社会課題の解決を目指す、ソーシャルビジネス。その定義や、国内外の事例をまとめました。働き方を考える上で、ヒントになるかもしれません。
ソーシャルビジネスとは、持続可能な経済活動によって、社会課題の解決を目指す事業のこと。環境保護、高齢者支援や障害者介護福祉、農業、ホームレスなどの貧困問題、子育て支援、地域コミュニティの再開発など、幅広い分野での社会課題を解決することを目的にしたビジネスです。
今まで、これらの社会課題の解決は行政が担っていました。しかし、時代と共に1つ1つの社会課題は複雑化し、従来通りの取り組みだけでは厳しい状況です。
そこで登場したのが、ソーシャルビジネス。企業の事業収益を上げながら継続的に社会課題の解決に取り組むため、外部からの資金に頼ることがなく、新しい社会的価値を生んでいます。
①子育て支援を行う「特定非営利活動法人フローレンス(認定NPO法人フローレンス)」
フローレンスでは、病児保育・待機児童・障害児保育・赤ちゃん虐待死といった子育てに関する社会問題の解決に取り組む企業です。例えば、病児保育では、WEBやスマホで保育依頼を行えば、夜の18時30分まで保育スタッフを派遣するサービスを行っています。一般的に保育園では、37.5度以上の熱がある場合預かることが出来ません。そのため、仕事との両立に困る家庭が多いそうです。そこでフローレンスは、子育てと仕事との両立への取り組みのために事業を展開しています。
②ホームレスの自立支援を行う「有限会社ビッグイシュー日本」
ビッグイシューは、「THE BIG ISSUE 」という雑誌を月に二回発行し、その雑誌をホームレスに1冊300円で販売してもらい、売り上げのうち160円を販売者であるホームレスの収入とするビジネスを展開しています。ホームレスの経済的自立と社会参加の機会の提供を目的にする企業です。ただ支援するだけではなく、ビジネスパートナーとして付き合っていくことで、社会的自立を促すという発想が素敵ですね。
③地方と都市との連携で、耕作が放棄された土地の再生などを目指す「NPO法人えがおつなげて」
「えがおつなげて」は、都市と農村が繋がる地域共生型の市民ネットワーク社会を作ることを目的として活動する企業団体です。活動としては、担い手不足で放棄されてしまった農地を借り、都市の企業へ貸し出すことで、地方と都市の繋がりを作っています。都市の企業は、農地で社会貢献活動や人材育成、商品開発を進めることが可能です。この他にも、地域で作った農作物で学校給食を作ったりと、農業の活性化にも貢献しています。
これら3社は、経済産業省が、社会課題解決を目的に熱心に事業に取り組む企業やNPO団体を選定した「ソーシャルビジネス55選」にも名を連ねています。
ここでは2社を取り上げます。
①貧しい人々に対して無担保且つ低利の少額融資を行い、自立支援を行う「グラミン銀行(バングラデシュ)」
グラミン銀行は、これまで銀行が貸し出すことがなかった貧困層、特に農村部の貧しい女性に対して、少額なローンを無担保かつ低利で貸し出すソーシャルビジネスを展開しています。貧困層の独立を支援し、貧困問題の解決が目的です。このマイクロクレジットと呼ばれる融資によって、女性の自営業者を育てあげることに成功し、なんと2006年にノーベル平和賞を受賞しました。
②開発途上国における識字能力育成と、教育における男女格差是正にフォーカスした「ルーム・トゥ・リード(アメリカ)」
ルーム・トゥ・リードは、開発途上国にて読み書き能力の育成と、男女の教育の格差を失くすことを目的に活動している企業団体です。具体的には、学校の建設や図書室の建設、女子教育支援、読み書き能力のプログラム実施、教師の育成に取り組んでいます。開発途上国でも特にアジア・アフリカの国々で主に展開しており、現地スタッフを中心に活動しているため、現地の雇用にも貢献しているといえるでしょう。
このように海外でも、ソーシャルビジネスは注目を集めるビジネスとなっています。
ソーシャルビジネスは、日本ではまだまだ認知されていません。それゆえにいくつかの課題もあります。
「人手の確保」「社会性と事業性の両立を図る経営ノウハウの不足」「売り上げの低迷」「行政との連携がうまくいかない」「運転資金の確保が難しい」などが大きな課題です。特に大きな課題として「運転資金の確保」が挙げられます。ソーシャルビジネスの対象となる分野は、サービスの利用者が少なく、コスト削減が難しいといった特徴があるため、銀行などの金融機関から融資を受けるのが難しいのです。
これらの課題の対策としては、広報活動の活性化や事業環境整備、社会性と事業性を両立するための経営ノウハウを伝授するためのセミナーの開催、人材育成、ソーシャルビジネスの関係者が集まるフォーラムの開催で輪を広めるなどが挙げられます。
