昭和末期から平成初期にかけてアニメブームを引き起こし、SF漫画作家として知られる松本零士ですが、実はSF漫画以外にも多くの作品を世に残しています。今回は、そんな松本零士のおすすめ漫画をランキング形式でご紹介いたします。
松本零士は1938年1月、福岡県で生まれました。元自衛隊だがプライドゆえに貧乏生活を選んだ父親と、元教師であり一生懸命働きながら自身を育ててくれた母親の元で育ちました。
小学生のときから漫画が好きだった松本零士は、高校1年生のときに投稿した作品が雑誌に掲載されてデビューします。
漫画好きでありながら、読書家でもあった松本は、SF小説を愛読していました。その影響もあり、デビューしてからしばらくはSF漫画をいくつも投稿しています。しかし、有名漫画家となった今では考えられませんが、どれもすぐ打ち切られてしまっていたのです。
1971年から連載された非SF漫画である『男おいどん』がヒットし、その後はSF漫画も人気を博します。アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の製作にも携わり、複数の大学教授を担うなど、漫画以外の方面でも活躍しています。
松本零士の作品の特徴として、平凡な男と完璧な美女をセットで出すことが多いことです。松本が描く、髪やまつげが長くスタイルの良い、包容力のある美女たちは、松本ファンにとって女神といっても過言ではありません。
作品テーマも、SFや戦闘機、さらに少女漫画、動物ものなど、多岐にわたっています。どのようなテーマでも、生き方や人間関係といったものを軸にしていることが多いのも松本零士作品の特徴です。
「漫画ゴラク dokuhon」で1970年ごろに連載されていた、文庫版で全3巻の作品です。
舞台は2222年の日本。世界は絶えることなく争いが続いています。そんな中、日本が考えているのは、他国を出し抜いて日本だけに利益をもたらす様々な「計画」でした。
敵対する国や組織が、「計画」の情報を盗んだり妨害したりしようとするのを阻むのが、政府機関のG局です。ここに所属するのがスパイのシマ、それと性的機能を持ち合わせているロボット、セクサロイドのユキです。
二人は恋人同士でありながら、仕事におけるパートナーでもあります。しかし、その魅力ゆえに、ユキ自身が敵の目に留まることも。シマは、「計画」とユキとの愛の両方を守れるのでしょうか。そして日本の将来やいかに……!
- 著者
- 松本 零士
- 出版日
- 2010-01-08
セクサロイドという言葉自体、知らない方がいるかもしれません。無機質なアンドロイドとは違い、限りなく人間に近いアトラクティブな女性ロボットであるユキは、作中でも妖艶で魅力的に描かれています。
仕事で疲れたシマを癒す一方、一途に愛しているシマが浮気しても許してあげるユキは、男性にとって理想的な、どこか母性を感じさせる女性であることでしょう。松本零士の絵柄が、さらにユキを官能的に描いています。作者自身が「『セクサロイド』は私の夢」といっているほどです。
日本人を宇宙に移住させたり、地球を2つに分断することで争いをなくそうとしたり、作中に出てくる「計画」はまさにSFの王道。ファンタジックもエロティックも兼ね揃えた、男性向けの松本零士作品です。
1971年から1973年にかけて「週刊少年マガジン」で連載されていた、全6巻の作品です。
九州男児の大山昇太(おおやまのぼった)は、「無芸大食人畜無害」を信条とする都会生活の浪人生です。工場で働きながら夜間学校に通うも、クビになり、お金もなく中退してしまいます。
日々の生活もままならない貧乏暮らし、加えて昇太は背が低くブサイクというマイナス要素の強い男ですが、どういうわけか何かと美女にご縁があるのです。そんな冴えない男が、平凡な日常で前を見続ける物語です。
- 著者
- 松本 零士
- 出版日
都会を夢見て上京するも、大抵の人は世界の大きさに心を折られ、「身の程にあった」日々を送ることになります。しかし、一人称が「おいどん」である田舎くさい昇太は、「いまに見ちょれ、おいどんがんばるど!」と決してうつむくことをしないのです。
自分で視野を狭くせず、基準を下げず、見た目がだめでも前向きに生きる昇太はまさに漢。その魅力に惹かれて美女たちは寄ってきているのでしょう。結局昇太から離れていってしまいますが、そのあたりに人生がそう簡単に展開されないリアルさを垣間見ることができます。
松本零士といえば、SF漫画が主流です。しかし、本作では「夢のない」現実における、「夢をもつ」青年の生き様と、彼を取り巻く人々による人情味溢れる日々を描いています。
松本零士自身も九州出身であり、漫画家になって投稿した作品も打ち切りになることが多かったそうです。彼を有名にさせた、ヒット作の第1本目が『男おいどん』なのです。もしかしたら、松本零士は自分を昇太に重ね合わせ、同世代の夢見る若者たちだけではなく、自身をも励ます漫画を描いていたのかもしれませんね。
文庫版で全8巻の短編集です。
第二次世界大戦において、男たちは戦闘機に乗り込み、銃を抱え、命を懸けて戦っていました。戦争には死がつきものです。敵を殺し、仲間が死に、自分のことを誰かが殺す……。松本零士の本作は、1作完結のオムニバス方式で、そんな時代に生きた主人公たちの生き様を描いています。
