エドワード・ゴーリーのおすすめ絵本10選!大人こそハマるダークな世界観

更新:2021.12.19

大人向け絵本の先駆けともいえるエドワード・ゴーリーの作品は、独特のダークな世界観をもった手強い作品ばかり。奇妙な作品という印象が深くて、苦手かも……という読まず嫌いの人も、この機会に一冊手に取り、ゴーリーの世界の一端を覗いてみては?

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エドワード・ゴーリーの比類なき魅力とは

エドワード・ゴーリーは、1925年アメリカのイリノイ州シカゴ生まれの絵本作家です。高校を卒業後、美術大学に進学するも、数か月で退学し陸軍に入隊。3年後、除隊し、ハーバード大学に入学、フランス語を専攻しました。卒業後は出版社に勤務し、ブックデザインを担当。数多くの小説の装丁を手がけ、ブックデザイナーとして活躍しながらも、1953年に初めての作品『弦のないハープ または、イアブラス氏小説を書く。』を刊行。2000年に75才で亡くなるまで、多くの作品を残しています。

インパクトのある文章、そして文章を盛りげる独特の画力。ペンを使って細やかな描線を重ねるクロス・ハッチングという技法で描かれた独特の世界観は、唯一無二のもの。一分の隙も無くペンを重ねられたモノートンの絵は、底知れぬ不安感を感じさせ、読むものを圧迫してきます。エドワード・ゴーリー独特の画力の強さを、芸術的と賞賛するアーティストは多く、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンや、映画監督のティム・バートンも、ゴーリーファンです。

圧迫感のある絵から、エドワード・ゴーリー自身も偏屈な人物なのでは?という印象を与えますが、実際には、ご近所さんとも仲良く談笑する、やさしい穏やかな人柄だったとか。猫好きで、ニューヨーク・シティバレエと、無声映画のファン。晩年は、ドラマ「Xーファイル」の放送を楽しみにしていたというのですから、親近感が持てますね。ダークで混沌とした絵本の世界感と、作者の穏やかな生活とのギャップが、ゴーリー作品への興味をさらに引き立ててくれます。
 

エドワード・ゴーリー入門にぴったりの珍妙な物語

エドワード・ゴーリーの絵本の中でも、一番人気なのが『うろんな客』。まず、タイトルで戸惑います。辞書を引くと、うろん(胡乱)とは、正体が怪しく疑わしいこと。

表紙を見ると、ペンギンのような正体不明の動物が、マフラーをなびかせて、ボーっと立っています。この動物が、うろんな客です。さらによく見ると、動物は、白いキャンバスシューズを履いています。珍妙な姿ですよね。実はこの白いシューズ、エドワード・ゴーリーが、実生活で好んで履いていたキャンバスシューズにそっくりなんです。自分のお気に入りの靴を履かせた、この妙ちくりんな生き物は、いったい何者なのでしょうか?

著者
エドワード ゴーリー
出版日

この不思議な動物ですが、登場の仕方にもインパクトがあります。

「ふと見れば 壺の上にぞ 何か立つ 珍奇な姿に 一家仰天」(『うろんな客』より引用)

短歌調で表現された翻訳文が、珍妙さをより際立たせます。

エドワード・ゴーリーの絵本の文章は、非常にシンプル。原文でも2行くらいの長さしかありません。さらに、聞きなれない難しい単語を効果的に使用し、独特の言い回しで、詩のような文章を作り上げています。

翻訳者泣かせとも言うべき独特なゴーリーの文章を訳したのは、柴田元幸。日本で出版されているすべてのゴーリー作品を翻訳しています。柴田の翻訳が成功していなければ、『うろんな客』もここまで人気が出なかったかもしれません。本書のあとがきで、翻訳者の柴田が、うろんな客とは何者なのか?という疑問にある答えを紹介しているので、チェックしてみてください。
 

薄幸の少女シャーロット・ソフィアの悲愴なる旅立ち

ストーリーに起承転結があるので、『不幸な子供』は、エドワード・ゴーリーの絵本の中でも比較的読みやすい方の作品。ただし、『うろんな客』よりも、もう一段階ダークな世界へ踏み込んでいきます。

