食品ロスとは、本来は食べられるはずだった食べ物のこと。日本では、このようにムダにされている食べ物が世界の食料援助量の何倍になっているか、想像できるでしょうか……。今回は食品ロスの現状や原因、解決策まで、参考本とともにご紹介します。
食品ロス(フードロス)とは、本来であれば食べることができるのに、捨てられている食品のことを指します。
日本では、1人当たりお茶碗約1杯分(約136g)の食品ロスが毎日発生しています。
数字にして、年間約632万トン。2014年の世界の食料援助量は約320万トンだったので、日本における食品ロスの多さは明らかといえるでしょう。
なお食品ロスの内訳は、家庭から約半分(約302万トン)、食品メーカー・小売店・レストランなどの飲食店からも約半分(約330万トン)となっています。
そんな食品ロスは、日本以外の先進国でも社会問題化しています。以下では、イギリスの例を見ていきましょう。
『さらば、食料廃棄 捨てない挑戦』では、イギリスの食品ロスの現状が紹介されています。イギリスの家庭からは、年間で推定670万トンの食料廃棄物が生まれ、そのうち約3分の2は食品ロスに当たるそうです。
さらに全体の食料廃棄物のうち100万トンは、未開封。なお最も廃棄されやすい食品はサラダであり、そのうち45%がゴミ箱行きなのだといいます。
本書ではイギリスの他にも、ドイツや日本などの食料廃棄事情にも迫っていきますが、特筆すべき点は、「はじめに」でも述べられているように、本書が「ノンフィクション書籍と映画のハイブリッド」的な1冊であることでしょう。
どういうことかというと、本書は、ジャーナリストでもあるクロイツベルガーと、食品ロスを扱った映画『テイスト・ザ・ウェイスト(ゴミを召し上がれ)』の監督による、コラボ作品なのです。
ジャーナリストからは、世界の食品廃棄に関する情報や、食品ロス解決への道筋。映画監督からは、取材などを含む文章が綴られていきます。重すぎず軽すぎず、バランスの取れた本書は、諸外国の食料廃棄事情を学ぶ際には、ぴったりでしょう。
では、そもそもなぜ、食品ロスは起こるのでしょうか。以下では、その背景に迫ります。
- 著者
- ["シュテファン・クロイツベルガー", "バレンティン・トゥルン"]
- 出版日
- 2013-03-19
食品ロスの主な原因として、5点まとめてみます。
①食べ残し
②食材の余り
③期限切れ
④売れ残り
⑤印刷ミスなどによる規格外品の発生
①から⑤まで、当然といえるようなことばかりかもしれません。なお③の期限切れについては、「消費期限」切れと「賞味期限」切れがあります。
ここで消費期限と賞味期限の違いなどについて、詳しく見ていきましょう。
政府広報オンラインによれば、賞味期限とは「おいしく食べられる期限」、消費期限とは「食べても安全な期限」のこと。もちろん個人の体調や体質、子どもや高齢者の方などについては抵抗力の問題もあるので、「賞味期限」に注意が必要な場合もあります。
とはいえ、賞味期限が過ぎたら未開封でもすぐに捨ててしまう、という行動は早計かもしれません。そもそも日本では、賞味期限が短く設定されていることが定番だからです。
このように、賞味期限について知識を深めることは、賞味期限が過ぎた食べ物は即ゴミ箱へ!といった日頃の習慣を改めて考えるきっかけになるように思われます。
それでは賞味期限は、なぜ短く設定されているのでしょうか。以下で、詳しく見ていきましょう。
『賞味期限のウソ: 食品ロスはなぜ生まれるのか』では、賞味期限が短くされている理由が説明されます。それは、食品メーカーがあらゆるリスクを考慮し、必ず問題が起きないといえる賞味期限(=短めの賞味期限)を設定せざるを得ない、ということ。
というのも、メーカーから商品が出荷されれば、流通過程から消費者に届くまでの保存管理は、一律ではありません。季節や天候なども影響してきます。多くの人に安全な食を届ける企業としては、賞味期限を短く設定して、リスクを回避する必要がある、というワケです。
そのうえ、企業によって短く設定された賞味期限の商品は、「あるルール」によってさらに短命となります。それこそが、賞味期間全体の3分の2(=販売期限)が超えた商品を、スーパーやコンビニなどが、棚から撤去するという「3分の1ルール」。
本書によれば、「3分の1ルール」は、法律ではなく「食品業界の商慣習」といいます。賞味期間は3分の1ごとに区分けされ、初めの3分の1は「納品期限」、次の3分の1は「販売期限」とされるのです。
「納品期限」について補足すると、たとえば、賞味期間が6ヶ月であれば、製造から2ヶ月を超えたメーカー・卸による納品は、多くの小売店に拒否されてしまうのです。
以上のように本書では、賞味期限の裏側を辿りつつ、食品ロスがなぜ起きるのか、という疑問に答えていきます。消費者として食品を手にするすべての人が、思わず「へえ〜!」と思ってしまうような、興味深い内容ばかりです。
