近い将来、90%の高齢者が貧困に陥る「下流老人」時代が到来するという「恐ろしい」予測。自分でできる対策を知ることは大切ですが、限界もあるでしょう。下流老人の定義や背景にある社会の歪みを知って、根本的な解決策を考えていきませんか?
下流老人について、老人の貧困問題を扱った本『下流老人』の著者で、「下流老人」という言葉の生みの親である藤田孝典は、以下のように定義します。
・「年金や貯蓄が少ないうえ、病気や事故、家族問題や介護トラブルなどの事情により貧困生活に陥っている高齢者」(「月刊ガバナンス 2017年2月号」より引用)。
・収入面では、生活保護基準相当の暮らしを送る高齢者と、その懸念がある高齢者(=単身高齢者の場合、低い年金か無年金で月6万~12万円程で暮らしている高齢者)
また藤田は、下流老人の特徴を「3ない」状態にあるとしています。
①「収入が少ない」
海外生活が長く、公的年金を納めていない時期が長かった人などは年金額は減額されてあり、65歳以上になった時に収入は少なくなってしまいます。ただでさえ、年金の受給額は減少傾向にあるため、今後更に収入が少ない高齢者が増加することでしょう。
②「貯蓄がない」
高齢になると、思いがけず病気になってしまうことや介護が必要となってしまう機会が増えます。このような予期せぬ出費によって、貯蓄が少しずつ削れていき、気づいた時にはほとんど貯蓄がない状態になっているのです。
③「頼れる人がいない」
核家族化が進み、家族の関係性が薄くなっています。昔は親族でよく集まることで、家族で支え合うことが当たり前でした。しかし、核家族化によって、すぐ頼れる人がいない状態が生まれたのです。
2015年のOECDの調査で、日本の高齢者(65歳以上)の相対的貧困率が19.4%という結果が出ました(Forbes JAPANを参考)。ちなみにOECDの高齢者の貧困率の平均は、約12%です。 また韓国では、高齢者の相対的貧困率が49.6%にのぼりましたが、これは年金制度が十分に整備されていないことが原因だと指摘されています。
そのうち、単身男性のみの世帯貧困率は38.3%、単身女性のみの世帯の貧困率は52.3%となっており、単身高齢者世帯の貧困h相対的に高いと言えます。
団塊の世代が高齢者となり、高齢者の数が増え、認識されやすくなってきたという高齢者の貧困問題。主な原因には「病気や事故、家族問題や介護トラブルなどの事情」があるといいます(「月刊ガバナンス 2017年2月号」より引用)。
また前述の藤田は、複数の問題を同時に抱えているという「多問題家族」の増加も指摘。多問題家族とは、家庭内にて同時に複数の問題を抱える家族のことです。例えば、家庭の貧困問題と両親間の不仲などが挙げられます。
多問題家族は、社会福祉のサポートを拒否し、地域社会からも孤立する傾向にあるそうです。またそれらの家族は、自己責任や個人の努力といった範囲を超えている状態にあるとい
さらに、下流老人の原因を深掘りしてみましょう。
『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』では、以下の3点を下流老人の原因として挙げています。
①年金制度の機能不全
②年金受給額の減額が生み出す、可処分所得(個人が自由に使える所得の総額)と貯蓄額の減少
③現役中に培われなかった職場以外での繋がり生み出す、老後の孤立化
ここでは①について、さらに詳しく見ていきましょう。
- 著者
- 藤田孝典
- 出版日
- 2016-12-13
著者は、年金制度の機能不全が、下流老人急増の最大の原因だといいます。
そもそも国民年金は、家族の扶養を前提として組み立てられたもの。しかし現在では、家族の形は変化し、子どもと一緒に住んでいる高齢者は少数派です。
このような、家族を含む様々なセーフティネットから抜け落ちている高齢者が病気や怪我をすれば、即下流老人となる可能性があるというワケです。
また本書では、高齢者の貧困の現状や、社会システムをどう動かしていくかという道筋についても触れられています。
下流老人問題について不安を煽る本ではなく、それときちんと向き合うような、未来志向型である本書は、下流老人について学ぶ際には、まず読んでおきたい1冊といえるでしょう。
貧困に陥った高齢者の実態とは、どのようなものなのでしょうか。
『ルポ 老人地獄』では、高齢の夫婦が共に病気となって入院した結果、瞬(またた)く間に貧困に陥ったケースが紹介されています。
- 著者
- 朝日新聞経済部
- 出版日
- 2015-12-18
14万円の厚生年金を頼りにした生活では、治療代の自己負担額を抑える高額療養費制度を使用しても家計は圧迫され、公的医療保険でカバーされない「ホテルコスト」(食事代や寝間着・タオル代など)も負担になったといいます。
