日米で異なる2つの「反知性主義」とは?その意味と論点を正しく理解する為に

更新:2017.4.17

「反知性主義」は注目を集めている言葉ですが、その意味をあなたは正しく説明できますか?実はこの言葉、有識者によっても書籍によってもかなりのズレがあります。論点が違うと勘違いのもとになりますので、まずは正しい理解をしてみませんか。

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反知性主義って何?

反知性主義はもともとアメリカで生まれた概念で、「知性と権威が強く結びついている社会や、知識のあるものが権力を持つという風潮に対する反発」を表しています。「知性そのもの」を否定しているのではなく、「既存の知性主義や権威」を否定するものなのです。

英語の「Anti-intellectualism」を和訳した言葉が「反知性主義」なので、「知性主義に反する」姿勢という意味が正しいはず。しかしその語感から、日本では「反・知性、という主義」という具合に、本来とは別の意味でとらえられているのが現状です。主に日本で語られる「反知性主義」は、「データや根拠、論理性を鑑みず、自分の持つ感情や感覚を頼りに生きる姿勢」のことと考えられています。

本来の意味の「既存の権威への反発」は、見方を変えると、反知性主義が権威を崩壊させ、そこから「新しいものが生まれる」可能性もあります。

メジャーなものに対する反発は常にあるものです。歴史を見ると、徐々に反発する勢力が大きくなって旧勢力をつぶし、それが新しい秩序をつくって大きくなるとまた新たな反発勢力が生まれる、というサイクルが回っています。事実、これを繰り返すことで現代社会がつくられてきましたし、「既存の社会秩序を壊して次に進む」という動きは、時代の中に常に存在することは間違いありません。

また、最近では「ポピュリズム」という言葉も、「反知性主義」と並列で語られることが多くなってきました。ポピュリズムとは、「一般人の不安や願望をあおり、既存の政治や知識主義を批判していく政治姿勢」のこと。政治家が大衆を味方につけるために人気取りのような行動をすることで、社会を間違った方向に導くのではないかということで危惧されている思想です。日本では主に「大衆迎合主義」と呼ばれています。

ポピュリズムの台頭を示す現象としては、米トランプ大統領の当選、イギリスのEU離脱などが代表格とされます。日本でも、安倍政権のやり方は「反知性主義的」そして「ポピュリズム政治」だと揶揄されることが多くなっています。

「反知性主義」を語るときには、その言葉が「本来の(アメリカの)反知性主義」なのか、「日本で使われる反知性主義」なのかをはっきりさせておかないと、誤解を招く恐れがあります。今回ご紹介する本も、本によってとらえ方が分かれていますので、そのあたりを整理しながら読み進める必要があるでしょう。
 

反知性主義はいかにして生まれたのか?

まずは、アメリカにおいて「反知性主義」がどのように生まれてきたのか、その歴史を考える本をご紹介します。実は、反知性主義が生まれる背景には「キリスト教」が大きく関わっていました。

著者
森本 あんり
出版日
2015-02-20

本書では、アメリカにおけるキリスト教の広まりから、反知性主義の成り立ちが語られます。クリスチャンである著者自ら、キリスト教を「ウイルス」に例えるなど、かなり挑戦的かつ冷静に、宗教を客観視しようとした内容になっています。

本来の反知性主義のはじまりとされる「知性と権力の固定的な結びつきに対する反感」は、アメリカのダイナミズムの底流にあると、著者は言います。現存の既得権益を壊し、新しい秩序をつくりたいという思いが、イノベーションの土壌となることもある、ということでしょう。

注意しておきたいのは、副題の「アメリカが生んだ『熱病』の正体」という文言です。『熱病』という言葉から「単なる危険思想」という「日本の反知性主義」に近い形での理解をしてしまう方もいそうですが、本書の内容は「本来の反知性主義」を解説したものです。
 