- 著者
- 松本 零士
- 出版日
戦争中の話というと、どうしても読んだ後に心苦しくなってしまいます。「もし自分が戦争に駆り出されて、明日死ぬとしたらどうしよう」と想像し、失ってしまうことになる未来に涙が出そうになることでしょう。
松本零士の本作の登場人物たちも、多くが未来を失います。しかし、大和魂とでもいうのでしょうか、ただでは死んでいかないのです。
特に焦点を当ててご紹介したいのが、特攻隊員の話です。パイロットが特攻用ロケットに乗り込もうとも、途中で撃墜されてしまえば意味がありません。「音速雷撃隊」では、作戦を成功させるために、仲間たちがパイロットと特攻用ロケットのために戦う話です。
仲間と協力して戦うという言葉は、響きは良いですが、実際は「仲間を死に向かわせるために」協力して戦っているのです。本作を読むことで、この残酷さは忘れてはいけない痛みとなり、読者はこの事実を記憶せざるを得ないでしょう。
松本零士の父親は、戦時中の飛行隊隊長であり、彼の部下のなかにも特攻で命を落としたものは少なくありません。本作は、この父親の存在から少なからず影響を受けているでしょう。
日本についておしゃべりをして油断している米軍戦闘機が、次のページでは見開きで追撃されているような、あっけない死が少しユーモアに描かれているシーンもあります。ずっとシリアス展開が続くのが苦手な人でもぜひ読んでほしい松本零士の作品です。
1977年から1981年にかけて連載されていた、文庫版で全12巻の作品です。
主人公・星野鉄郎は、母親が殺される寸前に、1000年は生きられるという機械の体を手に入れるように、と告げられます。そして、彼のもとに現れたのは謎の美女・メーテルでした。メーテルは自分と同行すれば、機械の体を手に入れられる惑星「アンドロメダ」へと続く「銀河鉄道999」のフリーパスをタダでくれるというのです。
- 著者
- 松本 零士
- 出版日
星野鉄郎とメーテルが行く惑星は、地球とは異なる法律によって縛られた、様々な人々がいます。あまりに違いすぎるその惑星の「常識」を目の当たりにすることで、星野鉄郎は成長していきます。
例えば土星の衛星であるタイタンでは、楽国法という法律があります。何をしても権利の自由の尊重とみなされ、それゆえ犯罪が横行している星です。ここでメーテルが拉致されてしまうのですが、悪が蔓延る巣窟へ、平凡な少年である星野鉄郎がメーテルを救出しに向かうところは必見ですよ。
多くの星を訪れるにつれて、星野鉄郎は自分の願望、すなわち体の機械化が正しいことなのか、葛藤し始めます。そして、物語終盤で、なぜメーテルが星野鉄郎の同行を許したのか、真の目的が明らかになるのです。
松本零士特有の、美しく、母性溢れる、理想的女性として描かれるメーテルを前に、星野鉄郎は体の機械化を決行するのか、それとも……。ただのSF物語では終わらない、命とは何かを考えさせられる漫画です。
本作は原作が存在しないアニメであり、これを松本零士が漫画化した、全2巻の作品です。
2199年、地球外生命体によって撃ち込まれ続けた放射性物質を含む爆弾により、地球は滅亡の一途を辿っていました。もはや最後の希望も途切れ、人類は滅亡するしかないというとき、イスカンダル星から、放射性物質を除去する装置引き取りを催促するメッセージが届いたのです。
一方、地球の海が干上がり、沈没した戦艦「大和」も姿を現していました。地球防衛軍はこれを改造し、宇宙戦艦ヤマトを生み出しました。若者たちを乗せた宇宙戦艦ヤマトは、1年というタイムリミットのもと、最後の希望を背負いイスカンダル星へと向かいます。
- 著者
- 松本 零士
- 出版日
アニメが元であるなら松本零士色は少ないのではないかと思う人もいるかもしれませんが、心配はいりません。
アニメ制作においても、松本零士はメカやキャラの設定などを監督しています。もともとアニメ制作に興味があったため、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の時点で十分松本色が強くなっているのです。
さて、アニメの話は置いておき、漫画の魅力をご紹介します。戦艦の描き込みが丁寧で、これまで紹介した作品より見やすいものとなっています。キャラクターも現代的な絵柄なのですが、松本零士特有の理想的ルックスをした美女はもちろん登場。
ストーリーも1位にふさわしく、アツくて男のロマンあふれるものになっています。1年以内に地球に帰還しなければ、放射能除去が間に合わず人類は滅亡しているという事態です。背水の陣で宇宙へと挑む男たちの姿に、胸を躍らせない人はいません。
SF要素だけでなく、人間関係も巧みに物語に組み込まれています。家族を失った者、戦艦の乗組員と恋仲になる者、仲間のために命を懸ける者……。様々な思いが入り組んでおり、子供も大人も楽しめる松本零士の作品です。
以上が、松本零士のおすすめ漫画ランキングベスト5でした。SFだけでなく、人情を描き、人生や命という壮大なものをテーマを置くことにも長けていることがわかっていただけたかと思います。未読のかたはもちろん、一度読んだことがある人も、それを踏まえて読み直してみてくださいね。