主人公は、シャーロット・ソフィアという裕福な家の女の子。物語を数ページ読み進めると、この話、なんか読んだことあるなと感じるはず。そう、有名な児童文学作品、バーネットの『小公女』にそっくりなんです!『小公女』は、孤児となり、寄宿学校でいじめられている女の子セーラが、死んだはずの父親と再会し、大逆転のハッピーエンドを迎えるというサクセスストーリー。

エドワード・ゴーリーの『不幸な子供』も、途中までは、ほとんど同じ内容ですが、ラストが真逆です。薄幸の少女に、さらに追い打ちをかける不幸な死が訪れるという、何とも気の毒な物語です。
 

著者
エドワード ゴーリー
出版日

絵本の中に死を描くこと、ましてや主人公が死んでしまうという物語は、絵本としてはタブーと言えます。ゴーリーが『不幸な子供』を出版した1961年当時を考えると、この作品を世に出したことは、非常に勇気のいること。絵本は、子どものものであり、子どもの健やかな精神を豊かに育むものであるべき、という考え方は、現在よりも、一般的に浸透していたはずです。

エドワード・ゴーリーは、少女の死の物語を、面白おかしく描いているのではありません。むしろ読者に、薄幸の少女の物語の真実を訴えかけてきます。

シャーロット・ソフィアや、セーラのような苦境に立たされている子どもは、残念ながら、現実の世界にもいるのです。その子どもたち全員に、小公女セーラのような、ハッピーエンドが訪れるのでしょうか?大半の子どもたちは、闇の世界の方へ引きずりこまれて行くことに……。そんな現実社会での真実に気づかされ、啓発される、迫力ある作品です。

絵本出版界に物議を醸した問題作中の問題作

『おぞましい二人』は、エドワード・ゴーリーの作品の中でも、毛色の違う作品。1960年代にイギリスで実際に起きた殺人事件を題材にしており、殺人を犯したカップルが主人公。問題なのは、絵本という表現方法で、この題材を出版したことにあります。
 

著者
エドワード・ゴーリー
出版日
2004-12-21

内容としては、殺人について描いているのではなく、二人の異常者の一生について、淡々と記録しているような作品。エドワード・ゴーリー自身、イギリスで起きたおぞましい殺人事件について知り、動揺し、事件を理解しようと調べているうちに、どうしても書かずにいられなくなったと述べています。

犯罪心理学に興味がある人にとっては、犯罪を扱った映画や小説と同様に、犯人の心理に肉薄した、興味深い作品ではあります。

ダークでシュールなラストに茫然自失

壁から突然自転車が現れたらどうしますか?とりあえず、乗る。という人は、エドワード・ゴーリーの世界へすんなりと入っていけるはずです。

この絵本の主人公、エンブリーとユーバートは、突如壁から現れた自転車に乗りこみ冒険に出発!雷に打たれ、ワニに遭遇しても危機を乗り越え、進み続ける二人。冒険を終えて二人が家に戻ると……ハッと驚くラストは、ぜひ絵本で確認してください。

『優雅に叱責する自転車』は、ゴーリーの他の作品と違い、白い余白の多い絵に、安心感をもって読み進めていける作品。自転車での冒険なんて楽しいね!などと浮かれて読んでいると、シュールなラストが突如訪れます。そして、必ずもう一度読んで、確かめたくなります。このおはなし、何だっだの?と。

著者
エドワード ゴーリー
出版日

翻訳者の柴田元幸によるあとがきには、物語の不条理さを紐解くヒントが書かれています。それを読んでから、絵本をもう一度読むと、ゴーリーの一筋縄ではいかないシュールな世界に、さらに深く迷い込むことができるはず。