日本における反知性主義の捉え方

次は「日本の反知性主義」についての本です。コラムニスト・小田嶋隆氏が「日経ビジネスオンライン」に掲載したコラムに加筆修正を加えたエッセイ集が本書です。

著者
小田嶋 隆
出版日
2015-09-15

反知性主義の本来的な意味と日本でのとらえられ方の違いを指摘したうえで、「日本の反知性主義」的指向を論じていきます。紹介される反知性的指向は5つ。例として1つをあげると、「選ばれたんだから諦めて、醜態を見せなさい」という生贄指向があります。

企業の不祥事や有名人の不倫騒動などでは「謝罪会見」が求められますが、これは不祥事の原因解明ではなく、人々の溜飲を下げるために「謝ることが目的」とされているように見えます。これが、感情や感覚で動く「日本の反知性主義」の特徴として表出している事象と考えられます。

他にも「ホントのことを言っているんだから仕方ないだろ? 」という本音指向、「それって、どういう意味があるからやってるの? 」という功利指向など、社会的にありがちな言説を取り上げており、興味深く読み進めることができます。
 

ポピュリズムにもある日米の違い

ポピュリズムの特徴は先述したように、「一般人の不安や願望をあおり、既存の政治や知識主義を批判していく政治姿勢」のことです。本書では世界で起こっているポピュリズムによる現象と思われる事例を挙げながら、それぞれ考察されています。
 

著者
水島 治郎
出版日
2016-12-19

本書ではポピュリズムの定義を「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル」と「人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」の2つに分け、後者をメインとして扱っています。

ポピュリズムは日本では、リベラルとは対極にあるもの、つまり、極右勢力と同じようなものだと考えられています。するとポピュリズムは民主主義の敵となるわけですが、一方で、こうした勢力が既成政治に緊張感を与えることで政治は活性化するという指摘もあります。

反知性主義同様、ポピュリズムに関しても、日本と欧米ではとらえ方が違う部分があり、人によって論点も定まっていない印象です。しかし近年、この言葉を使った言説が多くなってきており、その点では、これから論点が整理され議論が深まっていくテーマだと言えるかもしれません。

視野狭窄にならないために「知性」を磨く

本書における反知性主義は、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」とされています。つまり、「日本の反知性主義」について書かれた本です。

著者
佐藤優
出版日
2015-06-01

著者は、過去に外交官などをつとめ、現在は作家として多数の著書を持つ佐藤優氏。官僚・政治家などのエリートの「考えない姿勢」を批判し、ナショナリズムの広まりに警鐘を鳴らしています。

本書中では、「日本の反知性主義」が「ヤンキー」の性質とも重ねて語られます。「ヤンキー」は自分たちの世界でしか通用しない論理で「友情」や「絆」を語る。そしてその「自分の都合のいい世界に閉じこもる姿勢」が、日本の政治にもあるということを示しているのです。

そのうえで著者は「日本の反知性主義」に対抗しうる「知性」を身につけることが大切だとします。知性とは何かを正確に理解するのは簡単なことではありませんが、「言葉の重要性」などからそれを考えることのできる1冊となっています。

反知性主義の渦に飲み込まれないために備えておくべき教養

本書は「日本の反知性主義」を前提とし、それに陥らないために読んでおいた方が良い本を70冊紹介している本です。雑誌『文学界』に掲載された「戦後70年大型企画―『反知性主義』に陥らないための必読書50冊」に、新たに20名分の推薦書を加えた1冊です。

著者
出版日
2015-10-26

「反知性主義」について述べている本ではなく、知性を身につけるために必要な教養本を1人1冊推薦しています。推薦書は「聖書」や「哲学書」から、「物理書」、「宮沢賢治全集」までジャンルは多岐に及びます。すべて読むのは至難の業ですが、気になった本には触れてみて、知性の幅を広げるために日頃読まないジャンルに挑戦してみるのもいいでしょう。

本書での反知性主義は「論敵(あるいは外国)を脊髄反射的に切り捨てるようなヒステリックな言説や人」を指しているため、いかに冷静になれるかが、そこに陥らないために必要なことになります。この本を端緒に、芋づる式に読書の幅を広げることが、冷静に日本を見つめるきっかけになるかもしれません。