僕は昔からミステリー小説がけっこう好きです。シャーロックホームズや江戸川乱歩の少年探偵団シリーズに始まり、古典的な本格ものから新本格みたいな比較的最近のものまで、広く浅くなんとなく読んできた程度には好きです。
ただ、その中でも自分の好みはというと、パズル的な謎解きばっかりメインでやっているものはあんまりグッとこずで、むしろミステリーの枠を飛び越えていたり、もっと普遍的な人間の業みたいなものを描こうとしていたり、そういったものにとても感動する傾向があります。
結局自分が反応しているのは、謎めいた出来事が起こってしまうことで、日常的な光景がぐにゃっと歪んでしまう、「異化効果」みたいな部分なんじゃないかと思います。普通だと思っていた場所や人がある日突然おかしくなってしまう、そのことに自分は何かサイケな快感を見いだしているのではなかろうかと。
今回はそういう謎めいた快感に満ちた本を紹介します。上に書いたような基準で選んでるので一見探偵小説めいてても全然中身はそうじゃない、みたいなものが多いですけど。
スタイルズ荘の怪事件
クリスティはがっつり本格派ですが、すごくいいなと思うのは、どんだけ緻密な推理・探偵物を書いていても、結局最終的にはクリスティは人間を描こうとしているんではないかと感じるから。それってやっぱロマンのある普遍的な謎じゃないですか。
名探偵ポアロが初登場する本作はクリスティのデビュー作。どこをとってもブリリアント!
木曜の男
有名な探偵小説のブラウン神父シリーズを書いたチェスタトンの長編。無政府主義の秘密結社に潜入し「木曜」のコードネームを与えられた詩人が体験する白昼夢のような冒険を巡る話(結社の他のメンバーも曜日の名がつけられてる)。「推理小説」と文庫の紹介には書いてあるけど、全然違うと思う。
チェスタトンの小説は、登場人物にしてもストーリーにしても寓意に満ちた神話の中の出来事みたいで、ある意味ファンタジーっぽいというか、あんまりリアリティがない(台詞とか言い回しとか、もったいぶってて衒学的で個人的にはけっこう鬱陶しくもある)。ただそれがチェスタトンの作品の特徴だし、不思議な魅力にもなっていて、このかなりミョーな感覚はあまり他では味わえない。
クライマックスの幻想的な場面と「えーそこまでいっちゃうの!?」っていう感じ、自由を巡る人間のあり方を問おうとしたチェスタトンの苦闘が見えて、とても味わい深し。あと「日曜」が爆走するシーンがめちゃ笑える。