2016年に黒木華やオダギリジョーなど、豪華キャストでドラマ化された『重版出来!』の作者。それ以前の作品も、独特の感性が光る漫画が目白押しです。リアル寄り王道系漫画で、今なお進化中の彼女の通過点ともいえる5作品を紹介します。
1969年1月21日に生まれ、長崎県出身の漫画家です。彼女の漫画の世界は「なかよし」に掲載されていた『キャンディ♥キャンディ』から始まりました。
自宅に児童文学や小説がないという環境もあって、漫画ばかりが自分のなかに濃く深く入り込み、歳をとれば皆おじいちゃんやおばあちゃんになるように、漫画家になるもんだと小学生の頃から思っていたそうです。『はいからさんが通る』との出会いが彼女の想いを決定的にしました。
高校のデザイン科の受験に失敗し、小説に傾倒しながらも漫画への想いを諦めきれず、高校を卒業後上京。就職して寮に入り、貯金をした後に1人暮らしを始めます。それと同時に木原敏江のアシスタント募集に応募し採用、アシスタントとして漫画への道をスタートさせました。
同郷の先輩の谷川史子にアドバイスをもらいながら、東京で頑張れば私もなんとかなるんじゃないか、という想いでアシスタント業にアルバイト、作品の持込を続け7年後「コーラス」(集英社)誌上の『ファンタスティックデイズ』でデビューします。
「コーラス」誌上、当時の少女漫画誌ではかなり独特な画風でインパクトを与えますが、後の初連載『レタスバーガープリーズ. OK, OK!』の読者アンケートで1位を獲得し、以降は勢いのまま少女漫画お約束の「恋する」要素と松田奈緒子のエッセンスである「働く女」を両立させながら作風を確立させていきます。
珍しい名前を見かけたらメモを取ってしまうなど、根っからの創作者である松田奈緒子。『重版出来!』のなかにでてくる、運を貯める(徳を積む)を自ら実践しながら進化し続ける、彼女の作品の軌跡を紹介します。
主人公の黒沢心は、柔道部所属の体育大生で就活中。柔道一筋でオリンピックを目指していた心だったがケガで目標を諦める事に。そんな時に気付いたのが、自分を今まで支えてきてくれた漫画の素晴らしさでした。
そして今度は自分が人を支える漫画に携わる仕事をしたい!と持ち前のガッツで遂に大手出版社興都館の最終面接へこぎつけます。しかし面接中に社長を投げ飛ばしてしまい……!?
- 著者
- 松田 奈緒子
- 出版日
- 2013-03-29
出版業界を舞台に、底抜けに明るい心が廻りを巻き込んでみんなまとめてハッピーにしちゃう、そんな読むだけで元気の出る作品です。
心のスゴイ所はとにかくポジティブ&元気なこと!仕事ぶりは未熟でも細かい所に気づく女の子らしさと、柔道を通じて鍛えた体力とガッツが素晴らしく、久慈社長や上司の和田編集長はじめとする先輩や同僚達に教えられながら、周囲も心に気付かされることがあるなど、皆で成長していくハートフルなストーリーです。
そして意外と知られていない、出版業界の裏事情の数々。これは出版業界に就職を考える若者のバイブルになり得るかもしれません。
ドラマから入った人にもぜひ、原作オリジナルのテイストを味わっていただきたい作品です。
主人公は、ミステリ作家でアラサー歴女の綾。かなりの変人ですが、そんな彼女が出版社のパーティーで出会ったのがイケメン歴史小説挿絵家の稲造。
パーティ後のひとときをともに過ごし、それが楽しかった稲造は綾に「付き合わないか」と軽いノリで誘います。綾は過去のトラウマから、「バーガー屋で「レタスバーガープリーズ!」と注文し、店員が「OK!」と返すようなノリでの誘い方なんてありえない!」と断りますが……。
- 著者
- 松田奈緒子
- 出版日
- 2017-01-21
妹に呆れられるほどのダメダメ生活から、徐々に変わっていく綾。いい人で、同じ趣味のイケメン稲造との日々を描いたドタバタラブコメディです。
作者が万遍なくキャラクターに愛情を注いで、キャラクターが自分でしっかり育っていく、そんな風に感じられて、見ていて安心できる話です。そのなかでも津島修治というキャラクターが出てきて、松田奈緒子の文学好きが見て取れるシーンもあります(津島修治は太宰治の本名です)。
