人間の本質的な部分を描き出す鬼才、山本英夫のおすすめ作品をピックアップしました。彼の魅力に取りつかれてみたい方は、ぜひ読んでみてください。
ちばてつやヤング部門期待賞に入賞し、弘兼憲史やくじらいいく子のアシスタントを経験した後、『SHEEP』でデビューを果たした漫画家山本英夫。代表作の『のぞき屋』以外にも、この記事でご紹介していく『ホムンクルス』、『殺し屋1』など名作を多数執筆しています。
作品を描くにあたって実体験と取材を綿密に行う山本英夫は、『のぞき屋』という作品では探偵学校に入校したり、『ホムンクルス』では西新宿でホームレス生活を送ったりしたこともあるようです。とにかく徹底した実体験、取材をもとに描かれている作品はファンを引き込んで離さない、そんな魅力を放つものばかり!
ちなみに趣味は格闘技観戦。自身も柔術や空手を嗜んでいるそうで、その経験は『殺し屋1』の主人公の戦いの描写などのように、作品に活かされていることがわかります。登場するキャラクターにはプロレス団体UWF系のレスラーの名前を用いているので、プロレスを知っている方であれば、知っている名前が登場するのを楽しむこともできそうですね。
テーマとして、人間の深層心理や、心の闇、本質的な部分に踏み込んでいく作品を数多く執筆しています。少々哲学的な印象も与える作品が、ファンを惹きつけてやまない山本英夫作品の魅力なのでしょう。
新宿西口にある一流ホテル、そしてホームレスだらけの公園。正反対に位置する2つの世界。その狭間の路上で車上生活を送るホームレスの名越進はある日出会った謎の医大生、伊藤学から、トレパネーションという頭蓋骨に穴を開ける手術を受けてくれないかと声をかけられます。第六感が芽生えるという手術の報酬は70万!最初は拒否していた名越でしたが、大切な愛車がガス欠になったことでどうしても金が必要になり、手術を受けることに。術後、名越の左目は不思議な世界を映し出すようになっていました。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2015-05-15
怪しい医大生の伊藤に施されたトレパネーションという手術により、左目で人間が不思議な形に見えるようになってしまった名越。伊藤はそれを、他人の深層心理が形を成して映し出されているのではないかと興味を持ち、ホムンクルスと呼ぶようになります。つまりタイトルは名越の見ている異様な人間の姿のこと。様々な心の闇を抱える人々と交流することになっていく名越の物語、不思議な世界から目が離せなくなることでしょう。
実際、自身の左目が映しだす不思議なものにとり憑かれたように、名越はホムンクルスを見ずにいられなくなっていくのです。そうして他人だけでなく、徐々に自分の内面とも向き合っていくことになります。普通は見ることのない世界を見、深く踏み込んでしまった名越を待っているのは一体どんな結末でしょうか。
『ホムンクルス』は人間の深層心理を題材にした哲学的な作品でもあります。名越の見る世界に、漫画を通して踏み込んでみてはいかがでしょうか。
『ホムンクルス』については<漫画『ホムンクルス』が怖すぎ?あらすじ、結末の意味などネタバレ解説!>の記事で詳しく紹介しています。
新人のスマイルと、イルカ並みの聴覚をもつ聴(チョウ)と共に探偵業を営む主人公の見(ケン)。彼はお客から依頼を受ければどんな人間の生活も覗いて調査します。見には特殊な能力があり、彼は人の心の中まで覗くことができる「のぞき屋」のプロなのです。
本作は、見のところへやって来る調査依頼を通して、様々な事件や人間模様を描いた作品です。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2005-09-15
人の欲望、心の闇、そういったものを題材とした『のぞき屋』。山本英夫作品らしい哲学的な雰囲気を醸しだしています。少しコメディタッチな要素も交えつつ、見を通して人々の心を覗いていく展開は、テンポも良く進むので読みやすくおすすめです。
のぞき、盗聴、ピッキング、この作品を描くにあたって実際に探偵学校に入校している山本英夫の実体験と取材がいきたリアルさも感じられます。
人間の心を覗く主人公、見の目を通して、外見ではなく本当の心の中を見てみませんか?
