吉本隆明のおすすめ本、『共同幻想論』など代表作を含む5選!

更新:2021.12.19

戦後思想に偉大な足跡を残した思想家、吉本隆明。その著作は数多いですが、どれも独特の方法論に基づいて鋭い思考が展開されています。文学とは何か。思想とは何か。それを知るために吉本隆明を手に取ってみませんか。

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戦後の思想界にそびえたつ巨人、吉本隆明

よしもとばななの父、と聞くと親近感がわくかもしれません。吉本隆明は、1924年、東京に生まれ、東京工業大学を卒業します。その後、様々な工場などで働きつつ、自らの詩集を自費出版します。これが吉本の執筆活動の原点だと言えるでしょう。その後は、軸足を評論の分野に移し、『転向論』や『共同幻想論』などの評論を相次いで発表し、当時の時代情勢の中で特に若者の支持をえることになります。その後も、晩年まで評論を続け、2012年に亡くなりましたが、今第一線で活躍する評論家などに多大な影響を与えてきました。吉本は、自らの評論でどのような主張を展開したのでしょうか。

吉本隆明「入門書」

吉本の評論は数多いですが、ある種の難解さがあるのは否定できません。本書は、そんな吉本の評論の中でも、比較的読みやすい一冊です。その意味で「吉本隆明の著作を読んでみたいけれど、どれからよんだらいいか分からない」という方にもおすすめです。

吉本は本書で「真」つまり正しいことと、「贋」にせもの、誤ったものという二つの対立する概念について論じています。その意味で、非常に普遍的な問題を扱った一冊だと言えますが、内容は具体的な記述をもとに展開されます。

著者
吉本 隆明
出版日
2011-07-15

本書は吉本へのインタビューがもとになって生まれた1冊ですが、インタビューが行われ、本として出版されたのは吉本の晩年、2007年のことです。その意味で、本書においては老成した吉本の思想の姿を読み取ることができるでしょう。

それは同時に、平易な形でなされる一種の吉本の思想遍歴の総決算であるともいえます。吉本は、本書の中で善悪二元論的な考え方を批判していますが、そこに読者は、吉本の思想の複雑さの一端を読み取ることができると考えられます。

芸術とは何か

本書は文芸評論の書です。吉本は、本書で具体的な文芸作品を論じることにより、文学とは何か、また文学における「美」とは何か、という問題に迫ろうとしています。

その際に本書で採用されるアプローチは、文学を支える「言語」に着目するというものです。「言語」がどのようにして「美」をなし、文学を「芸術」たらしめているのか。そのような問題が本書では、具体的な文学作品に依拠することにより問われています。

著者
吉本 隆明
出版日

本書では、近代日本を代表する文学作品、夏目漱石の『それから』や森鴎外の『舞姫』、また『万葉集』をはじめとする古典にいたるまでがその射程の中に収められ、文学論が展開されています。

日本文学の諸作品をどのように読むのか。そういった意味でも、本書は興味深い一冊です。読者は本書を読むことで、文芸評論の作法と、日本文学の伝統、そして文学の本質へと迫ることができるでしょう。

「食」という意外な切り口

吉本隆明は、また、優れたエッセイストでもあります。よしもとばななの活躍を挙げるまでもなく、本書を読むことでそれは明らかです。本書には様々な「食」に関する思い出がつづってあり、読者を楽しませてくれます。

「食」に関する記憶は、その状況によって長く記憶に残ることがあります。本書では、そのような吉本にとってのある種の「食」の記憶とでも言うべきものが取り上げられています。

著者
["吉本 隆明", "ハルノ 宵子"]
出版日
2015-12-04

加えて本書には、吉本の長女、ハルノ宵子が文章を寄せています。これは、家族から見た吉本を知ることができるという意味で貴重な文章であると言えます。親子の文章を読み比べてみることもできるでしょう。

誰にでもある「食」に関する記憶。本書にはそんな読者の「食」に関する記憶を呼び覚ましてくれる効果があるかもしれません。吉本とともに、自らの「食」に関する思い出のページをめくってみませんか。

「ひきこもる」ことは悪いことか

「ひきこもる」こと。現代日本においては、非常にネガティブなイメージがあります。本書はそのような「ひきこもる」ことへのネガティブなイメージに対する、吉本の真摯な闘いの記録です。

「ひきこもる」こと。それは、自分を大切にする時間を持つということであると言えます。そのような「ひとりの時間」こそが大事なのだと吉本は言います。しかし、現代日本においては、他者とのつながりがあふれ、そのような「ひとりの時間」を持つことが困難になっているのです。

著者
吉本 隆明
出版日
2006-12-10

吉本は「ひきこもる」ことをポジティブにとらえていこうとします。本書を貫いているそのような視点は新鮮で、かつ現代社会に対する鋭い問題提起でもあると言えるでしょう。

また本書も、吉本の著作としては非常に平易に書かれており、吉本のいわば「人生論」に関する考え方を気軽に知ることができる一冊でもあると言えます。「ひきこもり」否定の社会の中でこそ、手に取って読まれるべき一冊です。

吉本隆明の本質

正直に言って、本書は難解です。ただ、それでも読む価値のある一冊だと言えます。なぜなら、独特の方法論を用いて「幻想」というある意味社会の本質を突く仕組みを明らかにしているからです。

吉本は「自己幻想」「対幻想」「共同幻想」の三つに「幻想」を類型化しています。この類型は本書特有のものですが、丹念に読み解いていけば、その意味するところは明らかとなるでしょう。読者は、思想書を読む楽しみを味わうことができます。

著者
吉本 隆明
出版日

本書の中で吉本は、最終的には「共同幻想」としての国家を明らかにしようとします。その過程では『遠野物語』や『古事記』などが自在に用いられ、様々なレベルの「幻想」に対して検討が加えられるのです。

本書で吉本隆明は何を主張したかったのか。それを正しく読み取ることは困難だと言えますが、それはまた本書の尽きることのない魅力の理由でもあると考えられます。吉本の文章を読み、あなたもその意味するところを考えてみませんか。

戦後思想の巨人、吉本隆明。その著作は『共同幻想論』をはじめとして難解な概念に満ちています。しかし一方で、吉本は国家、社会から文学、果ては人生に至るまで、様々な事柄をそれぞれに合わせた表現で論じてきました。

あなたにあった吉本の一冊が必ずあるはずです。そんな一冊を探しに、吉本の著作を手に取ってみませんか。

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