人を使い潰す「ブラック企業」。今回はその定義や実態、背景から対策までを参考本とともに見ていきます。
ブラック企業(ブラック会社)とは、劣悪、あるいは、違法な労働条件や就労環境下での労働が強いられる企業のことです。2000年代後半から、ネットスラングとして登場した言葉ですが、ここ数年でよく耳にするようになりました。そんなブラック企業の定義には大きく3つの特徴があげられます。
①長時間労働とサービス残業
ブラック企業といえば、この長時間労働は避けられません。月80時間の残業は過労死の原因と言われ、「過労死ライン」と呼ばれます。この過労死ラインを超える残業がある企業は、ブラック企業といえるでしょう。
また、残業時間に見合った「残業代」がしっかり支払われているかどうかもポイントとなります。残業した分、しっかりお給料が支払われていればまだいいでしょう。しかし、残業しても労働に見合った分の支払いがされていない場合も多数報告されています。これは「サービス残業」にあたり、社員はいいように使われているだけです。自分の労働に見合ったお給料をもらうのは、社員として当たり前の権利ですよね。
このような社員の意思に反した長時間労働は大きな問題で、過労死だけでなく自殺や鬱を引き起こす原因となります。
②社員に休日を返上させ、使い倒す
ブラック企業では、社員を育てることはなく、社員を使い倒します。無理難題なノルマをかし、ノルマが達成するまで労働させるなどが一例として挙げられますね。
さらに、社員は課せられたノルマ達成のために、休日を返上して働くようになります。一般的に、年間休日日数は100〜125日必要です。これが年間で二桁だとかなり少ないといえます。休日が少ないことは、その社員の健康に問題が出るだけではなく、社員の家庭にも大きな影響を及ばすでしょう。
③パワハラ・セクハラが常習的に行われている
上司が権力を行使して、部下に対して精神的、肉体的苦痛を浴びさせる「パワハラ」。具体例としては、部下をバカにする、無視をする、他社員の前でワザと大声で叱りつける、暴力を振るうなどが挙げられます。
異性の社員に対して、性的な嫌がらせを行う「セクハラ」。過剰に体を触ったり、顔をかなり近寄せるなど直接的なアプローチが一般的です。一方で、異性の特徴的な部位について発言することや、年齢に関係する発言など、何気無い発言もセクハラとなります。
このようなパワハラやセクハラが、常習化している企業は、ブラック企業だといえるでしょう。
ブラック企業が生まれた原因として、企業と消費者という2つの視点からまとめました。
①企業による視点
ここ20年間における、デフレによる激しい価格競争が挙げられます。企業は生き残りをかけて、コスト削減に努めます。そこでまず最初に削減されるのが、人件費なのです。人件費を削減することで、社員の数は大きく減り、1社員の仕事量は増え、そのため労働時間が長くなる。デフレという経済の状況が、この悪循環を生み、ブラック企業が絶えない理由となっているのです。
②消費者による視点
モンスター客などからの過剰な要求に対して行われる、行き過ぎたサービスの提供も、ブラック企業を生む原因です。デフレによって、商品の低価格競争が激化する中で、高いサービスを追求する「モンスター消費者」。人件費を削減し、限られた労働力の中で、高いサービスを維持するには限度がありますよね。にも関わらず、他者と競合するためには、無茶な要望も答えなければいけない。この過剰なサービスが、社員に長時間労働をかすようになるのです。
①や②などが複合的に絡み、ブラック企業が生まれているといるのでしょう。
自分の会社がブラック企業だと分かっても、どうすることも出来ないと思ってる方が多いのではないでしょうか。実際には、個人で対策をとることが出来るんです。
まず、「労働法の知識をつける」ことが挙げられます。個人で武器を持つことは重要ですよね。労働法の知識を身につければ、自分が不当な労働を強いられているのを理解し、会社側に訴えることが出来るようになるでしょう。
また、潔く「辞める」ことも個人で出来る立派な対策の1つです。ブラック企業で長く勤務していると、中々辞めるとは言い出せないこともあるでしょう。しかし、辞めて転職するというのも自分で行える対策です。その代わり、次の転職先をブラック企業は選ばないことが重要なので、注意してください。
個人ではありませんが、政府も長時間労働への法規制や、学校教育で労働法を学ばせるなど対策をとることが出来るでしょう。
以上のような対策法を知ることが、自分の身を守る上では重要になります。
それでは、ブラック企業の実態・原因・解決策に注目した本をご紹介していきましょう。
ブラック企業の特徴・実態を知るときに、おすすめしたい1冊が、ブラック企業の典型的な手口と対策を紹介する『マンガでわかるブラック企業: 人を使い捨てる会社に壊されないために』です。