この事例からは、大きな病気を患っても、国民皆保険制度によって自己負担が少ないという戦後日本における常識が、もはや幻想であることを痛感させられます。日本の医療制度では、長期にわたる療養が、予想外の経済的負担になる可能性があるのです。
本書を読めば、深刻なケースばかりで将来が不安になるかもしれません。しかし厳しい現状を踏まえつつ端的な解決策も示されていますから、目をそらさずに読み進めたくなるような1冊といえるでしょう。
それでは、下流老人の増加に対しては、どのような策が考えられるのでしょうか。
『下流老人』の著者である藤田は、ハフィントンポストのインタビュー(「『下流老人、だれでもその苦境に陥るかもしれない』 『下流老人』の著者・藤田孝典さん語る(2016年1月13日)」)で、下流老人対策として、以下の2点を挙げます。
①住宅、教育、医療、介護などの段階を追った無償化
②適切な徴税を通して行われる、将来の世代への税金の再配分
なお個人で可能な具体的な下流老人対策については、限界はありますが、これから紹介していく『今なら間に合う 脱・貧困老後』で、記述していましょう。
現役時代から公的制度などに関する知識を養っておく、長く働けるように健康を維持する、介護による離職を避ける……など、『今なら間に合う 脱・貧困老後』では、個人でできる具体的な対策が紹介されています。
- 著者
- サンデー毎日取材班
- 出版日
- 2016-03-11
とはいえ1冊目に紹介した『続・下流老人: 一億総疲弊社会の到来』の著者である藤田が述べるように、「下流化の解決策を自助努力、自己防衛に求めているうちは、真の意味で高齢者の貧困をなくすことはできない」ように思われます(引用)。
『続・下流老人』で指摘されているように、下流老人は自己責任ではなく「社会システムの歪み」に起因するもの。ですから、自助努力をしていないから貧しい、あるいは当事者が貧しくても仕方ないというような思いは捨てる必要があるのです。
これらの点と関連して、本書『今なら間に合う 脱・貧困老後』から以下の言葉を引用します。
「多くの高齢者を取材して痛感するのは、本来、生活に困った時に公的な福祉制度を利用するのは当然の権利なのに、『恥ずかしい』『後ろめたい』という意識が非常に強いことだ。生きるための権利を行使しやすい空気をつくっていかなければならない」(本書より引用)
貧困は自己責任だといった空気は払拭し、「生きるための権利を行使しやすい」未来を目指していく必要があるように思われます。
なお、2冊目に紹介した『ルポ 老人地獄』を踏まえると、本書『今なら間に合う 脱・貧困老後』に紹介されている解決策の中には「希望的観測なのでは?」と思えるものもあるかもしれません。
しかし高齢者が貧困に陥った例も数多く紹介されており、社会と自分との関わり方を改めて考えることができる1冊ではあるでしょう。
「『今の若い人はもっと大変になる』。取材に応じてくれた高齢者は皆そう話す。非正規労働が拡大する中で、月額約1万5000円もの保険料を払うことができず、今後、無年金・低年金予備軍があふれるだろう。企業が調整弁として都合よく若者を使ってきたツケは、社会全体に跳ね返る」(本書より引用)
本書を読めば、「下流老人」は高齢者だけの問題ではなく、社会にいる一人ひとりが向き合うべき問題なのだと痛感させられるはずです。
高齢者の貧困といった際に、「漂流老人」と呼ばれる高齢者についても耳にすることがあるかもしれません。
「知恵蔵」を参考にすると、漂流老人とは、本人の意思とは関係なく、自分の家に住むことができなくなり、短期間入所可能な施設などを「漂流」する高齢者のこと。なかには、ホームレス生活を送るようになる人もいるということです。
背景の一つにあるのは、貧困。家を所有していたり、子どもがいたりしても、家族や自身の病気などをきっかけに「漂流」する可能性もあるといいます(BOOK.asahi.comを参考)。
「病気や事故、家族問題や介護トラブルなどの事情」や、年金制度の機能不全などが原因となって生まれる下流老人。今回はその定義や、日本の保険制度では防げなかった高齢者の貧困についての事例、国に求められる対策などに触れていきました。
なお可能であれば、高齢者の貧困問題を「下流老人」という言葉によって可視化した藤田による『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』から読み進めていくことをおすすめします。2017年4月時点では、定義から解決策まで、バランスよくまとめられた1冊と考えられるからです。
老人の貧困は自己責任ではありません。また他人事でもないでしょう。一人ひとりが下流老人の問題を、恐れることなく、冷静に認識していく必要があるように思われます。