忙しい日々の中、ちょっと気を抜ける本【ハッカドロップス・マイ】
もちろん暇が良いというわけではないけれど……

1日どっぷり休めなくとも
少し空いた時間にこんな本があったら
休めない心にこんな本があったら
ちょっと気を緩めて頭を旅させるのに最適だ!
と、思う本を今回は紹介いたします。

独特のゆるさを味わう

著者
いとう せいこう
出版日
終わりを決めていない休暇、南の島でそんな日々を過ごす中
頭に現れる童話の端っこから、全体を思い出そうとする
あれってなんだっけ、と思って頭をひねって最後まで思い出すことって
最近じゃあんまりない気がする。
端っこさえわかっていればすぐに検索してしまうから。
そして間違っていない情報を確認して満足する。の繰り返しじゃないか。
しかもこの本、思い出した童話の筋がなんとなく違っているのだ
自分の童話に関する記憶も確かではないけれど結構違ってると思う。
けれど主人公はそうだ、これだったと納得して
さらには、どうしてこうなるのかという考察まで始めてしまう……(「これ」の検証を最後までしない)。
こんな緩さが最初は気持ち悪いのですが、だんだんと慣れていくのが不思議である。
最後には、正確さを求めてしまう感覚の方がおかしいんじゃないかというところまで来てしまった。

気軽に幸せになったり不幸になったりできる本

著者
辛酸 なめ子
出版日
2006-02-17
今月の幸福な消費と不幸な消費について、
実際に購入したものを挙げながら綴られていく買い物記です。
“物を買うときの高揚感と少しの罪悪感は病みつきになります。生きるためのお金を自分で稼がなければならない大人になった今、買い物は万引き以上にスリルがあると言えましょう”
この、高揚感と罪悪感については多くの人が身に覚えがあるのでは、と思う。
私は、大人になったのは結構前だけれど、
今だに自分で稼いだお金でものを買うという行為に嬉しくなってしまうことがよくある。
そしてお金を払った後、幸福な気持ちになれる時と
不思議にやりきれない気持ちになるということがある。
この繰り返しをひたすら追っていく内容なのですが
身銭を切らずとも、本を読むだけで買い物をしている気分になって、
気軽に幸せになったり不幸になったりできるのでオススメです。

思い出さないのが素敵

著者
佐野 洋子
出版日
2009-07-28
絵本『100万回生きたねこ』の作者である佐野洋子さん、エッセイ集。
この本によると佐野洋子さんはとにかくお布団の中で寝るのが好きらしい。
この事実を知っただけで随分気持ちが軽くなった。
“私はベットの中に居るのを白い目で見られたくないのである。ただそれだけである”
私は眠るのが昔からとにかく好きだった、みんなだって本当は
できることなら誰にも文句言われずにずっと寝ていたいんじゃないかと思っている。
佐野洋子さんの本は気張らないので、のんびりしたい気持ちの時にも合っている。
タイトルになっている「覚えていない」というのは
電話が誰の家にでもあるわけではない特別な手段だった時の
待ち合わせはどうしていたんだっけってこと。
そして、この中で思い出さないのが素敵だ。
覚えていないのがいいのだ。

立ち止まってゆっくり考える

著者
アン・モロウ・リンドバーグ
出版日
1967-07-24
“また時計のように正確に歯車が回っているとしか思えない生活をしている人たちの中にも、もっと豊かな休止がある律動を、またもっと自分たちの個人的な要求にか適った生き方を、そしてまた、他人、及び自分自身に対してもっと新しい、有意義な関係に立つことを望んでいる点では、私と変わらないものが少なくなかった”
と、リンドバーグ夫人はこう語る。
生活を積み重ねる中でなんとなく、やり方やリズムって決まってくる。
けれどもそれが全てではないと、立ち止まってゆっくり考えて見るというのも大切だと思っている。
リンドバーグ夫人が海辺で、ほら貝やつめた貝や日の出貝や牡蠣を手に取りながら
自身の生活や家の持ち方などについて振り返って考える
貝と人生と何の関係があるのかと思うけれど、
自然が創った形状というのは真理を持っているもので、
夫人の話は不思議と生活のあり方等に結びついていく。
海からの贈り物である。

「放浪」から見えてくる純粋さ

著者
山下 清
出版日
日本列島を放浪していた画家、山下清さんの放浪記。
放浪なんて学生時代の期限付きの特権だと思っていたけれど、こんなにゆっくり長い間
日本列島を放浪していた人もいるのだ。
人にあいさつをしない、恥ずかしいから黙っている。という山下清さん。
今、自分が挨拶をするのが恥ずかしいなんて言ったらめちゃくちゃ怒られそうだけど、
そこにある恥ずかしさって自分も昔持っていたので、分かるなぁと思った。
“どうしてだまって帰ったかときかれて、ぼくはほんとに困ってしまった。そのわけを話しても、そのわけはわかってもらえないのでだまってしまった”
子供の頃みたいな素直な繊細な感覚のまま旅をする山下清さんに
小さいことで怒ったり、人を判断したりしてしまうこともある日常を
ちょっと戒められるような気持ちになります。

この記事が含まれる特集

  • 本と音楽

    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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