稲盛和夫に関するおすすめの本5冊。経営学から人生哲学を学ぶ

更新:2021.12.20

京セラの設立者、稲盛和夫。経営フィロソフィーやアメーバ経営など数々の実績と名言を残した経営史に残る名経営者。彼から学べるのは経営技術や知識に留まらず、人生における人間倫理や哲学も多々あります。今回は、彼の本質に迫る名著を5冊紹介します。

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儲けよりも人としての理を説いた稲盛和夫

名経営者として名高い稲盛和夫。1959年現在の京セラにあたる京都セラミックを設立。その後名誉会長として経営指揮からは遠のきますが、その後1984年の電気通信事業自由化に伴い、DDI(第二電電企画)を立ち上げます。ここで、現在のKDDIの礎を築きました。

哲学や思想、そして人間同士の調和を第一義に掲げる経営。

経済的な儲けを重視するその他大勢の経営者とは考えを異にする存在として知られる稲盛和夫。その経営手法で、京セラやKDDIが大成功を収めた事から、彼の取った方法が決して間違いでは無かったという根拠にもなっているのです。

稲盛和夫が長く実践してきた経営哲学は、単にビジネスの現場だけで活かされるわけではありません。それは、私たちが営む生活全般にまで及び、「人とはどうあるべきか」という教訓をも示唆してくれるべきものです。

ここでは特に、読んで人間性を高める一助になるであろう、稲盛節をたんと味わえる名著5冊を紹介したいと思います。

稲盛和夫流フィロソフィー 経営哲学の情熱と軌跡を追う

「フィロソフィー」。

従来、哲学や信念と訳されるこの言葉ほど稲盛和夫を形容する言葉は無いでしょう。それだけ彼にとってフィロソフィーとは、体中を流れる血液の様な必要不可欠な存在です。

『変革の人 稲盛和夫』の作中では、冒頭から、彼がどの様にフィロソフィーを形成するに至ったかを説明しています。そして、稲盛和夫流経営の根幹にある哲学や信念は、今も京セラの中で生き続けているのです。

しかし、現実の経営はいかに高尚な理想や理念を持っていたとしても、経営者と従業員の間に信頼の溝が発生すると会社運営に問題が生じます。
 

著者
上竹 瑞夫
出版日

「稲盛の経営スタンスに、「利己」と「利他」の心がある。(中略)稲盛が成功したのも、利他と調和の精神が心の根底に流れていたからといえる。」
(『変革の人 稲盛和夫』より引用)

これを見るに、稲盛和夫は経営を行う上で、理念と実行のバランス感覚が非常に優れていたと言えるでしょう。経営者による理念の提示と、それを実行する従業員との関係。それは「利己」、すなわち自分自身のエゴ、そして「利他」、つまり他人を思いやる心。これら2つの心を持ってして、稲盛和夫自身の想いと従業員達の想いを上手く均衡させていたと考えられます。

この『変革の人 稲盛和夫』は、経営者稲盛和夫という男を知るのに、まず最初に読んで欲しい本と言えます。なぜなら、本人が書いた自叙伝では無く、あくまで客観的な立場で稲盛和夫という男に触れ、そして感じた事を言葉で表現しているためです。そのためこの本からは、一人の社会人としての振る舞いや成功哲学を学ぶ事が出来る、自己啓発とも言える書籍でしょう。

稲盛和夫が京セラを起こした1959年から、彼がどのように自社を経営していったのか。綿密と連なるストーリーが小説風に流れる、それがこの書籍の良さです。こういう物語は主観ではなく客観性を伴わないと表現出来ません。

セラミックや携帯電話というイメージの強い京セラですが、宝石や医学の分野に進むなど、かなりの紆余曲折があった事が分かります。それらのチャレンジの中で、稲盛流経営フィロソフィーがどの様に機能し、成功を収めたのか。『変革の人 稲盛和夫』では、それを実践的に学ぶ事が出来る、読んで面白い、学んで活かせる、一挙両得の一冊となっています。

