田村隆一のおすすめエッセイ5選!詩人らしい軽妙な文章を楽しむ

更新:2017.4.12 作成:2017.4.12

田村隆一は、谷川俊太郎、吉増剛造と並ぶ戦後を代表する詩人です。詩人として有名ですが、エッセイを綴り、アガサ・クリスティの作品も多く翻訳しています。数々の作品から、今回は田村隆一のおすすめエッセイを5選ご紹介します。

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詩人、田村隆一の生い立ち

田村隆一は現在の東京都豊島区南大塚あたりで生まれました。東京府立第三商業学校を卒業した後、就職するも1日も出社せずに仕事を辞めてしまいます。

その後研数学館で浪人生活を送り、明治大学文芸科に入学し卒業。1939年には中桐雅夫が編集を務めた「ル・バル」に参加します。その縁もあってか鮎川信夫と知り合い、1947年に詩誌『荒地』を創刊。

1950年には翻訳者としても活躍するようになります。中でもアガサ・クリスティの翻訳は有名。その出版元であった早川書房に数年間勤務し、編集と翻訳にあたりました。当時の部下からは「有能だが、あまり仕事をしない、風流人」と言われていたそうです。

1956年になると初の詩集『四千の日と夜』を刊行。詩壇からの評価も高く、発売からたった2年で『現代日本文学全集』に収録される偉業を成し遂げます。1963年には『言葉のない世界』で高村光太郎賞を受賞し、その後も数々の詩人賞を受賞しています。

田村隆一の自由奔放な詩人ノート

田村隆一の『詩人のノート』は1974年から1975年の1年間、朝日ジャーナルで連載されたエッセイです。当時は、オイル・ショックや第四次中東戦争勃発など戦後の動乱期であり、そうした社会情勢からも連載を続けることが難しかったでしょう。

そんな動乱期にもかかわらず、どこか気の抜けたような語り口が魅力的な『詩人のノート』は自由奔放な田村隆一らしい作品。作中では章ごとに詩を紹介し、その詩とどこで出逢ったかや制作秘話なども記されています。

著者
田村 隆一
出版日
2004-10-09

西脇順三郎の引用から始まる本作。自分の詩はもちろんのこと、心に残る詩に、その時想った田村隆一の心情が添えられています。短くも軽快なタッチに思わず笑ってしまうことも。

戦後の動乱期に書かれたとは思えないほど、田村隆一が取り巻く周辺は穏やかで平和的です。鎌倉やインド、戦争のこと、そして飲んだくれの奔放ぶりを味わうことが出来る作品でしょう。

旅を愛する田村隆一のインド旅行記

田村隆一が世界で1番美しい夕陽を見に、インド、コモリン岬に向かう本作。黄色いナップザックの中に、鎌倉八幡宮(鶴岡八幡宮の別称)のお守りと500円玉を入れいざ出発。旅先に着けば、すぐさまウイスキー片手に酒を呑みます。

ユーモアに溢れ、魅力的な本作。『インド酔夢行』は、1976年に日本交通公社出版事務局にて発売された後、集英社文庫や講談社文芸文庫でも発売された、人気の高い田村隆一作品です。

詩人らしい鋭さで、インドの奥深さを語る様子は魅力的。初のインド体験、2度目のインド訪問、そしてネパールでの旅行も収録されています。

著者
田村 隆一
出版日
2008-07-10

「『夕陽を見にいきませんか?』フランス演劇に凝っている青年がわが家にやってきて、だしぬけにこう云った。」(『インド酔夢行』より引用)

本作はこのような冒頭で始まります。このプロローグをきっかけにして、インド旅行は始まっていくのです。夕陽を見に行くためにインドへ行くなんて、なんともオシャレではありませんか。

田村隆一はこの時52歳。インドに向かう先でも酒を呑む姿は、永遠に変わらない少年のよう。「酔夢行」というタイトルの通り、まるで読者も一緒にお酒を呑んでいるかのような気持ちにさせられるエッセイです。