これらの課題解決は今後必須事項でしょう。
ノーベル賞も受賞した「グラミン銀行」の創設者であるムハマド・ユヌスは、ソーシャルビジネスの成功者といわれています。そんなユヌスが語るソーシャルビジネスとは、どのようなものなのでしょうか。
自著『貧困のない世界を創る』では、以下のように定義されます。
「ソーシャル・ビジネスは、利益によってではなく、動機によって動く企業であり、世界の変革推進者として活動するのだ。ソーシャル・ビジネスは慈善事業ではない。あらゆる意味においてビジネスにほかならないのだ。社会的目標を達成する間に、かかった総費用を取り戻さなければならない」(本書より引用)
- 著者
- ムハマド・ユヌス
- 出版日
- 2008-10-24
ここで、ソーシャルビジネスが慈善事業ではないという点について、より詳しく見ていきましょう。
ユヌスは、NPO・NGO・財団を、ソーシャルビジネスに含んでいません。そして資金の有限性などを、彼らの限界として挙げるのです。だからこそユヌスは、「NPO、NGO、財団が行なう良い仕事だけでは、世界の社会悪を解決することは期待できない」とも述べているのでしょう(本書より引用)。
このように、ソーシャルビジネスの典型的な成功者とされるユヌスから語られる社会的企業の姿からは、学ぶことが多いように思われます。
ソーシャルビジネスを行う人たちに対して、どのようなイメージを持っているでしょう。目的や信念が強いからこそ事業を積極的に行っているのだ、と思う人も多いかもしれません。そして実際にも、強い信念をもとに、事業を始める事例も多いことでしょう。
しかし『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』の著者である山本は、「社会起業家は、社会問題におけるニーズの代理人。やりたいことがない人は、他人のニーズに耳を傾け、自己実現よりも共感を大切にすることができるから、社会起業家に向いている」と述べるのです(本書より引用)。
- 著者
- 山本繁
- 出版日
- 2009-04-22
やりたいことがない人こそが社会起業家に向いているといわれても、受け入れづらいかもしれません。しかし著者自身の経験から生み出された言葉は、説得力を感じられるようにも思われます。
なお著者の山本は、ニートや引きこもりの若者などの支援を行う人物。NPO法人NEWVERY(教育とアートという2軸から「若者たちが未来に希望を持てる社会づくり」(公式HPより引用)に取り組む団体)の創設者でもあります。
また本書では、著者が取り組んだ、成功ばかりではなく失敗もあったプロジェクトについても記述されています。
社会起業に興味を持っている人はもちろん、将来何をしたらいいかということがまだ見つかっていない人にもおすすめしたい1冊です。
『未来を変える80人』では、グラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌスを含む80名の社会起業家が、紹介されています。今回はその中からも、工芸カーペットの製造会社の開業者である、ネパール人女性スロ・シュレスタ・シャフを紹介していきましょう。
- 著者
- ["シルヴァン・ダルニル", "マチュー・ルルー", "永田 千奈"]
- 出版日
- 2006-09-21
「私はマザーテレサじゃない。でも、それでも、自分のまわりの人たちのために何か役立つこと、形になることをしたかった」と語る、シュレスタ(本書より引用)。裕福な家庭に生まれた彼女は、文部省やNGO団体での活動を経て、1992年に工芸カーペットの製造会社を開業しました。
同社では、児童労働を徹底的に禁止するとともに、保護者が安心して子育てできるようにと、工場の横に学校を建設。学校をつくれば当然、製品の価格が引き上がります。
そこでシュレスタは、消費者に理解を求めるため、カーペット製造工場の倫理規程を作成したのです。さらにフォーメーション・カーペットでは、社会的に低い階層出身の女性たちを積極的に採用し、従業員のための読み書き教室を開くなど、福利厚生も整えています。
同じ工場の中では様々なカースト出身者を勤務させ、あらゆる差別の撤廃にも努めました。強い社会信念のもとに、長期にわたって女性の地位向上に尽くしたシュレスタの努力は、国連からも認められているのです。
こんなシュレスタを始めとして、アジアやアフリカなどを含む地域で、農業・教育・廃棄物の処理まで多様な分野で活躍する社会起業家たちを一気に知ることができる1冊です。
社会起業家を目指す方もそうでない方も、ソーシャルビジネスについて知ることは、働き方を考える上で役に立つかもしれません。ぜひ一度ご紹介した本に目を通してみてください。