ホームコメディ、同性愛、スポーツもの、芸術ものなど、1つのジャンルにこだわらず多くの名作を生み出してきた羅川真里茂。感情の繊細さを描くことに長けた羅川の作品はどれも感動必至。特にオススメの作品をご紹介します!
羅川真里茂とは青森県出身の漫画家。イラスト投稿などを重ね、1990年『タイムリミット』という作品でデビューしました。
翌年には人気作品『赤ちゃんと僕』の連載を開始。初の連載作品にも関わらず6年間の連載、全18巻を刊行した人気作となりました。この作品では第40回小学館漫画賞の少女部門を受賞。ここからもヒット作を飛ばし続けています。
『赤ちゃんと僕』が基本的にはホームコメディだったためその路線で活動していくのかと思いきや、男性同士の恋愛をシリアスに描いた『ニューヨーク・ニューヨーク』やテニス漫画『しゃにむにGO』など、様々なジャンルを描いてきました。
羅川作品の特徴と言えば、どんなジャンルであろうと心理描写に秀でていること。感情の機微、心の強さや弱さに焦点が当てられることが多く、深い内容となっています。また、画力が高いことでも有名。髪の毛の一本一本まで丁寧に描かれ、よりリアルな世界観を作り上げています。
ニューヨークで警察官として働いているケイン・ウォーカーは同性愛者。普段は異性愛者を演じていますが、そのストレスからゲイが集まる街、ゲイ・ネイバフッズに頻繁に足を運びます。
その日も体だけの関係で一晩を過ごす相手を探していたケインでしたが、あるバーで出会ったメル・フレデリクスに一目ぼれ。互いに惹かれあった二人はケインのアパートで飲みなおしますが、お互いの過去などについて語り合うだけで、体の関係は持ちませんでした。
- 著者
- 羅川 真里茂
- 出版日
翌朝、連絡先なども残さず去っていったメル。ケインは後悔して半ばやけになり、その日の晩にメルと似た男性を連れて帰りますが、部屋の扉にはメルの連絡先などが書かれたメモがありました。
ケインは翌日すぐにメルに会いに行き、二人は結ばれます。その後は色々な事件に巻き込まれたり、互いの家族への報告をするか葛藤したりとの困難やトラブルと、養子縁組をすることによっての二人の結婚、さらに養子を引き取り二人の子供として育てたりとの幸せな生活などが描かれます。
カップルが描かれる漫画にしては珍しく、二人が年を重ねてこの世を去るまでも描かれていて、単なるラブストーリーではなく二人の「人生」が描かれた内容の濃い作品です。
幸せな二人も描かれますが、それよりも同性愛者であることを隠して生きる苦しさ、同性愛者に対しての偏見、家族や世間との関わり、男性同士であるが故に多い病気(HIV)など、同性愛者であることの悩みや葛藤がメインの作品。現実の同性愛者が直面する、もしくはするであろうテーマが扱われます。
性別なんて関係なく「人」を好きになったのに否定される辛さ。けれどそれを乗り越えてお互いを愛し続けた二人の物語は、同性、異性関係無く美しい愛だと思います。漫画といえど、同性愛を真正面から描いた現実感が特徴の一作。是非一度手に取ってみてください。
「葦の穂綿」「半夏生」「冬霞」という3作が詰め込まれた短編集です。どの作品も「罪」をテーマに描かれており、内容の濃い作品。ただし決して終始シリアスで暗いというわけではなく、どの話も最後には希望が示されています。
どの作品も素晴らしいですが、特にオススメしたいのは表紙にもなっている「冬霞」。主人公は幼い双子のチカとリキ、そして一見怪しい風貌の男、恭一です。現代社会で問題になっている「虐待」からストーリーは始まります。
- 著者
- 羅川 真里茂
- 出版日
- 2010-04-19
荒れた家に閉じ込められ、暗闇の中二人きりで生きるチカとリキ。玄関が開くと恐怖に包まれてしまいますが、その日入ってきたのは親ではなく見知らぬ男、恭一でした。
「この闇の中にいるか 来るか 選べ」と手を差し出した恭一に、その手を取って家から出るチカとリキ。体を洗い、髪を切り、服を着せ替えて旅に出た三人は海辺の旅館にたどり着きます。初めて海を見た双子に、来年の夏は泳ごうと約束する恭一。しかしその約束は果たせなくなるのでした。
恭一は、とある「事務所」から拳銃とドラッグを盗んで追われていました。その追っ手から逃げつつ、実際は「誘拐」と取られてしまう二人を連れての逃亡生活。ある日恭一は倒れてしまい、これをきっかけに恭一と二人は離れ離れになりました。
恭一は姿を消しましたが、恭一の祖父母に引き取られて平和な生活を取り戻し、小学校を卒業するチカとリキ。数年が経ち、卒業式からの帰路で二人を呼び止める声に振り返る双子。そこに現れたのは……必見のラストシーンです。
最初は表情の無かったチカとリキがどんどん明るくなって旅を楽しんでいる姿は微笑ましくかわいらしく、この三人での生活がずっと続くといいと思わされます。それぞれ闇を抱えた三人が、一緒にいることによって幸せな表情になっていく様は心があたたかくなります。
そもそもなぜ恭一は二人を連れ出したのか、その理由も是非読んで確かめてみてください。綿密に練られたストーリーと繊細で感情のこめられた絵に、ページをめくる手が止まりません!
