真空ジェシカのガクさんが、今の自分になるまでを「その時読んでいた漫画」に重ねながら振り返る全6回の連載「ガクマンドク」。ついに最終回です!!! 芸人になって1~2年の頃、ルームシェアを始めた時に読んだ「最高の漫画」とは。高校時代の部活のこと、そして現在の自分に思いをめぐらせます。
僕は24歳くらいまで実家暮らしだった。
実家は家賃がタダだし毎日ご飯が出てくるしで住居の条件としては最高という他ないんだけど、芸人をやっていると少しずつ居づらくなってくる。
大学まで行かせてもらっといて、それまでの学びをチャラにしてわざわざ収入を得にくい道を選んでいるんだから親からの目線はずっと気になる。
あと家賃が有料の暮らし、ご飯を食べるのに労力がいる暮らしを経験しないと感覚がおかしくなっちゃうんじゃないかという不安もあった。
芸人になって1、2年経った頃、同じく大学卒業まで実家暮らしだった後輩2人と都内でルームシェアを始める事にした。
さすらいラビーの宇野と、ストレッチーズの貫太と。みんな実家に居づらくて、いきなり一人暮らしを始めるのは怖いというような理由で集まった。
ルームシェアを始めたきっかけは消極的だったが、住み心地が良くて最高の居場所になった。
駆け出しの芸人というのはめちゃくちゃ暇だ。週に1、2本のライブ以外はずっとアルバイト。
アルバイトを入れられる隙間があっても入れない日もある。働きたくなくて芸人になってるから。
時間も体力も有り余ってるけど「こんなに働いたら社会人じゃん!」と思って休む日がある。そうなると膨大な時間が生まれる。
その時間はみんなでテレビを見たり出かけたり、共通の趣味を見つけたりしながら過ごしていた。
僕はたまたまカラオケで流れていた告知映像をきっかけに乃木坂46にハマった。
リビングのテレビで僕が乃木坂46を見ていると、横から貫太が覗き込んでくるようになって一緒にライブに足を運ぶようになった。
ある時『あさひなぐ』という漫画の舞台を乃木坂46がやるという事で、あさひなぐの事は知らないけど乃木坂目当てでチケットを取った。
せっかく舞台を見に行くのだからと、漫画がレンタルできるツタヤに行ってあさひなぐを借りてきて2人で読む事にした。
見事にドハマりした。最高の漫画だった。
- 著者
- こざき 亜衣
- 出版日
この『あさひなぐ』はスポーツ漫画としては珍しいなぎなたを題材にした漫画だ。
運動音痴の主人公・旭が高校でなぎなた部に入って活躍していくというストーリー。
いわゆるスポ根漫画だけど、ただ熱いだけじゃない所が魅力だ。
まず登場人物みんな、性格にちょっと嫌な部分がある。それは人間誰しもにあるような感情で、どんな人にも良い部分と悪い部分があるというのがリアルに描かれている。
主人公の旭がなぎなたで活躍できるようになってきた頃、運動音痴な新入生を見てイラッとしてしまうシーン。
普通の漫画だったら、昔の自分と重なる人が出てきたとき「俺にもあんな頃があったなァ」とか「俺と同じ目をしている・・・」となりそうなもんだけどこの漫画はそうじゃない。
ただの綺麗事は少なくて、実際にその状況になったときに生まれるであろうリアルな感情を描いているところが凄く好きだ。
また、部活にかける情熱が人によって違う事も描いている。全員が全国優勝を掲げて頑張っているわけじゃない。
実力の違いによって熱量にも差が出てくる。友達と遊んだり恋もしたい、受験勉強も始めなきゃいけないとかを思う子も出てくる。
けど全ての人を否定しない。それぞれの考え方や悩みがあることをしっかり描いてくれる。
この競技には5対5の”団体戦”があるため、大将戦などのメインの試合に行くまでの主役級じゃないキャラクターの試合にもスポットライトが当たる。
ただなぎなたの実力が高いキャラクターだけじゃなく、ストーリー上地味なキャラクターも「相手は格上で勝てなさそうだからなんとか引き分けをとらなきゃ」など自分なりの戦い方をする。
そういう主役じゃないキャラクターが、自分が何をすべきかを探して葛藤する姿が心にくる。
何者でもない自分が何者かになれる場所を見つけて羽ばたいていくという所がこの漫画の一番の魅力なのかなと思う。
主人公の旭もそうだ。運動音痴だった所からなぎなたという自分の居場所を見つけて、自分だけのスタイルで戦って活躍していく様子がめちゃくちゃカッコいい。
僕も運動音痴だったけど高校でガッツリ運動部に入ったので境遇は似ている。
運動ができない事がコンプレックスで、人並みにはできるようになりたいと思ってハンドボール部に入った。
野球やサッカーを高校から始めるのは無茶な事だけど、ハンドボールはみんな高校から始めるだろうからやっていけるかな、という舐めた動機だった。
結果として、周りは中学まで野球やサッカーをやっていた人ばかりで全くついていけなかった。
コートの端から端までボールが届かないから、準備運動のキャッチボールすらできなかった。
途中で僕だけワンバウンドしていいよというルールになった。
2人1組ペアになって練習するという時も、大体みんな自分と同じくらいの実力の人と組むんだけど僕には同等のレベルの人がいなかった。
スポーツ経験のない顧問の先生とペアになって練習してた。
ちなみに顧問の先生はインドアで運動が苦手だけど、人の怪我を見るのが好きでハンドボール部の顧問になったらしい。怖すぎる。
また、クラスの体育の授業の体力測定でハンドボール投げがあって、僕の記録はダントツで最下位だった。
普段運動をしないパソコン部の子や帰宅部の子にも歯が立たなかった。
それでも僕は3年間部活を続けた。運動ができなすぎて部活をやめるのが恥ずかしかった。
あとなんか、ここまで運動できない奴がずっといるという事をむしろみんな面白がってくれてるんじゃないかという気持ちもあった。
引退する時、部長がチームメイト一人一人に「お前はエースとして活躍してくれてありがとう」とか「司令塔としてチームを支えてくれてありがとう」など一言ずつ言っていく時間があった。
僕に対しては「不思議と最後までやめなかったね!すごいガッツだよ!」と言ってくれた。
ガッツがあると褒められた事は嬉しかった。ただ、僕が部活を続けていたことはずっと不思議だと思われてた。みんな不思議だったんだ。
3年間やっても自分の居場所が見つからないということもある。
ハンドボール部のメンバーとは今でも仲は良く、いい友達はたくさん作れたからこれはこれで良かったんだけど。
今は芸人をやっていて、特に自分の居場所を見つける事が大切な仕事だ。
まだ色々と悩む事は多いけど自分の戦い方を見つけてなんとかしがみついていきたい。
「なんでいるかわかんないけど不思議とずっといるよね」という存在になるのも面白そうだ。
半年間、お楽しみいただきありがとうございました!回数限定だからこその濃密なコラム、まだ読んでいない回がある方は絶対に読んだほうがいいです。ご感想も「#岳漫読」「#ガクマンドク」でお待ちしています!(編)
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