三度読んで三度活かせる経営の礎

稲盛和夫が塾長を務める盛和塾というものがあります。生の経営知識や技術を学べる実践塾として有名ですね。

『稲盛和夫の実践経営塾』では、実際の盛和塾で交わされる問答集を文章形式で届けてくれる便利な書籍となっています。これから起業したいと考えている志高い人にこそ読んで欲しい一冊と言えるでしょう。

内容は6章から成り、社長業全般から始まり、業容拡大、人心掌握、事業継承、新規事業進出、経営よもやま話の順に進んでいきます。どの章も経営者の質問から入り、それに稲盛和夫自身が答えるという形式によって成り立ちます。
 

著者
稲盛 和夫
出版日

人生で3度読みたい本です。

まず、最初に読む時期は、自分の会社を起こしたいと一念発起した時です。この頃は実際の経営の事は全くの素人で、何もかもが分からない状態。しかし、何かを成し遂げたいという情熱は一番強い。

『稲盛和夫の実践経営塾』はタイトル通り実践的な知識や技術を扱うため、最初に読む時はざっくり概要だけ読み進めれば良いと思います。なぜなら、まだ経営の実感が掴めていない状態だからです。しかし斜め読みだけでも、この問答集を読んでいるだけで、経営がいかに難しいか、そしてやりがいがあるかを知る良いきっかけになるでしょう。

そして2度目に読む時期。これは実際に会社を起こし、少しの間実践感覚を掴んだ状態の時に読むべきでしょう。手探りの状態で会社を動かし、ヒト・モノ・カネの活かし方を少しずつ実感できた時にこの書は次なる一歩のためのヒントを与えてくれるのです。

読むべき3度目の時期は、自らの会社が安定期に差し掛かって来た時ではないでしょうか。安定期に入ると発生しやすい事態がマンネリ化。そしてそのマンネリや慢性は経営者本人でしか解消できません。安定期に奢ることなく、更に前進し発展するヒントをこの時期に学ぶ事が出来ます。

『稲盛和夫の実践経営塾』では、盛和塾で議論する数ある問答集の中から、比較的多くの経営者が直面する事柄を中心に集めた書と言えます。それだけに、自らが経営を担う時に役立つ情報もたくさんあるのです。この書を読んだ人は、実際に稲盛と机を挟んでサシで問答をしているような感覚に陥るのではないでしょうか。実直に、そして人間味に溢れた経営を行い、そして成功を収めた稲盛和夫自身の言葉で、力強く背中を押してくれるでしょう。

最も過酷な挑戦 稲盛和夫はどのように動いたのか

『独占に挑む』、この物語は稲盛和夫の視点に立って、渋沢和樹がビジネス小説風に書き下ろした一冊です。舞台は、稲盛が挑んだ新規の電話通信部。当時は電電公社という計り知れない程のマンモス企業が通信社会を一社独占をしていた時代です。そこに、蟻とも形容できる極小企業が巨大なマンモスに交戦を仕掛けます。フィクションとしても大変面白いストーリー構成ですが、何より興味深いのがこの物語が実話だという事でしょう。
 

著者
渋沢 和樹
出版日
2012-09-04

稲盛側の抱える社員は19人、対してマンモス企業は32万。

「なぜ僕は敢えてそんな大きなリスクを取り、電話の事業に乗り出さなければならないと考えているのか。一言で言えば、日本の電話を安くしたいと思っているんです」
(『独占に挑む』より引用)

この著書では、稲盛が普段からフィロソフィーとして実践する彼の想いが随所に登場します。そして「想いは叶う」という彼の信念と共に、稲盛の思想は社内を動かし、果ては大きな社会を変革していく。

