共謀罪は現代の治安維持法?内容+賛成派・反対派の意見をわかりやすく解説!

更新:2021.12.19

「共謀罪(テロ等準備罪)」とは「現代の治安維持法」なのでしょうか。今回は、法案の内容や背景、かつての治安維持法との共通点、賛成派・反対派の意見を、参考本とともに解説します。

ブックカルテ リンク

共謀罪とは?どんな法案?

「共謀罪(テロ等準備罪)」の正式名称は、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」です。つまり、2人以上が重大な犯罪について、話し合ったり、計画したりした段階で、罪に問うことができます。

「組織的犯罪集団」が対象となるため、「一般人」は対象外となっているのがポイント。また、実現性と危険性が高い組織的な犯罪を企む者が対象です。

今までは暴力団やテロ組織が何か重大な犯罪を計画していても、計画段階では逮捕が出来ませんでしたが、この共謀罪が成立されれば、計画段階で逮捕が出来るようになります。あくまでも、暴力団やテロ集団の組織的な犯罪を未然に防止するのを目的としている法案なのです。

共謀罪の対象となる犯罪は600以上。具体的には、事件を実行のために必要な物品・資金の調達、ハイジャックに向けての飛行機の手配、犯行現場の事前の下見、具体的な殺人方法の計画など挙げられています。

共謀罪の目的って?法案設立の意図とは?

実は過去3回も廃案になっている共謀罪。2016年以降なぜ再度取り上げられるようになったのでしょうか。

政府関係者によってこの法案の必要性が発言されるようになったきっかけは、2015年11月にフランスで起きたテロ事件とされています。政府関係者はこの事件を機に、テロ対策として共謀罪が必要だと主張し始めたのです。

また、国連総会にて採択された「国際組織犯罪防止条約」へ加入したいという思惑も強く働いています。この条約は、國際的な組織犯罪を効果的に防止するために協力することを目的としたものです。加入するためには、共謀行為を処罰する法案を持っていることが提示されています。日本には組織的な共謀行為を罰する法が存在しないため、政府は新設に動いているのでしょう。

かくして、かつて批判され、廃案となった共謀罪は、「テロ等準備罪」という名前(通称名)に変わり、よみがえりました。2017年3月21日には、テロ等準備罪を新設した組織犯罪処罰法改正案が閣議決定されています。

「共謀罪」賛成派の意見

賛成派の意見としては、どのようなものがあるのでしょうか。以下に整理してみます。

①「2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、国際的なテロを取り締まるために必要だ」
②「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結するために必要だ」
③「地下鉄サリン事件のようなテロ事件を未然に防止できる」
④「組織的犯罪集団が対象の法案のため、一般人には適用されない」

以上のように見てくると、賛成派の意見では、世界的なテロの多発から、危機感を感じ賛成している人が多いです。また、東京オリンピックに向けて安全策を今から取るべきとの声も聞かれます。

それでは、反対派はどのような主張なのでしょうか。

「共謀罪」反対派の意見

今回は反対派の意見として、4点整理してみます。

①「テロは、現行法で対策できる」
◆補足:
上述した賛成派①の意見に対する反論。「現行法」とは、組織犯罪処罰法や暴対法、予備段階で爆発物や化学兵器を取り締まる法律などを指しています。なおハイジャックや、サリンなどを使用した毒物テロについては、現行法(前者は「航空機の強取等の処罰に関する法律第3条」、後者は「サリン等による人身被害の防止に関する法律第5条第3項」)でも「予備」の段階で処罰が可能です。さらに日本ではすでに、国連の主要なテロ防止条約13本を締結しており、国内法整備も整っているのです。

②「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に対して、国内法を整備することは、条約を締約した国に任せられている」
◆補足:
上述した賛成派②の意見に対する反論。また「条約を締約した国に任せられている」点については、TOC条約の第34条第1項、国連「立法ガイド」の第51項をご参考ください。そもそも条約締結後に国内法を新たにつくった国は、条約締結国187カ国中、ノルウェーとブルガリアの2カ国なので(2017年3月時点)、共謀罪がなくても条約は締結できる、という声もあります。