一体、優雅に叱責する自転車とは何なのか?何度も読み返し、エドワード・ゴーリーのナンセンスな世界に、優雅にハマってみるのも、おつな楽しみ方です。

強烈にシュールなゴーリーワールドの洗礼

『題のない本』の表紙に描かれている庭。庭の右側にある建物は、個人の屋敷なのか、学校なのか、病院なのか。まるで、固定カメラの中継映像のような画面構成。この舞台装置のような固定された空間で、激しくシュールなエドワード・ゴーリーの世界が、攻撃的にシュールな文章で、繰り広げられていきます。

ページをめくると、1ページ目の建物の部屋の窓に、男の子なのか、おじさんなのか、微妙に判断がつかない人物が現れます。

そして、その後、どうなるのか……?絵本を手に取って、確かめてください!
 

著者
エドワード・ゴーリー
出版日
2000-11-02

ナンセンスユーモアが好きな人にも、そうでない人にも、一度は読んで、確かめてほしい、ゴーリーの傑作絵本。ぺ―ジをめくると、いきなり、「ひぴてぃ うぃぴてぃ」という文章。たいていの人は、ここで頭の中に?マークが浮かぶはず。文中には、説明が一切ありません。

舐めてかかると度肝を抜かれる絵本なので、心して読み始めた方が、身のためです。

一見ふざけているのかとも思えるちゃらんぽらんな文章と、強烈にシュールな画面展開を、ここまで堂々と、整然と作り上げている、エドワード・ゴーリーの才能に敬服し、驚嘆する一冊です。
 

日本初の邦訳本

AからZまで26文字のアルファベット順に構成された「アルファベット・ブック」。ゴーリーの邦訳本第一号です。

AからZまでのアルファベットを頭文字とする名前の子どもたちが、様々な方法で死んでいく様子が1ページずつ描かれています。記述されているのは死んだ方法のみで、理由は一切語られません。そのバックグランドには淡々とした風情が漂っています。

エドワード・ゴーリーの導入にふさわしいゴーリーらしい1冊です。

著者
エドワード ゴーリー
出版日

エドワード・ゴーリーは「迷ったら、アルファベットをやる。素材をまとめる上でこんないい手はない」と発言するほど「アルファベット・ブック」を好んでいました。

その言葉通り、ゴーリーの世界が存分に溢れ出ているこのアルファベット本では、短くとてもわかりやすい文章でそれぞれの子どもの死因が描かれています。

「A is for Amy who fell down the stairs(Aはエイミー かいだんおちた)」(『ギャシュリークラムのちびっ子たち』より引用)

直視するのも躊躇われるような、残忍で恐ろしい運命に出会う26人の子供たち。ページから目を背けたい気持ちに反して続きを繰ってしまうのは、ゴーリーの不思議な世界観に魅せられているかれです。

ぜひ、ゴーリーの本を手に取った事のない方はこの本から始めてみてくださいね。

文字のない怖さを味わう

文字が一切出てこない、作画のみで構成された1冊です。

「どこの西棟なのか? いったい何が描かれているのか? すべてが見る者の想像力にゆだねられてしまう とほうもなく怖い作品」(『ウエスト・ウイング』表紙裏より引用)

あなたにはどのようなストーリーが浮かんでくるでしょうか……。

著者
エドワード ゴーリー
出版日
2002-11-01

作画だけで、とほうもない怖さに身を包まれるような作品。しかしこの作品には具体的にグロテスクなシーンなどは一切登場しません。本に描かれているのはただの西棟(ウエスト・ウイング)です。

上階へとつながる階段、脱ぎ捨てられた靴、開け放たれた扉、自然が描かれた絵画……考えることさえしなければ、単なる絵に過ぎません。しかし1度想像力が膨らみ始めると「なぜこんなところに?」「どうして倒れているの?」「これは何?」と次々と不可解な疑問が湧き溢れ、止められなくなってりまいます。

人によってストーリーが変わる不思議で恐ろしい大人の絵本。ぜひ手に取って何度も読み返してみてくださいね。

生贄となる少女の運命を描く

5歳にもならないミリセントという少女が誘拐され、虫の生贄となる様を描いたこの物語は、ゴーリーの初期の作品です。

夕刻、一人で公園を出た少女に黒い車が忍び寄って子をさらい、子守についていたはずの女は、藪の中で骸のような状態で発見されます。警察に捜索を依頼するも、その甲斐はなし……。

