年中行事やしきたりに、疑問を持ったことはありませんか?そんな疑問に答えてくれるのが民俗学といってもいいでしょう。これから民俗学を学びたい、そもそも民俗学って何?そんな人に民俗学を知ることのできるおすすめの本をご紹介します。
大学生の「アイ」という主人公とともに、身の周りで目にすること不思議に思ったことをテーマに一緒に学んでいくストーリーを挟み込み、わかりやすく民俗学を紹介しています。
知らない土地には初めて見る習慣があるということを知り、祖父母の世代と自分たちとの行事や冠婚葬祭に対する考え方の違いを目の当たりにする場面は日常によくあります。
そんな事例を取り上げた、民俗学初心者に向けられた入門書です。
- 著者
- ["市川秀之", "中野紀和", "篠原 徹", "常光 徹", "福田アジオ"]
- 出版日
- 2015-09-30
今どきの女の子、「アイ」が日常で感じた疑問や体験をテーマとし、その後に関連する内容を学術的に解説しています。
身に着ける衣服一つとってもいろいろな視点から検証することができます。衣服は改めて他と区別することにより役割を表すことができ、素材に注目すれば、今は化繊が一般的で布は購入して当たり前ですが、かつては麻や綿を糸から自給自足していたのです。
男女の区別がなくなるようなファッションが生まれたり、紙オムツが主流になったかと思えば再び布おむつが見直されたり、過去の習慣や知恵の活用が行われることもあります。
少し前の祖父母の時代には当たり前だったことが変わってしまったとしても、それは連続した過去からの延長線上にある現在なのです。過去が自分とは無関係ではないと認識できれば、おじいちゃん、おばあちゃんに「昔はどうだったの?」と聞きたくなるかもしれません。
「恵方巻」の習慣が全国に広まったり、葬儀社による「葬儀」が一般的になったり、地域による違いがなくなって、土地の民俗を学校で教えるようになってきていますが、現代もまた民俗学の対象ということを気づかせてくれる一冊です。
民俗学は明治から始まった新しい学問分野だと漠然と知っている人は多いと思います。では何故そのような分野が誕生したのでしょう。
民俗というものへの注目は江戸時代からそのきざしが見られ、調査し記録するということが知識人の間に始まっていました。
本書では、個性的な人たちによる個人的興味から発展し、やがて学問へ至る初期の民俗学を、それにたずさわった人物たちにスポットを当てて解説しています。
- 著者
- 福田 アジオ
- 出版日
明治以降、日本における学問というものは欧米から入ってきたものがほとんどですが、民俗学は日本で作り上げられ発展したものだそうです。
ですから当然、当時の大学には「民俗学」という科目はありませんでした。
大学ですでに体系化されているものをなぞるのではなく、独学で地域の特殊性や地域差を採集する方法をあみ出していった人々を紹介している内容です。
有名どころの柳田国男だけでなく、江戸時代の菅江真澄、明治以降の鳥居龍蔵や折口信夫など日常の人々の営みを探究していった人物をわかりやすく解説し、全体で100ページ程度に読みやすくまとめられています。
民俗学発展の歴史を知ることができると同時に本来の民俗学の在り方と目的を教えてくれる一冊です。
民俗学は土地の古老から覚えている古い記憶を聞き取ったりして、過去の事例を扱っていると思われがちです。しかし本来民俗学は、過去から引き継がれ、現在も行われている事象を対象とするものです。
民俗学で探究すべき事象は過去からどう積み重ねられてきたものなのか。その過程を検証することでどう役立つのか。この本は、民俗学に対する誤解や先入観を気づかせてくれるとともに、現代の生きた事象を取り扱うことの意義を教えてくれます。
- 著者
- 福田アジオ
- 出版日
- 2015-03-30
家や家族のありかたは個人というものに比重を置くようになって、その形も変わりつつあります。
墓をどうするのか、葬式ではどうふるまえばよいのか、かつてはあった地域による葬儀の違いも、役割を葬儀社が担うようになってその様相も変わってきました。
かつては地域による多様性のあった日本の文化は、現在、外国の文化が定着することにより新しい多様性が生み出されています。
しかし、昔に比べて変わったということを否定的に見るのではなく、変化した様々な今を過去からのつながりとしてとらえるのが民俗学なのです。
昔あった習慣やしきたりが、今にどうつながりどう変化したのか。パワースポットはどうして流行るのか。いじめや差別が起こる構造のヒントはどのように見出すことができるのか。
日本人の根底にある無意識が、「今」という現象を形作っているのです。
現在起こっている事象を知るための学問が民俗学だということを教えてくれる一冊です。
この本は、柳田国男の功績を讃える伝記ではありません。
戦前、戦中、戦後を生きた柳田が、彼を取り巻く人間関係や社会状況の中で、どのような姿勢で民俗学に取り組んだのかを紹介する内容です。
農政官僚として農村の変わりゆく姿や貧しさを目の当たりにしていた柳田にとって民俗学は、現在の生活をより良いものにするためにその研究成果を活用するということを意識していたはずです。
この本は本来の民俗学の目的とその手法を知ることのできる内容となっています。
- 著者
- 鶴見 太郎
- 出版日
- 2008-09-10
柳田国男と社会主義者との関りや、柳田に影響を受けた弟子たちの研究に対する態度などを詳細に検証し、初期の民俗学がどのように構築されていったかが記されています。
柳田の土地の人々に対する敬意や信頼関係を知ることによって、民俗学をするうえでのコミュニケーション能力の重要性を理解することができます。
自分たちの行動の結果がどうなるのかを予測する能力をつけることが柳田の民俗学の根底にある理想でした。
郷土という意識が弱くなってきている今、柳田民俗学はどう役立てることができるのか、柳田国男が目指した日常から将来を推察するという民俗学の課題は、現在に有効に活用しうるのかという投げかけを記した一冊です。
〇〇学というと学術的でむずがしそう、と思う人もいるかもしれませんね。
確かに民俗学も学問ですが、民俗学の対象範囲はとても広いのです。日常に当たり前にあるものや事柄をテーマにできるのが民俗学の面白いところです。
本書は、定番の年中行事や儀礼だけでなく、こんなことも民俗学?と思うような遊びや都市伝説なども取り上げ親しみやすい内容になっています。
見開き半分にイラストで分かりやすく解説されていて、肩ひじ張らずに気楽に読むことのできる本としておすすめです。
- 著者
- ["八木 透", "政岡 伸洋"]
- 出版日
日本の民間信仰の中に見える祈りと畏れ。神様と仏様には場合によって対応を変える日本人の宗教観。占いや呪い、願掛け、妖怪や都市伝説など日本人の精神世界について。いずれも日常私たちが意識せず話題にするようなこともなぜそうするのか、なぜそう思うのかがなかなか説明できないものです。
年中行事の本来の意味とその変化。昔話や子供の遊びに隠された意味。それらのことを紐解くと日本人の考え方や行動の根源に触れるようなヒントを見出すことができます。
身の周りのあらゆることが民俗学の題材になることをわかりやすく解説してくれています。これからの民俗学への展望や問題点も提示して硬軟おりまぜた内容で、コーヒーブレイクに気軽に読める一冊です。
民俗学入門としておすすめの5冊、いかがでしたか。古いことを扱っている学問と思われがちな民俗学ですが、現在を知るための手法として古いことを調査しているのだというとが理解できるものをご紹介いたしました。これらの本から民俗学への興味をさらに深くしていただけると幸いです。