③「一般人も、捜査の対象になり得る」
◆補足:
2017年4月21日、盛山正仁法務副大臣は「一般の人が(捜査の)対象にならないということはないが、ボリュームは大変限られている」と述べましたが、2017年4月28日には「通常の団体に属し、通常の社会生活を送っている一般の方々は捜査の対象にならず、処罰されることはない」とも答弁しました(「」内は東京新聞より引用)。

④「プライバシー、内心の自由、表現の自由、そして処罰内容が曖昧という観点から、違憲である」
◆補足:
内心の自由について、補足します。「共謀罪(テロ等準備罪)」は、実際には起きていない犯罪が処罰の対象です。そのため、思想や心で思っていること(内心)を処罰される可能性があり、「思想・内心の自由」を侵すことを禁止する憲法19条に反している、と判断できるのです。

このように、反対派の意見からは、賛成派がその論拠としていた「テロ」や「国際組織犯罪防止条約」への批判、そして違憲性への問題意識が明らかになりました。

ここまで見てきた賛否両論を、皆さんはどう捉えるでしょうか。ぜひ信頼に値するさまざまな情報に触れて、探索してみてください。

こんなことも「共謀罪」!?

まずは堅苦しい話ではなく、「共謀罪(テロ等準備罪)」があったら、私たちの日常がどうなるのか、『世界 2017年5月号』を参考に見ていきましょう。

本書では、成立後に想定される事例がいくつか紹介されていますが、個人的には、著作権侵害の「疑い」で容疑をかけられる例が衝撃的でした。

具体的に、どのような例かというと……。

①大学のサークルで、新入生勧誘用チラシを作ろうという話になった

②勧誘チラシには、雑誌から写真などを切り抜いて使う、という案が採用された

③サークルの部員たちは、ATMでお金を引き出して、雑誌を購入した

④途中からは、ネットで使えそうな画像も探し始めた

⑤しかし1人の部員が「著作権法に違反するから、よくない」と指摘したので、勧誘チラシには、雑誌やネットからの写真などを使うことはやめた

⑥サークル部員たちが「共謀罪(テロ等準備罪)」の容疑者とされ、取り調べを受けた

この事例を見て、あなたはどう思ったでしょうか。「実際にチラシは作ってないのに、容疑者になるの?」だとか、「そもそもなんで著作権違反?」だとか思いませんか。

実は、政府が計画している「共謀罪(テロ等準備罪)」では、①「計画」をすれば犯罪となり、②テロとは関係のない著作権侵害などを含む277の犯罪がその対象なのです。

また、処罰の要件には、資金の用意などを含む「準備行為」があるのですが、その解釈は曖昧です。したがって、上記の例にある「ATMでお金を引き出して」といった日常的に行われるような行為も「準備行為」となるのです。

このように本書では、実際に「共謀罪(テロ等準備罪)」がある日常をイメージしやすくなっています。なお今回紹介した号では特集が組まれ、事例だけではなく、学術的にも整理がなされているので、バランス感覚の良い1冊といえるでしょう。

以下では、その内容などをさらに詳しく見ていきましょう。 

世界 2017年 05 月号 [雑誌]

2017年04月08日
岩波書店
岩波書店; 月刊版

当時の国会の質疑をチェック!

現在の議論されている共謀罪を知るためにも、3回目の法案提出の裏側になにがあったのか、1冊の本とともに追っていきましょう。

『「共謀罪」なんていらない?!: これってホントにテロ対策?』の第2章では、保坂展人衆議院議員(当時)による、共謀罪関連の国会質疑が収められています。

ただし、本書で紹介されている質疑それ自体は「霞ヶ関文学」というのか、個人的には理解に苦しむものでしたし、多くの人にとって面白いものではないかもしれません。しかし質疑が引用されたあとに、保坂の解説が載っているので、質疑の論点や共謀罪の問題点はきちんと掴むことができるでしょう。