そして何よりも、節の終わりに登場する「今日からできること」というミニコーナー(?)が魅力的といえるでしょう。身近な人に販売期限の存在を話す、など、一人ひとりがすぐにできることばかりなので、食品ロス問題に対して、一歩踏み出して行動してみよう、と感じられるはずです。
- 著者
- 井出 留美
- 出版日
- 2016-10-28
食品ロスに対して個人ができる対策としては、どのようなものがあるのでしょうか。今回は、①食べ残し、②食材の余り、③期限切れ、という3つの観点から、まとめてみます。
①食べ残し対策
・適切な量の料理を作る
・外食時には、自分が食べ切れる量や嫌いな食べ物を見極め、注文時に伝える
②食材の余り対策
・料理レシピサイトなどを活用して、今ある食材を食べ切る
③期限切れ対策
・事前に冷蔵庫の中身をチェックするなどして、食材を買いすぎない
・冷蔵庫での保存場所は、食材に合わせて変える
・賞味期限と消費期限の違いを理解し、適宜判断する
当たり前なようで、意外とできていないことも多いかもしれません。食品ロスのおよそ半分は家庭から出ているので、日頃から地道な努力を続けていきたいものです。
それでは、個人以外ではどのような取り組みがあるのでしょうか。以下では、欧米と日本の食品ロス対策を見ていきます。
アメリカやフランスなどで行われている取り組みに、生活が苦しい人たちに賞味期限が近くなった食べ物を無償で提供する「フードバンク」があります。
フランスでは、大型スーパーでの食料廃棄を禁止してフードバンクなどへの寄付が義務付けられている法律もあるほどです。
なお日本では、「セカンドハーベスト・ジャパン」など、精力的に活動を行う団体はありますが、寄付者の責任の重さや、一般的な認知度の低さから、まだまだ一般的とはいえないでしょう。
また欧米の飲食店では、外食時に食べ残した食品を持ち帰れる容器「ドギーバッグ」が広まっています。食中毒などの注意は必要ですが、食品ロスを減らす際には活用できそうなアイディアです。
それでは、「フードバンク」や「ドギーバッグ」が広くは普及していない現状の日本では、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
日本でも、食品ロス対策は進められています。
たとえば、①企業や通販サイトが賞味期限の迫った商品を定価よりも安く販売したり、②各家庭から持ち寄られた食べ物をプロの料理人が調理し、楽しむ「サルベージパーティー」が開催されたりしているのです。
これらに加えて今後は、前述した「フードバンク」や、それに関する法整備、「ドギーバッグ」なども充実させていく必要があるでしょう。同時に、消費者一人ひとりの食品ロスに対する認識を深めることも大切といえます。
以下では、個人(=消費者)から作り手までの食品ロス対策を網羅した本をご紹介していきましょう。
食品ロスに取り組むと意気込んでも、立場によって対策も変わってくるはず。『世界の食料ムダ捨て事情』では、消費者・政府・売り手・作り手にとって何ができるのかということが、明確に示されていきます。
本書で触れられている、消費者がとるべきアクションは、正直に言ってしまえば、食品のムダをなくしたり、自家製堆肥をつくったりと、当たり前のことが多いかもしれません。しかしその説得方法が独特で、思わず引き込まれてしまうことでしょう。
たとえば対策に一つに、パンの耳までムダにしない、ということが挙げられています。「耳なんて、ショボいものでは?」と思いがちですが、そんな読者も、以下の言葉でグイッと引き込まれるはず。
「耳は少なくともパンの10パーセントに当たり、それを捨ててしまうのは、小麦を栽培するための耕作地の10パーセントを捨ててしまうに等しい」(本書より引用)
パンの耳という、一見地味と思われるようなことを、「耕作地の10パーセント」まで持っていく展開には完敗です。
なお直後には「耳が嫌いなら、パンは食べないことだ」(本書より引用)と書かれており、自身の食品ロス問題に対する甘さを認識したという意味で、目の覚めるような思いをしました。
さらに本書では、食べられる食品を捨てる際には税を課すべき、など国がとるべき対策も示されています。消費者というミクロな視点から、政府というマクロな視点まで、食品ロス対策をバランスよく学ぶことができる1冊です。
- 著者
- トリストラム・スチュアート
- 出版日
- 2010-12-02
本来食べられるはずの食べ物が捨てられている、食品ロス問題。
日本では、年間約632万トンの食品ロスが生まれていました。これは世界の食料援助量の2倍、1人当たりにするとお茶碗約1杯分(約136g)に当たります(2017年現在)。
そしてその背景は、食べ残し、食材の余り、期限切れ、売れ残り、規格外品の発生などがありました。私たち一人ひとりが、食品のムダをなくす努力をしていくことはもちろんのこと、諸外国で行われている取り組みを参考にして、法整備などを進めていくことも重要といえるでしょう。