あなたも企業も幸せになれる「ワークライフバランス(仕事と生活のバランス)」とは?定義や背景、取り組みを、参考になる本とともにまとめました。
政府広報オンラインによれば、ワークライフバランスとは「仕事と生活の調和」を意味します。ここでいう生活とは、仕事以外に行われる育児、介護、趣味、学習、休養、地域活動などのことです。
しかしそんなワークライフバランスが実現できている人は、まだまだ少数派といえるでしょう。
実現が難しい背景には、①不安定な雇用によって経済的な自立ができない、②過労による心身の疲労から健康が危ぶまれている、③仕事と子育て・介護の両立が厳しい、といったことが挙げられます。
なおワークライフバランスに定まった答えはなく、「多様な人材が自分の事情に合わせて働くことのできる社会」(「政府広報オンライン」より引用)が求められています。
一体、ワークライフバランスの定義が個人によって違うのならば、その達成度はどのようにして測れるのでしょうか。
『オランダ流ワーク・ライフ・バランス: 「人生のラッシュアワー」を生き抜く人々の技法』では、「ワークライフバランスの達成度について、見解の統一や十分な概念化は進んでいないという考えを紹介しながらも、本人による「主観的な判断」と、労働時間などを含む「客観的なものさし」が必要だと述べています。
たとえば、仕事中心の男性「自身」はワークライフバランスに問題がないと感じていても、その妻の仕事と生活(家事や育児など)のバランスが取れていない場合もあるでしょう。
こうなると、仕事と家族のバランスは取れていないかもしれません。だからこそ本書では、労働時間については、働き手個人や企業の努力に頼るのではなく「法的規制」が必要だと主張するのです。
なお本書は、学術的な色合いが比較的強い1冊なので、後から紹介する『働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法』のように、気軽に読める本とはいえないでしょう。
しかし言い換えれば、ワークライフバランスについての基礎的な情報はもちろんのこと、タイトルにもあるように、オランダのワークライフバランス事情や、その経緯まで、通常の本よりも詳しく学べるという魅力があります。
ここまではワークライフバランスについて、その定義や基本的な考え方を見てきました。ところで、そもそも「なぜ」ワークライフバランスは、必要なのでしょうか。
- 著者
- 中谷 文美
- 出版日
- 2015-01-20
日本では、少子高齢化が進み、労働力人口が減少しています。そのようななかで、国・企業・働き手という3つの立場から、ワークライフバランスが重要となる理由(メリット)を整理してみます。
①国側のメリット
・ワークライフバランスを通して、仕事と、結婚や子育てなどが両立できれば、少子化の歯止めになる可能性がある(参考:内閣府男女共同参画局)
②企業側のメリット
・低コストで、定職率やモチベーションを維持したり、優秀な働き手を得られる可能性がある(参考:Sound Design for OFFICE)
③働き手側のメリット
・心身の健康を維持できたり、生きがいを感じられたり、余った時間に資格を取ることによって、労働条件が向上したりする可能性がある(参考:政府広報オンライン)
このように、ワークライフバランスには、国・企業・働き手、それぞれの立場から、それぞれのメリットがあるようです。
そしてこのことが、ワークライフバランスが注目される原因にもなっているのです。以下ではより詳しく、ワークライフバランスが注目された背景に迫っていきます。
『改訂版 ワークライフバランス: 考え方と導入法』では、ワークライフバランスが注目される最大の要因として、急激な少子化に対する政府の危機感と、それに対する対応策を挙げています。
少子化問題は、1989年に出生率が戦後最低の1.58を下回る「1.57ショック」が起き、注目を浴びました。1990年代からは、政府が育休制度の整備や保育所拡充を行ったとされていますが、出生率低下への改善は、さほど見られませんでした。
その後、法律や制度の整備が進められていくなかで、ワークライフバランスにもスポットが当てられるようになったといいます。
以上のような政府の動きに対して、企業も次第にワークライフバランスに関心を寄せるようになります。なぜならば、ワークライフバランスは、企業の業績が悪化するなかで、より高い生産性と競争力を得られるカギになり得えたからです。
生産性と競争力について補足しましょう。ワークライフバランスでは、以下の4点に期待が寄せられています。
①子育てする社員などの退職を防げる
②優秀な人材確保が有利になる
③いま働く人材のポテンシャルを引き出せる
④職場全体のモチーベーションがアップする