なおネット上のいくつかの口コミにも見られるように、それほどマンガ要素は強くない印象ですが、読みづらさは感じられませんので、ご安心ください。
本書は、ブラック企業を「酷使」「辞めさせる」「精神圧迫」「金銭搾取」という4つの視点から紹介します。
たとえば「辞めさせる」では、入社前に「社員三誓」を35秒以内に暗唱できなければ、内定辞退を強要される、といった過酷な実例が載っています。しかしなぜ企業は、このような入社前選抜を行うのでしょうか。
本書ではこの場合、理不尽な命令に対しても従順であったり、精一杯に取り組めたりするかといった「基準」で、企業が内定者をふるいにかけたかったため、だといいます。
つまりは、早口や暗記能力を求めていたわけではないのです。実務に関係ないと思われるような課題を与えて選抜するという、悪質なケースといえるでしょう。
本書ではほかにも、想像を絶するようなブラック企業の実態を知ることができます。人を使い捨てるという言葉が、まさにぴったりな企業の現状、そしてその対策を知りたいときにおすすめしたい本です。
- 著者
- ["松元 千枝", "川村 遼平", "古川 琢也", "佐々木 亮", "竹信 三恵子"]
- 出版日
- 2013-08-06
日本の企業のブラック化の背景には、人を使い潰す企業はもちろんのこと、労働者に暴言を吐いたり暴力を振ったりする「モンスター消費者」も関係しているかもしれません。
『ブラック企業VSモンスター消費者』では、企業のブラック化とモンスター消費者の関係性が探られていきます。
本書によれば、低成長とサービス産業が広まりを見せるなかで、消費者が優先される考え方は、労働者の条件を下げていきました。やがて消費嗜好は多様化し、商品やサービスの「質」が大事にされるようになっていきます。
このようななかで、企業はサービス残業などを正当化しました。かくして労働者の負担は増加したといいます。本書の言葉を借りるのなら「ブラック企業とモンスター消費者が結託」している状況といえるでしょう(本書より引用)。
以上のように、ブラック企業の背景は、消費者も含む複雑なものがあります。いま一度、消費者と労働者の対立関係などについて、その背景に潜む社会の制度なども含めて考えていく必要があるのかもしれません。
- 著者
- ["今野 晴貴", "坂倉 昇平"]
- 出版日
- 2014-02-05
『ドキュメント ブラック企業: 「手口」からわかる闘い方のすべて』では、若者を使い潰すブラック企業の「手口」を紹介しながら、実践的なブラック企業対策を伝授します。
本書では、まずは、家族でも友人でも「自分以外」の誰かに相談することを力説します。
というのは、ブラック企業で働いていると、普通と異常の判断がしづらくなり、その世界がすべてだと思い込みがちだからです。しかし自身の陥っている現状を誰かに相談をすれば、自分を客観視できたり、場合によっては相手から、「おかしいのではないか」といった反応も得られたりする可能性があるため、相談が有効となってくるというワケです。
さらに本書では、身近な人に相談したあとには、弁護士や労働組合、行政による相談窓口といった、専門家・専門的な場所への相談をおすすめしています。
なお専門家に相談する場合には、企業による法律違反など、なにがおかしいのかのすべてを把握している必要はないそうです。どうやら現代では、おかしさを感じた場合には、とにかく相談してみることがカギとなりそうです。
本書ではさらに、上述した「専門家」や「専門的な場所」について、どんなところが良いのか、細かく解説されていきます。たとえば、弁護士を選んでいくときの見極め方などについても掲載されていますので、かなり実務的といえるでしょう。
自分や、自分の大切な人たちをブラック企業から守るとき、本書の知識はきっと「武器」になるはずです。
ブラック企業が心配な人、ブラック企業なのではないかと疑っている人を含め、すべての働き手に一読してもらいたい1冊です。
- 著者
- ["今野 晴貴", "ブラック企業被害対策弁護団"]
- 出版日
- 2014-08-06
劣悪で、ときとして違法な労働条件ですらある「ブラック企業」。その実態は、内定を強制的に辞退させるなど悪質なものでした。
これらの背景は、過度な人権費削減や、消費者を優先しすぎる社会など複雑といえるでしょう。また対策としては、状況や立場にもよりますが、法律の知識をつけることから労働時間への法規制までさまざまでした。
とはいえ、残念ながらブラック企業が溢れる昨今においては、その実態や労働法などに関心を持っておくことは、多くの人にとって無駄にはならない対策になるように思われます。ぜひご紹介した本に目を通してみてください。