昔の作品であることを踏まえてもかなり個性的な作画ですので、『重版出来!』から来た読者には違和感があるかもしれませんが、そこはストーリーで補っており、ページをめくる手が止まらなくなります。綺麗な絵であるよりも、この漫画はこの作画だから成立したといえるかもしれません。
序盤は読み切りのようなストーリー構成ですので、気軽に読み始めることができるでしょう。勢いがある作品ですのでもし一気読みしたくなっても、10巻という程よいボリュームで無理なく読み切れます。
作中にでてくる名言が、もう1度読みたいと思わせてくれる作品です。
「雪月花」と「大門パラダイス」という2作品を一冊に収めたコミックです。新装版では明治姉妹と大正遊女というタイトルで発刊されています。
「雪月花」は明治時代、何不自由なく育った光子と喜久子という姉妹がそれまでの生活をすべて失い、世間の荒波に放り出された後の人生を描いています。「大門パラダイス」では女郎屋に売られてきた、妙とりんという2人の少女の生きざまが綴られ、似通った境遇の2人の少女の人生が、光と影のように対照的に描かれています。
- 著者
- 松田 奈緒子
- 出版日
- 2006-11-08
オムニバス的な2作はまるで、同じ魂が同じ人生を辿ったように感じてしまうほど、美しくも醜く、そして儚い女の生きざまを描いた作品となっています。
どちらが良い悪いの判断だけで括れないほど、深い時代の闇に翻弄されるキャラクター達。自分なら……と思う運命の分岐シーンが出てくるたびに胸が締め付けられます。
女のプライドか、人間としての尊厳か、はたまた生か死か……残酷なまでの人生の選択は報われるのか?読み終わった時に考えさせられる一冊です。
1970年代。日本各地に団地が建ち並び、幼き作者自身も団地にお引っ越しします。ボロの平屋から新しい団地への引っ越しは、まさにワンダーランド!水洗トイレにシャワー完備、隣の家は友達のウチ、そして団地の真ん中には公園が!団地っ子の日常が蘇ります。
- 著者
- 松田 奈緒子
- 出版日
- 2009-01-21
子供時代を九州の団地で過ごした、松田奈緒子のコミックエッセイです。30~40代の読者には懐かしい団地の光景と、子どもたちの社会、九州の方言(長崎弁)が飛び交う、まさに古き良き昭和の日常が広がります。思わず「あったあった!」と声がでてしまうのではないでしょうか。
また松田家の教育方針の「生きとればよか!」は、大雑把でありながら温かみのある、時代を感じさせる言葉です。安心しつつもちょっぴりセンチになる、みんなの共通アルバムを開いている気分になります。
大正時代・東京の田端。室生犀星と萩原朔太郎の2人の文豪が芥川龍之介に挨拶に行く所から、物語は始まります。
田端組をはじめ、錚々たる文豪たちも登場している本作。社会主義の騒動や関東大震災が起こった激動の時代で、文学に取り憑かれながらも懸命に生きた芥川龍之介を側面から見たストーリーです。
- 著者
- 松田 奈緒子
- 出版日
- 2011-06-13
男前だ、いいとこの坊っちゃんだ、夏目漱石に可愛がられたと妬みとやっかみを一身に背負った、神経質で天才肌のイメージがある芥川龍之介を、松田奈緒子の愛でイケメン具合はそのままに描いています。
そして文学に純粋すぎたゆえに苦しむ姿も人間臭く書き上げており、文豪といわれた龍之介も1人の人間として日本に生きていたんだなと思える、リアリティー溢れる作品になっています。
古い言い回しや設定などがわからない部分もあるかもしれませんが、予備知識なしでも1巻完結ですので一気に読み切れる作品となっています。
松田奈緒子特有の主人公設定や考え込まれた時代背景など、現実を下敷きにしたノンフィクション感のあるストーリー。そこまで長編ではなく、1巻完結もありますので気軽に読み始めるにはもってこいだと思います。
これを機会に松田ワールドを覗いてみてはいかがでしょうか!?