『独占に挑む』は、稲盛和夫を題した他の書籍よりもかなり深部に食い込んだ内容となっています。しかも本人ではなく、第三者の視点で書いた物語。だからこそ、読む者と稲盛和夫という男との間に遠い存在を感じさせません。そこには稲盛自身が経験した苦悩とストレス、そして最後に訪れる喜びと新たな野望に満ち満ちているのです。

彼の自叙伝や経営実学書を読むのもまたためになるのですが、彼の残した軌跡を、彼が直に感じた想いや言葉と共に読み進めていくのも一興かと思います。

人間としての倫理観を育む大人の道徳の書

経営者としての立場から社会構造の弊害や腐敗に鋭く切り込んだ、稲盛和夫の強い想いが込められた一冊。

「戦後、われわれは自由と民主主義を獲得する事ができた。自由で平等な社会はたしかに素晴らしいものであった。しかし反面、自由は放縦に、平等は傲慢に結びつくこともある。」
(『日本への直言』より引用)

「どのような社会であろうと、人間は自らの行動や思考をコントロールし規制するための規範を、わが内に持っていなければならない。」
(『日本への直言』より引用)
 

著者
稲盛 和夫
出版日

稲盛和夫は情熱的で実直でありながら、その言動の節々に宗教的概念が見受けられる、というのは有名な批評ではないでしょうか。今作でも、その宗教的概念はありありと表現されています。しかし、そこには日々イメージされる悪い概念の宗教観とは別次元の、高尚な人間像を体現しています。それは、清々しいとも形容できる宗教理念でしょう。

彼の半生で培われた清らかな宗教観は、稲盛流経営術でも垣間見られます。彼の成功はこの徹底した宗教観にこそあるのではないでしょうか。

その事は必ずしも経営だけに当てはまる事では無く、人生全般に活用されて初めて意味のあるものだと私は思います。この書では、経営の何たるかではなく、人間としていかにあるべきかをとうとうと語って聞かせてくれるのです。

稲盛和夫の宗教間の根本に流れるのは

「人間は(中略)好き嫌いまたは損得によって物事を決めていく、(中略)利己的に動くのである。この場合には、他者を大事にするとか、他者を愛するという、利他的な行動は生まれにくい。」
(『日本への直言』より引用)

という思想です。そして、利他を念頭に置かない、利己的な人間が集まって構成される社会構造に警鐘を鳴らしています。この社会構造のまま時代が進めば、間違いなく日本は駄目になるであろうと。

何かを成し遂げたい、行いたいと思い立った時には強い倫理観が生まれます。しかし残念ながら、その倫理観は日々醸成され、豊かに育っていくものではなく、慢性と堕落に溺れ、後々は「自分さえ良ければ」という怠惰な精神に侵されていくのです。これを維持し、更に発展させていくには相当強固な精神力と忍耐が必要とされます。そして、稲盛和夫は自分自身に言い聞かせるように、読む者にもそれを教えてくれようとしているのではないでしょうか。

この書の面白い部分は、単純に稲盛の思想をつらつらと語るだけにあらず、野村証券や住専などの現実の不正問題に焦点を当てながら本質に迫ろうとしている点にあるでしょう。つまり、人の生き方に経済という視点を加え、現実的な観点から物事の良し悪しを測っていこうとします。『日本への直言』は、成功を収めた男の思想に触れることが出来るだけでなく、現実的な経済の知識も得ることが可能なのです。

経営と社会、両者二つの哲学を極めた2人の問答集

経営者としての稲盛和夫と、哲学者の梅原猛が、それぞれの思想を近代文明というテーマで語り尽くす本です。文書の構成は、稲盛が発し梅原が答え、反対に梅原が発しそれに稲盛が答えるという問答形式で進んでいきます。

ここに一経営者としての稲盛和夫の顔はありません。あるのは地球に存在する一人の人間、稲盛和夫のみです。

著者
["稲盛 和夫", "梅原 猛"]
出版日
2011-12-03

物語の順路は、アフリカやