サイケな快感、謎めくミステリー5冊
僕は昔からミステリー小説がけっこう好きです。シャーロックホームズや江戸川乱歩の少年探偵団シリーズに始まり、古典的な本格ものから新本格みたいな比較的最近のものまで、広く浅くなんとなく読んできた程度には好きです。

ただ、その中でも自分の好みはというと、パズル的な謎解きばっかりメインでやっているものはあんまりグッとこずで、むしろミステリーの枠を飛び越えていたり、もっと普遍的な人間の業みたいなものを描こうとしていたり、そういったものにとても感動する傾向があります。

結局自分が反応しているのは、謎めいた出来事が起こってしまうことで、日常的な光景がぐにゃっと歪んでしまう、「異化効果」みたいな部分なんじゃないかと思います。普通だと思っていた場所や人がある日突然おかしくなってしまう、そのことに自分は何かサイケな快感を見いだしているのではなかろうかと。

今回はそういう謎めいた快感に満ちた本を紹介します。上に書いたような基準で選んでるので一見探偵小説めいてても全然中身はそうじゃない、みたいなものが多いですけど。

スタイルズ荘の怪事件

著者
アガサ クリスティー
出版日
クリスティはがっつり本格派ですが、すごくいいなと思うのは、どんだけ緻密な推理・探偵物を書いていても、結局最終的にはクリスティは人間を描こうとしているんではないかと感じるから。それってやっぱロマンのある普遍的な謎じゃないですか。

名探偵ポアロが初登場する本作はクリスティのデビュー作。どこをとってもブリリアント!

木曜の男

著者
G.K.チェスタトン
出版日
有名な探偵小説のブラウン神父シリーズを書いたチェスタトンの長編。無政府主義の秘密結社に潜入し「木曜」のコードネームを与えられた詩人が体験する白昼夢のような冒険を巡る話(結社の他のメンバーも曜日の名がつけられてる)。「推理小説」と文庫の紹介には書いてあるけど、全然違うと思う。

チェスタトンの小説は、登場人物にしてもストーリーにしても寓意に満ちた神話の中の出来事みたいで、ある意味ファンタジーっぽいというか、あんまりリアリティがない(台詞とか言い回しとか、もったいぶってて衒学的で個人的にはけっこう鬱陶しくもある)。ただそれがチェスタトンの作品の特徴だし、不思議な魅力にもなっていて、このかなりミョーな感覚はあまり他では味わえない。

クライマックスの幻想的な場面と「えーそこまでいっちゃうの!?」っていう感じ、自由を巡る人間のあり方を問おうとしたチェスタトンの苦闘が見えて、とても味わい深し。あと「日曜」が爆走するシーンがめちゃ笑える。

燃えつきた地図

著者
安部 公房
出版日
1980-01-29
失踪した夫を捜して欲しいとその妻から依頼された探偵が、捜査を進めるうちにどんどんわけわかんなくなっていって、荒涼とした都市の中で色んな意味で迷子になっていく物語。

安部公房印の不条理で超現実的な物語だけど、探偵小説の形態を借りてることでわかりやすくて、不気味ながら疾走感あってとても面白い。

幽霊たち

著者
ポール・オースター
出版日
1995-03-01
探偵ブルーがある日、ホワイトという依頼人からブラックという男を見張るように頼まれる。でも見張りを続けてもいつまでたっても何も起こらず、ホワイトからの指示も来ないし、なんでもない宙ぶらりんな時間に閉じ込められたブルーはやがてある疑いを持ちはじめる……っていうおはなし。

『燃えつきた地図』にしてもこの作品にしても、謎の解決が主眼なのではなくて、謎が謎として形になっていく過程や、謎そのものだったりを描くことであらわしたいものがあったのだろうと思います。私が私であることを問うてるってことではだいぶ哲学っぽいっすね。

質問

著者
田中未知
出版日
2000-07-01
寺山修司の秘書であり劇団天井桟敷のメンバーでもあった著者の、これは……なんていったらいいの?? とにかく質問の本です。365個の日本語と英語の質問が記されております。

寺山修司はこの本を指して「ミステリー」と評したそうだけども、たしかに純然たる問いかけのみでできている(構成も含めて)この本はシンプルに謎でありミステリーです。普通に質問がとてもナイスで、ハッとさせられるものが何個もあって、気がつくとパラパラめくって見ちゃいますね。「犬も夢を見るのでしょうか」「今までに忘れた人は全部で何人いますか」「心も年をとるのでしょうか」……。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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