姜尚中おすすめ本5選!日本名を捨てる決意をした著者の生き方に触れる

更新:2021.12.18

在日韓国人二世として生まれた姜尚中。日本と韓国の二つの祖国を持つ著者だからこそ見える社会動向や差別、ナショナリズムに触れた作品を多く書いています。本記事は、そんな姜尚中の作品でもおすすめの本を5冊紹介します。

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二つの祖国を持つ姜尚中

姜尚中は、1950年8月、熊本県熊本市で在日韓国人二世として生まれました。読みは、カン サンジュン。日本式の音読みはキョウ ショウチュウ、日本名は永野鉄男(ながのてつお)です。

当初、日本名の永野鉄男を名乗っていましたが、大学在学中に韓国文化研究会で訪韓した際に、韓国名を使用しました。本人自ら、2011年に「生まれは熊本で本名は永野鉄男です。でも今から三十八年前、二十二歳のときに、思うところがあって姜尚中を名乗りました」と語っています。

早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院政治学研究科博士課程を修了しており、ドイツ留学や明治学院大学講師、国際基督教大学準教授を経て、現代韓国研究センター長や東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長を歴任しました。

専門は政治学・政治思想史。その生い立ちや経歴から、作品は日韓関係や、史観や偏見についての批判、ナショナリズムに触れるものが多いです。日本と韓国という二つの祖国を持つ、姜尚中だからこそ感じることを書かれています。

夏目漱石をヒントに、悩みを考え抜く

一時期、書店での売り上げがすごかったように、姜尚中といえば『悩む力』と連想する方も多いのではないでしょうか。発行部数は百万部を突破しており、反響が多かったため、続編に『続・悩む力』という本も発行されています。

著者
姜 尚中
出版日
2008-05-16

私たちは、長い間成長を追い求め、資源を使うことに躍起になっていたのかもしれません。

しかし、情報化社会や市場経済圏の拡大にともなう変化により、繁栄が過ぎると、いつの間にか貧困がそばあり、隣人の幸福や力と比較し、自らの不運と無力に嘆くような社会が広がっていました。安定した収入や老後のたくわえなどの既存の幸福像はいまやもうありません。

そんな憂鬱な社会をどう生きれば良いのか、ということをとことん考え抜き、若者にも分かり易いよう平易な言葉を使い書かれています。百年前に同じ考えにぶつかった夏目漱石とマックス・ウェーバーをヒントに、姜尚中が悩みながらも、生き方を提唱していく本です。

誰しもが、どのような悩みにせよ一度は悩んだことがあるでしょう。その悩みを肯定し、「悩みぬくこと」により自らの「生きる力」を取り戻してほしい、日々の活動を行っていくことを書き記しています。

日本名から姜尚中と名乗る決意

なぜ日本名の永野鉄男から、姜尚中と名乗るようになったのか、その決意や苛酷な半生をつづった初の自伝書です。

著者
姜 尚中
出版日
2008-01-18

強制的に日本人にさせられ、戦後は在日外国人として生きてきたことによる職業の選択や居住地域の制限等の差別、人権の尊重の有無などさまざまな苦労を感じ取ることができます。

吃音やドイツへの留学、政治活動への参加、洗礼を受ける決断、通名の日本名から本名を名乗る決心が細かく書かれています。実際にその経験をした姜尚中だからこそ書ける文章なのです。歴史書ではなく、自伝であるからこそ、姜尚中の内心が細かくつづられています。

「なぜ自分は『在日』なのか。どうして父母の国は分断されお互いに殺し合いをしたのか。何故自分たちは『みすぼらしい』のか。こうした疑念が私を不安にしたが、それを口に出していえる友や先生はいなかった。」(『在日』より引用)

