生と性の生々しいレトリック 窪美澄の世界

生と性の生々しいレトリック 窪美澄の世界

更新:2021.12.1

好きな作家は誰か、と聞かれる。迷うことなく窪美澄だ、と言う。そのディティールの細かさ、生と性の生々しいレトリックに魅せられる。書店員のファンが多いというのも納得だ。あまりの凄まじさに、薦めた友人たちから読了後「何も手につかない」と言われるほど。素敵な装丁にも注目を!

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「夫婦で、家族で、どちらが、どれだけ悪いか、なんて、今になって思えばだけれど、そんな追及に答えはないんだ」

著者
窪 美澄
出版日
2014-11-14
どこにでもいる家族の、どこにでもある日常を切り取った短編集。

初めて読んだ時、あまりの既視感に駅前の喫茶店でボロボロ泣いたのを覚えている。彼女の小説を読むと安心するのは、弱いところ、ずるいところも全て肯定され、救われる気がするからだ。小さな柔らかい棘が心にいくつも刺さるが、それは意外にも心地良かった。初めて窪美澄を読むなら、本書を薦めたい。

「女のわがままなんて、かわいいもんだって。私を大事にしてくれ、って、あいつらの言いたいことはそれだけなんだから」

著者
窪 美澄
出版日
2014-02-21
祝福された愛に孤独を感じる女。別の恋に堕ちる男。

自分に同じ経験はないのに、忘れかけていたかさぶたを剥がされたような感覚。薄い皮の下に、赤い血が滲み出す。私の知っている、名前のなかった痛みが溶けていった。大人にも複雑な思春期があるのだ。

「いつの間にか皆、慣れてしまったのだ」

著者
窪 美澄
出版日
2013-10-18
妻の妊娠中、逃げるように浮気をする男や、パート先のアルバイト学生に焦がれる中年の主婦。

作品全体にしとしとと降り続ける雨は、次第にどっしりとした重みに変わる。雨の中、水分をたっぷり含んだ靴を引きずって歩くような、あの気だるい重み。不倫、格差婚、介護、いじめ、子育てーーどれも近く、それでいて目を背けがちな問題を、傘をさせずにいる私たちへ投げかけてくれる。

「あなたが、そんなことをしないように、私が大事に、大事に育てる」

著者
窪 美澄
出版日
2015-05-28
少年犯罪の加害者、被害者遺族、加害者を崇拝した少女、その運命の環の外にたつ女性作家。「少年A」によって人生の歯車が変わってしまった人々の物語。

丁度少年Aの手記「絶歌」が発売された頃だった。私も立ち読みしたが、本書は敢えてそれを意識せずに読んだ。どこまでも救いのない話だ。描き切った覚悟が恐ろしい。えぐられるような痛み、深い深い陰の部分を俯瞰する辛さたるや。地獄だ。それでも「知りたい」という欲望のままにページをめくった。人間の醜悪な欲望、業の深さに震え、同時に自分の中にあるそれらの存在も自覚せざるを得ない。読むには覚悟のいる1冊だ。

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