヘイトスピーチに当たる典型例を発表しています。「殺せ」「海に投げ入れろ」などの脅迫的発言や、「ゴキブリ」などの昆虫に個人を例える侮辱的発言、「祖国に帰れ」「この町から出て行け」といった地域からの排除する言動を公表しています。自分ではヘイトスピーチだとは思っていなかったことが、実は該当することもあるかもしれません。

日本ではやっと法規制が始まり、多くの人に認識され始めている問題なのです。

日本でヘイトスピーチが増えた理由とは?

しかしなぜヘイトスピーチは、ここまで拡がりを見せたのでしょうか。『日本型ヘイトスピーチとは何か: 社会を破壊するレイシズムの登場』では、日本におけるヘイトスピーチ増殖の原因として、戦後日本社会における「反レイシズム(反差別)の社会的規範の不在」を指摘しています。

この背景として「日本型企業社会」を指摘している点は、興味深いといえるでしょう。人種的な差別だけではなく、年齢や性別による差別が横行する日本の企業社会。この社会は時として長時間労働によって、「労働者から自由時間を奪いとり、社会的・政治的主体性を形成することを妨げ、代議制民主主義を機能不全におとしいれる一因ともなった」(本書より引用)としています。

著者
梁 英聖
出版日
2016-12-21

さらに本書では、政治家などによる「上からの差別煽動」、自らの都合で歴史を歪ませる歴史修正主義の立場に立った歴史否定によって行われる煽動なども、ヘイトスピーチの横行に関わったとしています。

このような差別が放置されれば、命が脅かされることにも繋がっていくでしょう。第3章でも触れられていますが、かつて関東大震災時には朝鮮人虐殺などが起きました。そして第1章では、今なお続くヘイトスピーチについての記述もあり、具体例を学ぶことも出来ます。過去、現在、そしてこれからの未来を考えていく上で重要な1冊となってくるはずです。

対策法とは何か?残る課題は?

日本でも2016年、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」ですが、通称として「ヘイトスピーチ対策法(あるいは規制法、解消法)」が成立しました。

果たしてこの法律では、どこまでヘイトスピーチに対応できるのでしょうか。理念法である対策法が、どこまでの影響力を発揮するのかを予測したのが、本書です。

ヘイトスピーチに関する法の問題を知りたい方には必読の一冊ではないでしょうか。

著者
["板垣竜太", "木村草太", "金 昌浩", "金 哲敏", "金 星姫", "金 竜介", "具 良鈺", "宋 惠燕", "韓 雅之", "李 春熙"]
出版日
2016-08-25

本書は、「ヘイトスピーチはどこまで規制できるのか——人種差別撤廃のために」というシンポジウムの記録を中心に編纂された書籍となっています。

同シンポジウムは、ヘイトスピーチ被害の当事者でもある在日コリアン弁護士協会(LAZAK)が開催したものであり、憲法学者の木村草太、朝鮮近現代社会史や植民地主義の研究を行う歴史学者・板垣竜太も参加しました。

ヘイトスピーチの実態はもちろんのこと、現行法の限界、法的規制の可能性にまで話が及んでいきます。被害者だけではなく、日本にいる一人ひとりが向き合うべき問題であると強く感じられることでしょう。

身近にも溢(あふ)れるヘイト本の実態とは

ここまでヘイトスピーチについて述べてきましたが、自分にとっては遠い存在のように感じている方も多いかもしれません。しかし実際には、私たちの周りには溢(あふ)れているのです。

ツイッターを始めとするインターネットで撒き散らされるヘイトスピーチ。また書店に行けば、ヘイト本(中国や韓国などの他国や民族集団、在日外国人などマイノリティへのバッシングが目的の本)を見つけたことがあるかもしれません。

ヘイトスピーチ自体ももちろん問題ですが、それらを取り上げ、人々の目に頻繁に触れさせるメディア自体に問題はないのでしょうか。そのような考えから、本屋での「ヘイト本」の乱立に危機感を覚えた出版関係者が集まり、編集された本があります。それが『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』です。

著者
["加藤 直樹", "明戸 隆浩", "神原 元"]
出版日
2014-11-01

本書は、2014年に行われたシンポジウム「『嫌中憎韓』本とヘイトスピーチ——出版物の『製造者責任』を考える」をベースとした本です。

ヘイト本に対する書店員の意識調査や、出版に関わる人々がヘイト本が増えた過程などについて意見が交わされています。とりわけ、韓国の書店で「嫌韓本」に匹敵するような「反日本」は見当たらないという指摘は興味深いものです。

日本でいかにヘイト本が溢れ、許されているのか、考えざるを得ない内容といえるでしょう。

差別を食い止めるため、一人ひとりが正しい意識を持つ時が来ているのではないでしょうか。ぜひご紹介した本からヘイトスピーチについて学んでみてください。 

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