『おカマ白書』は、山本英夫には珍しいギャグ、ラブコメ作品。主人公の岡間進也は、写真で見た理想の女性に一目ぼれ。しかしそれはコンパで泥酔した際にイタズラで女装させられた自分の姿でした。友人の田中におかまバーへ連れていかれ、なんだかんだと理由を付けられキャサリンとしてホステスデビューを果たした進也は、女装した自分の姿にそっくりなミキに出会い、恋に落ちてしまいます。2人の恋の行方は一体どうなってしまうのでしょう。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
女装した自分に惚れてしまうという斬新な設定からストーリーは始まります。実際、岡間の女装姿がとても可愛らしい!そんな自分自身が理想の女性像となってしまった彼は、自分とそっくりな美少女ミキに出会い一目ぼれしますが、ミキは岡間をキャサリンとしか認識しておらず……という難しい恋模様に発展していきます。下ネタあり、笑いあり、ちょっとシリアスもあり、ドタバタ楽しい展開から目が離せません!
初めて読む方はもちろん、先にご紹介したような山本英夫の他作品をご存知の方にとっては珍しいテイストの作品として楽しむことできるでしょう。キャサリンであり進也である主人公と、ミキの恋の行方をぜひ見届けてあげてください。
衰退の一途を辿るヤクザ社会を立て直すべく、嗅覚に長けたスメルと呼ばれる男が設立した秘密結社の会合が突如、透明人間の襲撃にあいます。仲間が死んでいく中、感覚を研ぎ澄ましたヤクザたちが徐々に透明人間の姿を感じ始め……。
なんの変哲もない密室で、透明人間VSヤクザという未知の世界が繰り広げられます。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2016-02-29
透明人間VSヤクザという、一見ぶっとんだとも思える設定にも説得力を持たせてしまう、画力とセンスが光る『アダムとイブ』。その上舞台となるのはなんの変哲もない密室。数少ないキャラクターと変わらない舞台で、読者を飽きさせることなく物語を展開している点も魅力です。
集まっていたヤクザたちは皆五感だけでない、第六感を持っている人間ばかり。嗅覚、味覚、触覚、それぞれに何かしら優れた感覚の持ち主なのですが、個性的で印象的、きっとクセになるそんな味のあるキャラクターが登場します。
鬼才、山本英夫と『サンクチュアリ』などで知られる漫画家の池上遼一のタッグで生まれた『アダムとイブ』。才能を持つ者同士の化学反応が楽しめる作品です。
主人公のイチが所属する、ジジイと呼ばれる男が率いる歌舞伎町のハグレ者グループと、敵対している暴力団の安生組。この2組の抗争を通して、殺し屋であるイチの抱える歪んだ性癖、生き様を描いた作品です。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
あまりにも過激でグロテスクなシーンが多いため、お子様や、そういった作品が苦手な方にはおすすめできませんが、ハラハラ感や先が気になってついついページをめくる手が止まらない、そんな人を引き込む勢いと魅力のある作品でもあります。
主人公イチは実は極端なまでのサディスト。もう1人の主人公として物語の主軸を担うヤクザの垣原はマゾヒストであり、この2人の対峙が大きなテーマとなっています。人間の持っているノーマルな感覚を、異常なまでに極端に表現しているのです。
いじめられっ子だったイチが殺し屋として、ヤクザの組を潰していく過激な展開にぜひのめり込んでみてください。グロテスクなものが苦手な方はくれぐれもご注意を。
『殺し屋1』については<漫画『殺し屋1』のハードすぎる魅力をネタバレ考察!>で詳しく紹介しています。
いかがでしたでしょうか。どれもこれも山本英夫の魅力の詰まった作品ばかりなので、ぜひ楽しんでみてくださいね。