木原音瀬の人気BL小説を羅川真里茂がコミカライズした作品。人間として生きていたアルベルト・アーヴィング、通称アルが吸血鬼となり、日本で生きていくというストーリーです。
真夜中の日本。全裸で徘徊していたアルは強制わいせつ罪で警察に捕まります。入国履歴も無く、怪しいと思われたアルは一晩拘置所に。しかし翌朝、警察が見に行ってみるとアルの姿はありませんでした。
- 著者
- 木原音瀬
- 出版日
- 2016-10-20
実は吸血鬼のアルは、昼間はコウモリの姿になってしまうのです。そんな姿のアルが出会ったのがもう一人の主人公、暁。彼はコウモリが好きで、その姿のアルに優しく接します。しかし、夜になると人間の姿に戻ってしまうアル。人間嫌いの暁は当初冷たく当たりますが、事情を知り供に暮らすことになりました。
言葉も分からず戸籍もない孤独なアル。暁との出会いでやっと一筋の光が差し込みました。今後、二人はどうなっていくのか。孤独なアルと人嫌いな暁が織り成すラブストーリーが、コメディを織り交ぜて描かれます。
この作品でおもしろいのは登場人物のキャラクター設定。牙がないため人間から血が吸えず、昼間は否応なしにコウモリになってしまう中途半端な吸血鬼のアル。エンバーマーと呼ばれる「遺体修復師」という特殊な職業で人嫌いの暁。他ではあまり見たことのない特徴的なキャラクターが織り成すストーリーは、これまた他では見られないものとなることでしょう。
BL小説作家として人気を博す木原音瀬と、前述で紹介した『ニューヨーク・ニューヨーク』で同性愛を描き話題を呼んだ羅川真里茂。双方とも表現力が評判の作家なだけあり、独特な世界観が作り出されています。BL好きの方には是非読んでいただきたい一作です!
タイトル通り、「赤ちゃん」榎木実と「僕」榎木拓也が主人公のハートフルコメディ作品。羅川の初連載作品でありアニメ化もされた大人気作です。基本的に1話~数話で完結。多くの登場人物と榎木家が関わりあいながら成長していくあたたかい作品です。
交通事故で母親を亡くした榎木家。父親が仕事の間、主人公の拓也が実の面倒を見ています。最初は「何で僕だけ」「なんで実は言うことを聞かないんだ」と辛かった拓也ですが、結局可愛い弟。お互いブラコンと呼ばれるほど仲のいい兄弟です。
- 著者
- 羅川 真里茂
- 出版日
拓也はザ・優等生の真面目で優しい小学5年生の男の子。実に対してはまるで母親のようにときに優しく、ときに厳しい立派なお兄ちゃんです。実は泣き虫でちょっぴり?ワガママですがとにかく拓也が大好き!そして仕事をバリバリこなすイケメンでありながら超絶子煩悩なパパ。
そんな榎木家の周りには個性的なキャラクターがたくさん!パワフルなお向かいさんの木村家、拓也の大親友&実のガールフレンド?がいる後藤家、ドタバタ7人兄妹の藤井家など、ファンにも大人気なキャラクターたちが物語を盛り上げます。
基本的にはコメディ調で明るいストーリーの詰め合わせですが、時々シリアスで深い話もあります。家事、育児、人間関係などの悩みがリアルに描かれ、けれどそれを毎回真剣に受け止めて乗り越えていく様には思わず涙が出ることも。
特に、最終巻のエピソードは未だにファンの中で語り継がれるほど感動的。何度読み返しても毎回泣いてしまうくらいの傑作です。18巻にも渡って「家族愛」が描かれてきたこそ感動するお話。是非1巻から通して読破していただきたい作品です。
『赤ちゃんと僕』の名言を紹介した<『赤ちゃんと僕』の泣ける名言を全巻ネタバレ紹介!登場人物たちの言葉が深い>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
津軽三味線を題材にした作品。趣味やサークルなどの範囲ではなく、シビアに三味線という「芸」、三味線が奏でる「音」を極めようとするお話です。
主人公は16歳の男子高校生、澤村雪。雪の祖父である松吾郎は津軽三味線の名人でした。小さい頃からその音色を聴いて育った雪は中学を卒業して上京。祖父と同じ道を歩もうと決意します。
- 著者
- 羅川真里茂
- 出版日
- 2010-10-15
思い立ったまま上京した雪。高校に入学しますが次第に通わなくなります。そんなとき、母親である梅子に言いつけられ転校、高校の三味線大会に出場するものの、大会に適した弾き方を知らない雪は惜敗してしまいました。
茫然自失となった雪でしたが、とある出会いから民謡居酒屋で働くことになり、あらためて三味線と向き合うことを決意しました。色々な人との出会いを経て、改めて自分の音を探す雪。そんな雪の成長が描かれます。
偉大な先代に捉われてそれ以上の功績を出すことが出来ない、という状況は芸事に関わらずあることではないでしょうか。 耳で聞いて学んできたため、譜面も読めなかった雪。そんな雪が祖父の音に捉われず、技術的にも精神的にも成長していく姿は少年漫画の王道とも言える胸熱ストーリーです!
ロックバンドや吹奏楽、ピアノなどは今までもさまざまな作品に登場してきましたが、三味線というのはあまり見ることがなかったことと思います。しかしこの作品では三味線のことを知りつつ、熱い成長ストーリーが楽しめます。演奏シーンには迫力があり、雪の鬼気迫る演奏が迫ってくるようです!今まで三味線に縁がなかったという人にも是非見ていただきたい作品です。
いかがでしょうか?幅広いジャンルを描き分け、それぞれに根強いファンを抱える羅川真里茂作品。必ずお気に入りの作品に出会えることと思います。是非一冊手にとってみてください!