この文章からも、姜尚中の苦労や苦悩が読み取ることができます。彼の半生や環境、決意を通して、朝鮮の歴史や朝鮮差別、在日朝鮮人について深く考えさせられる本です。

在日として生きた戦争前後の親子の物語

姜尚中が母との思い出をつづった、自伝的小説。自伝書ではなく、あくまで小説ですので、より母の心情に迫れるように、姜尚中のこれまでに刊行されている作品よりやわらかい文章で話は進んでいきます。

著者
姜 尚中
出版日
2013-03-19

文字の書けない母から息子への遺言。社会全体が貧しかった戦中や戦後時代を「在日」として異郷の地を生き抜いた親子二代の物語です。

韓国から日本に嫁ぎ、敗戦の混乱と長男の死を乗り越え、貧しい中で家族と仲間を支え、商売を始め、子どもを育てることは、とても大変だと察します。苦難を乗り越え生きぬいた母(オモニ)に対する思いが感じ取れる本です。

本を発売した際の著者インタビューで、姜尚中はこう語っています。「僕が書きたかったのはある意味で「和解劇」です。母の物語を書くことによって、自分自身と和解していく。それは同時に、日本と朝鮮半島との和解の物語でもあるのです。」

この本を通じ、日本と朝鮮半島和解についても考えていくことができるでしょう。

東京の魅力を改めて知る

2年半に及ぶ雑誌「バイラ」の連載作品をまとめた一作。姜尚中が東京のさまざまな場所を訪れ、さまざまな発見や思想をつづっていく本です。

著者
姜尚中
出版日
2011-06-03

本書は珍しく、政治的見解や思想が入らず、写真で東京のスポットを6ページほどで紹介したり、その土地にまつわる思い出話などをつづったりしています。

「秋葉原ー 流砂化は止められるか?」といった固い話もあれば、「猫カフェ(世田谷区北沢)ー猫カフェブームに見る脱欲望化」といったほっこりする話もあり、一作が短いので、読み辛い話の時は、すぐ別の話を読むこともできます。東京だけ取り上げているので話題になった場所に訪れやすいということも本書の魅力の一つです。

東京は、何かのチャンスに溢れ、未知のエキサイティングな事件や人に出くわすかもしれないと10代の姜尚中が思っていた場所です。その頃のトーキョーストレンジャーの気持ちで、東京を彷徨ってみています。東京がさまざまな魅力を内包していることを教えてくれる本です。

仕事とは何か、生き方を豊かにするためのヒント

改めて仕事とは何かを考え、仕事の課題に向き合う上で役立つ手掛かりに触れています。仕事で悩んでいる人やどう関わるべきか行き詰っている人、これから就職する方へおすすめの本です。

著者
姜 尚中
出版日
2016-11-08

雇用不安や経済の低成長などの不確実な時代だからこそ、社会人は小手先のノウハウではなく、古典や歴史などの「人文知」に学ぶ必要があると姜尚中は主張しています。

2008年にアメリカで起きたリーマンショックから日本経済も大きな打撃を被り、倒産や廃業件数が増え、大きな働き口が失われました。経済のグローバル化により海外のほかの国で起きた経済危機が日本を襲う一方、東日本大震災や津波、熊本地震などの自然環境で以前にもまして先の見通しが立たない状況になっています。

非常事態が常態化してきている時代だからこそ、仕事についても従来型のマニュアルで考えることはできなくなってきているのです。

人文知から入り、人はなぜ働くのか、ドラッカーや石橋湛山を手掛かりに時代の潮流をつかみ、困難に打ち勝つこれからの働き方を示していきます。単なる自己啓発書ではなく、逆境だらけの半生だからこそ書けるような自叙伝も記載されており、自己啓発本が苦手な方も読みやすいでしょう。

本書には、逆境に心折れそうなときに詠む本の紹介や資本主義の精神を読むためのおすすめの小説も取り上げられており、読書好きの方へもおすすめの本となっています。

在日韓国人として生きてきた、姜尚中。その半生や決意、思想を読書を通して見ることにより、より自分の思想や視点を深められることができます。

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