沖縄県にある普天間基地の辺野古(へのこ)への移設。そもそも国土面積としては0.6%である沖縄に、在日米軍専用基地の74%が集中しているといいます。今回は普天間基地・辺野古移設問題の概要と、参考になる本をご紹介します。
住宅密集地にあり、世界で最も危険な基地とされる普天間基地。日本とアメリカの間では1996年、普天間基地の完全返還の合意が行われました。
3年後の1999年には、移転先が名護市の辺野古(へのこ)に決定します。2006年には建設計画が決着を見せました。
しかし2009年、鳩山政権が政策として県外移設を掲げ、迷走。2010年には、辺野古移設に関して、日本とアメリカで改めて合意が行われ、安倍政権はその方針に従う姿勢を見せています(2017年3月現在)。
一方、2014年に沖縄で行われた名護市長選挙や、衆院選を含む選挙では、辺野古新基地建設反対を掲げる候補者たちが当選を果たしました。しかし2017年3月現在、依然として辺野古新基地の建設作業は、強行されているのです。
この背景を知るためには、歴史をさかのぼる必要があるでしょう。しかしそもそも「なぜ」沖縄に基地が集中しているのかご存知でしょうか。
今回は、普天間基地・辺野古移設問題について学べる本を3冊ピックアップしながら、その要点をまとめました。
- 著者
- NHK取材班
- 出版日
- 2011-09-22
なぜ沖縄に基地が集中しているのか——。この疑問に対して、関係者への豊富な取材や史実などを基に答えようとした本が『基地はなぜ沖縄に集中しているのか』です。
基地が沖縄に集中し始めた1950年代から、2010年頃の鳩山政権による迷走までの歴史を振り返りながら、沖縄への基地集中問題へ迫っていきます。
賛成・反対という軸からではなく、取材や史実を通して、客観性へのこだわりが貫かれる本書だからこそ、以下のような言葉にも説得力が増します。
「日米安保の改定から半世紀以上、平和と安全を享受してきた日本の安全保障のあり方として、『沖縄に基地が集中する』状況を放置し続けることは、本当に正しい選択だろうか。短い期間であるが、沖縄に身を置き、一連の番組取材を続けてきた者としていま、『いや、そうではない』という思いを強くしている」(本書より引用)
ぜひこの思いに至るまでの過程を、本書で確認してみてください。
また鳩山総理大臣(当時)が、辺野古基地移設の見直しを断念した際に理由とした「抑止力」についても鋭い考察を得られることでしょう。
- 著者
- 新崎 盛暉
- 出版日
- 2016-01-21
日本政府によっても利用されてきたという「対米従属的日米関係の矛盾を沖縄にしわ寄せすることによって、日米関係(日米同盟)を安定させる仕組み」(『日本にとって沖縄とは何か』より引用)である、構造的沖縄差別。
つまり「構造的沖縄差別」という仕組みが、沖縄の犠牲が日米関係を安定させているのです。
本書『日本にとって沖縄とは何か』では、戦後沖縄の歴史を辿りながら、沖縄返還後も続いた「構造的沖縄差別」への理解が深められる1冊です。時系列に話が進められるため、まずは沖縄問題の大枠を掴みたいという方にはぴったりといえるでしょう。
著者は、沖縄現代史研究の第一人者である新崎盛暉。2014年に沖縄で行われた選挙などについても触れられているので、辺野古移設問題などについてのニュースを「なんとなく」追ってきたけれど詳しくは知らない、という方にもおすすめしたい1冊となっています。
沖縄、そして日本のあるべき姿を、本書でぜひ一度考えてみてください。
- 著者
- ["大田 昌秀", "佐藤 優"]
- 出版日
- 2016-08-31
「基地問題に対して、なぜ沖縄がこれほどこだわるのか。それはそこに日本の中での沖縄差別が目に見える形で現れているからです」(『沖縄は未来をどう生きるか』より引用)
このように語るのは、知の巨人ともいわれる佐藤優。本書『沖縄は未来をどう生きるか』では、沖縄戦を自らも体験したという元沖縄県知事大田昌秀と、沖縄にルーツを持つ佐藤による対談が収められています。
対談では、第二次世界大戦中の沖縄戦を含む歴史が振り返られ、普天間基地・辺野古移設問題、さらには沖縄の未来までもが語られていきます。
普天間基地・辺野古移設問題などについて鋭い示唆が得られることはもちろん、教育面からの斬り込みや、沖縄独立論などにも触れられていきます。また所々で、沖縄問題を考える上で役立つ本についての紹介もあり、対談でわかりづらかった箇所についても自学自習できるという魅力を持つ1冊です。
普天間基地・辺野古移設問題を知るには、その背景や歴史を知る必要があります。そのためには取材や史実がメインの書から知識を深めるのも良し、あるいは日本における沖縄の位置づけから知るのも良し、はたまた識者による対談から、論点や示唆を得るのも良いかもしれません。ぜひ自分に合った1冊から、問題の本質を探ってみてください。