すなわちワークライフバランスは、少子化に歯止めをかけたい政府、生産性や競争力を高めたい企業、そして、仕事と生活の両立を望む多くの働き手にとって意義あるものだったのです。このような理由から、今では官民の両方によってワークライフバランスの推進が行われています。
本書では、上述したワークライフバランスについての基礎的な情報だけではなく、ワークライフバランスに対する企業の取り組みについても紹介されています。
なお「はじめに」によれば、本書は、人事部やワークライフバランス改革の推進担当者向けの実務入門書ということですが、個人的には、企業の情報を集めたい就活生にも、おすすめできる1冊であるように感じられました。
それでは、実際にワークライフバランスに取り組んだ組織を見ていきましょう。
- 著者
- 小室 淑恵
- 出版日
- 2010-03-19
保育事業などに取り組む認定NPO法人フローレンスでは、スタッフの平均残業時間が1日なんと約15分(2016年時点)。
具体的には、長時間労働削減のために、事業部内で個人の残業時間を公開したり、残業ゼロ月間を限定的に取り入れて業務の優先度を改めて認識(「業務の断捨離」)したりするなどの取り組みを行っています。
また2009年には、ワークライフバランスに関する優れた取り組みを行う中小企業に送られる「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」に認定されました。
しかしフローレンスの代表である駒崎は、かつてはかなり多忙な日々を送っていたといいます。
それでは、駒崎や組織が「働き方」を「革命」したきっかけは、何だったのでしょうか。
駒崎の働き方を変えるきっかけは、アメリカでのリーダーシップ研修だったといいます。
『働き方革命: あなたが今日から日本を変える方法』では、著者であり、認定NPO法人フローレンスの代表である駒崎自身の働き方、そして、組織の働き方がどのように変わっていったか、ということが読み取れます。
駒崎は、アメリカでのリーダシップ研修後、自らのライフビジョンを設定したうえで、定時退社するなど、働き方を180度変え、組織内の働き方改革にも取り組み始めました。
たとえば、単独で集中して文書や企画をつくる作業などには在宅勤務、マニュアルを作成するときには一時的に外出先(カフェ)で作業できる「パーソナルひきこもりタイム」を導入したといいます。
そんな本書の魅力は、働き方を改革していく際の試行錯誤が見える点でしょう。問題にぶつかりながらもその都度工夫し、駒崎自身の仕事や組織がスマート化されていくという、人間らしいプロセスが見て取れます。
また文章もブログのようにカジュアルで面白く、読みやすい点もおすすめポイントです。とはいえ、「こんな風に働き方を革命したい」という理想・ビジョンが、実際の働き方にきちんと反映されており、説得力は抜群といえるでしょう。
「働きすぎの人生はもう嫌だ!」と考えているすべての人に手に取ってもらいたい1冊です。自らのライフビジョンを、夢や理想で終わらせない道筋が見えてくるかもしれません。
このように、いいことばかりのように見えるワークライフバランスですが、問題点はあるのでしょうか。
- 著者
- 駒崎 弘樹
- 出版日
NTTデータ経営研究所による経営研レポート(2010)では、ワークライフバランスの施策を進めていくうえで考えられる課題を記しています。その課題とは、ワークライフバランスについての基本的な考え方が共有されていなければ、「仕事に重点を置かなくてもいい」という考えが生まれかねない、ということ。
そのため、それぞれの企業では、仕事が成立するということを大前提として、ワークライフバランスについての基本的な考え方を明確化し、社員と共有する必要がある、と主張しています。
なお経営研レポートは、2010年の報告ですので、ワークライフバランスについての考え方はその後、それぞれの企業で浸透したかもしれません。
とはいえ報告書で述べられているように、企業がワークライフバランスの方向性を見極める重要性は、ワークライフバランスが一般的とはいえない日本社会では、いまだに示唆に富んでいるようにも思われます。
少子高齢化が進み、政府や企業から注目を浴びるワークライフバランス。その定義は人それぞれと考えられますが、それを達成するためには、労働時間に関する法的規制も必要だという指摘もあります。
また実際に、仕事と生活のバランスを実現するために「働き方革命」を行った組織もありました。ただしワークライフバランスを推進する際には、企業は、仕事が成立するということを前提とした方向性を明確にし、共有していく必要がありそうです。
個人的には、過労問題が深刻な昨今では、働き手一人ひとりにとって、仕事と人生のバランスがとれるような環境の整備が、法的規制なども含めて求められているように思われます。