本棚を見ればその人が分かる、という意味のアメリカの格言がある。全くその通りだ。見たものや聴いたものや読んだもの触れたもので人間は形成される。本棚はその人自身のバックボーンを顕著にあらわす。
わたしの本棚には小説が並んでいるゾーンと、可愛い本が並んでいるゾーンがある。可愛い本とは……モデルやタレントのスタイルブック、女優やファッションアイコンのヒストリーブック、メイク本や美容本、写真集や画集、などなど。可愛い本が並んでいるゾーンは背表紙の色合いも全体的にピンクで可愛い。もちろん表紙も可愛い本が多いので、気が向いたときに部屋のディスプレイにもしている。一方小説が並んでいるゾーンは、見るからに毒っぽく禍々しいオーラを放っている。可愛さと毒が共存するのがわたしの本棚だ。そしてわたしの音楽であり、表現だ。
前回までは小説を中心に紹介してきたので、今回は今までと少し趣向を変えて可愛い本をご紹介する。わたしが普段詞を書いたり、CDジャケットやMVやZINEのイメージソースを探したりするインスピレーション源にもなる本たち。何となくぱらりとめくりながら眺めているだけでも楽しく、なおかつ創作意欲を掻き立てられる本たちだ。
『fairground –ガーリーバイブル in LONDON』
- 著者
- 小薮 奈央
- 出版日
- 2013-05-20
fairground−−−移動遊園地。
“ヴィンテージ”に魅せられたスタイリストである著者の小藪奈緒さん。彼女がロンドンに移住し、そこに住む12人のお洒落な女の子を取材した本。表紙から、写真から、ハイセンスでガーリーな雰囲気が漂ってくる。
この本に出ている女の子は、ただのヴィンテージ好きのロンドンの女の子ではない。みんなアーティストやクリエイター、またはその卵である。「どんなファッションが好き?」という問いへの答えも、それぞれキュートでユニークな解答ばかりだ。「ピンク色のものと、自転車に乗れる格好」「よくヘンテコなアクセサリーを合わせて、着こなしのスパイスになるようにトライしているわ」「その日の気分に合ったものを着るだけよ」「妖精や20年代のフラッパー、ラファエル前派、バレエ・リュス、地球や遠くにある宇宙などにとてもインスパイアされているわ」……。
東京は、流行の街。情報も早くて刺激的な街だが、この街に生きているとたまにいろんなことが型にはまってしまって窮屈に感じる時がある。それはファッションでも同じ。一方この本に出てくるロンドンガールのファッションの愉しみ方は、好奇心旺盛で自由奔放で、野心的だけど肩の力は抜けていて、素敵だ。いつもなら着ない色の服を選んだり、小さな古着屋を覗いたり、母のクローゼットから若い頃の服を探り出したり、幼い頃のようにおもちゃのアクセサリーを着けたり、そんなことがしてみたくなる一冊。
『Babe』
- 著者
- Petra Collins
- 出版日
- 2015-06-01
ペトラ・コリンズは1992年生まれ、25歳の若きフォトグラファー。時にはモデル・キュレーターとしても活動する新しいガーリーカルチャーの先導者、そしてSNS世代のフェミニズムの旗手である。
そんな彼女がエディターをつとめた写真集『Babe』。パステルカラーに彩られた写真から、性やコンプレックス、ネットの普及によるコミュニケーションの齟齬など、現代のリアルな女の子像が見て取れる。女の子という性の生々しさや業の深さが表れた、心の内側をえぐられるような写真だ。
少し本からは話が逸れてしまうが、ペトラ・コリンズはGUCCI 2016-2017AWコレクションの広告キャンペーンを飾るなど、GUCCIのアイコンガールにもなっている。そんな彼女がGUCCI 2017SSアイウェアのキャンペーンフィルムの監督をつとめている。GUCCIのエキセントリックな可愛さと、ペトラの白昼夢のような光と色使いが融合した、素晴らしい映像だ。アレッサンドロ・ミケーレがクリエイディブディレクターに就任してから新体制となったGUCCIの可愛さは異常。コレクションを見ては可愛い可愛いと涙ぐみ、デパートに赴き値札を見ては涙ぐんでいる。嗚呼。