さて、ミリセントが連れていかれた場所とは一体どこなのでしょう。

著者
エドワード ゴーリー
出版日
2014-06-10

この物語には幼い少女の誘拐、骸状態の子守の女、など恐ろしさをイメージさせられる状況はありますが、少女を誘拐する虫たちの動きを始め、特に残忍なシーンは描かれていません。ゴーリーの作品の特徴とも言える状況の描写が、ただひたすら描かれているのみです。

しかし、視覚的な恐ろしいシーンが登場しないにも関わらず、背中のあたりからジワジワと広がる恐怖が、読者を襲います。表紙に描かれている4本足の虫もその1つでしょう。見方によっては滑稽にも見える虫。しかし、ゴーリーの描写、作画方法によって何かとても意味のある恐ろしいものに思えてくるのです。

ぜひ本を手に取り、想像力を働かせて読んでみてくださいね。

エドワード・ゴーリーと柴田元幸の融合

エドワード・ゴーリーが好んで作成した「アルファベット・ブック」の1冊です。

AからZまでの26種類の想像上の、不思議な動物たちが登場するゴーリー版「幻獣辞典」。ゴーリーらしいシュールな動物から、人間の内面をついたドキッとしてしまうような動物、そしてゴーリーの本には珍しくクスッと笑ってしまうような動物まで、あらゆる想像上の動物たちが登場します。

柴田元幸の和歌のような邦訳と、ゴーリーの韻を踏んだ原文にも注目です。

著者
エドワード・ゴーリー
出版日
2004-01-22

この本のタイトルにもなっている「まったき」という日本語の意味をご存知でしょうか?「まったき」とは漢字で「全き」、つまり完全で欠けたところのないことを指します。つまり、この本は完全ですべてを網羅している「幻獣辞典」ということになるのです。

そんな完全な動物辞典に描かれた動物たちはというと、見た目がドアのようだったり、植物のようだったり……、そもそも動物に見えないような滑稽なものまで登場します。邦訳されたものと原文の意味が多少違うものもありますので、邦訳、原文の両方を読むことにより2度楽しむことが出来るでしょう。

ゴーリーの作品の中で、他の作品には無い魅力を味わえる貴重な本です。ぜひ気楽に手に取って楽しんでみてくださいね。

エドワード・ゴーリーが描く、純粋な少年の誕生から昇天

信仰心の深い少年の生き方と天に召されるまでを描いた作品です。日本での刊行時に混乱を避けるためエドワード・ゴーリーと統一されましたが、原作は「レジーラ・ダウディ(Regera Dowdy)」の名で発行されました。

敬虔(けいけん)とは神仏につつしんで仕えるさまを指す言葉。そのタイトルの通り、主人公のクランプ坊やはとても信心深い少年です。でも、作画を見てみると、おや?と思う不思議なところもあるようで……。

著者
エドワード ゴーリー
出版日
2002-09-11

主人公のクランプ坊やは3歳にして自分の心が邪であることを知っています。空を飛ぶカモメを見ては妹に「死んだら鳥のように天に昇る」とも言い、小銭を恵むためにお菓子も食べません。

その一方で、クランプ坊やは手にかなづちを持っていたり、神の名が軽視されている文章を見るや否や、その書物を念入りに塗りつぶしてしまったり……少しストイックで奇妙な少年像も浮かび上がってきます。

結局、病によって短い生涯を終えることとなったクランプ坊やは、どのような少年であったのでしょう。じっくりと作画を眺め、クランプ坊をじっと観察するように読みたくなる1冊です。

穏やかな人柄ではありましたが、変人には違いないエドワード・ゴーリー。どんな人物だったのか、もっと知りたければ『どんどん変に…』というインタヴュー集を読むと、ゴーリーの世界に、さらにハマれると思います。

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