晩年の田村隆一が残したものとは

『自伝からはじまる70章』は、ダイヤモンド社の月刊エクゼクティブに掲載されていた田村隆一のエッセイ。1998年に亡くなる直前まで書かれていました。この作品が、最期の作品になると予期していたのでしょうか。彼らしくない、少ししんみりした作品です。

戦後の新宿を背景に綴られるエッセイ。そこにはガヤガヤと賑わう酒場を何より愛した田村隆一の姿があります。当時の酒場では、どんな作家も芸術家も社長も教授も安い酒を飲み、時には喧嘩をして親睦を深める様子がありました。

著者
田村 隆一
出版日

晩年の作品『自伝からはじまる70章』は田村隆一らしくも、どこか哀愁を感じさせます。戦後の酒場の活気溢れる雰囲気が印象的。熱く語り合った若かりし田村隆一が羨ましくてなりません。

そういった色々な職種、色々な事情を抱えた人が整然と議論する場所は現代に確かにあります。ですが、しっちゃかめっちゃかで無秩序な昭和の酒場は、今では滅多に見られません。この作品を読めば、昭和という時代の酒場にタイムスリップしてみたくなるでしょう。

誰もが読める人気のエッセイ

『ぼくの人生案内』は田村隆一が亡くなるおよそ1年前に小学館から出版されました。若者たちの悩みに、人生の先輩が答えます。歳をとれば笑ってしまうようなことも、若者にとっては真剣そのもの。

田村隆一のシンプルで軽快な回答は、そのような若者の悩みにも真摯に答えます。切れ味のよい、詩人らしい「人生案内」はかっこいいの一言。

写真や、詩も多く掲載されました。田村隆一作品に初めて触れる人にも読みやすい一冊です。

著者
田村 隆一
出版日
2006-12-05

「人間は元来、旅をする生きものなんだよ。生まれてから死ぬまでの、長いようでいて、短い旅。人間の生涯は旅をすることなんだ。」(『ぼくの人生案内』より引用)

一見当たり前のように思えるこの言葉も、多くの経験と旅をしてきた田村隆一が語ると凄みがあります。経験や行動が伴わない言葉というのは薄っぺらく、どこか無機質です。田村隆一は色々なことがある中で、この言葉に辿り着いた1人の旅人なのかもしれません。

田村隆一の人情味溢れる作品

角川春樹事務所のランティエ叢書シリーズでも特に人気のある本作。前半はスコッチ好きが高じて、スコットランドに旅をする内容。後半では銭湯についてを語ります。

銭湯というきっかけから生まれる、田村隆一の人情味溢れる姿は愛らしいです。批評家としても有名な吉本隆明と仲良く歩く様子には思わず心が温まることでしょう。「銭湯にこそ人情がある」と訴える田村隆一の人間臭さが伝わってきます。

エッセイだけでなく、詩も多数収録されました。
 

著者
田村 隆一
出版日

作家ジョン・ガードナーとの公開ディスカッションでも酔っ払い、話の内容なども忘れてしまう田村隆一。そんなどうしようもない人なのに、人に慕われ周囲が笑顔になる存在。田村隆一はその奔放ぶりも有名ですが、それ以上に人情味と思いやりを備えた人だったのかも知れません。

「おじいさん、おばあさん、それに孫たちというたて糸と、町内のヨコ糸がまじわるところに銭湯がある」(『スコッチと銭湯』より引用)

人情味溢れる一節です。タテとヨコの繋がりが、現在では少なくなっているように感じます。昭和の懐かしさは、平成を生きる若者にとっても魅力的。荒んだ心を取り戻してくれそうです。

田村隆一のエッセイには、詩人らしい言葉の数々が埋め尽くされています。ユーモアに溢れ、多くの人に愛された彼は自由奔放でお酒好きでした。素晴らしい詩を生み出した背景には、そうした「人間らしさ」があるのかもしれません。詩人としてはもちろん、彼の綴るエッセイには「人間、田村隆一」の素顔もちゃんと存在しているのです。