たとえば保坂は、共謀罪を新設する法案が国会に提出された3回目の年(2005年)に、「目くばせ」=言葉に頼らない「サイン」でも共謀罪が成立する、ということを当時の刑事局長と法務大臣に認めさせました。

「こんな些細なことを質問していても、意味がないのでは?」と思う方も、少なくないかもしれません。しかし保坂はこの議論を通して、当時の政府が提出した共謀罪法案は、いくらでも拡大解釈可能である、という同法の本質を突き止めたのです。

本書ではほかにも、ジャーナリストや弁護士、アカデミックな立場で活躍する5人の論者から、「共謀罪(テロ等準備罪)」についての基礎的な知識や問題とされる点を学ぶことができます。共謀罪を軸にして、章ごとに論者とテーマが変わっているので、まずは興味のある章だけでも読んでみてはいかがでしょうか。

著者
["山下幸夫", "斎藤貴男", "保坂展人", "足立昌勝", "海渡雄一"]
出版日
2016-12-15

治安維持法との共通点

「現代の治安維持法」という異名も持つ「共謀罪(テロ等準備罪)」ですが、1925年に制定された治安維持法とは、どのような共通点があるのでしょうか。海渡(レイバーネット、2017)を参考に、3点まとめてみます。

①団体を規制するための刑事法である点

②準備段階でも刑事規制される点

③処罰範囲が広くなれば、国の体制に従わない団体も弾圧できる点

このように、2016年から話題になった「共謀罪(テロ等準備罪)」は、処罰範囲が曖昧であり、権力によって悪用される可能性がある、という点が1925年制定の治安維持法と似ているのです。

ただし相違点もあるそうです。ここで本を参考に、共通点・相違点をさらに詳しく見ていきましょう。

「現代の治安維持法」と呼ばれる理由

『新共謀罪の恐怖: 危険な平成の治安維持法』では、2016年以降話題になっている「共謀罪(テロ等準備罪)」と、治安維持法(1925年制定)の共通点と相違点が記されています。

まず共通点としては、前の項目で記したほかに、類似した宣伝方法、を挙げています。

一方、相違点としては、①「共謀罪(テロ等準備罪)」では処罰要件として準備行為がありますが、治安維持法では団体の結成から目的を行うまでの行為全体が処罰の対象であった点、②「共謀罪(テロ等準備罪)」の目的は、治安維持法の目的(=国体の変革と私有財産の否定)よりも広汎である点、が挙げられていました。

ここで共通点とされる、類似した宣伝方法について、補足していきます。

実は1922年には、治安維持法に先立って「過激社会運動取締法案」が国会に提出されていました。しかし同法は、「朝憲を紊乱(びんらん)する事項」や「社会の根本組織の変革」といった《広汎性》が、議会内外から批判され、廃案となります。

そしてその3年後、上記の項目などをより限定的にした、と政府が説明する治安維持法が登場するのです。本書によれば政府は、治安維持法が過激社会運動取締法案と比較して、より《限定的》であり、警察による権限の《濫用》も大きく制限できる、と説明したといいます。

ひるがえって2017年4月に審議入りした「共謀罪(テロ等準備罪)」でも、政府はかつての治安維持法と同じような手法で「宣伝」を行いました。

具体的には、処罰範囲が《広汎》だった2003年の共謀罪法案を改めて、処罰条件として準備行為を含めたり、「組織犯罪集団の関与を要件」としたりして、法案をより《限定的》にし、その《濫用》を防ぐようにした、との説明が、政府によってなされているのです。

以上のように、現代のニュースを考えていくうえで、歴史から学ぶことは多いように思われます。漠然と「本当に『現代の治安維持法』なの?」と思っている方や、関連する議論などを大きく掴みたい人におすすめしたい1冊です。

著者
平岡 秀夫, 海渡 雄一
出版日
2017-02-28

歴史やいままでの議論、参考文献などを踏まえ、一人ひとりが共謀罪に関心を持つことが求められているように思われます。ただし情報を集める際には、先日記事にもした「フェイクニュース(偽ニュース)」にお気をつけください。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る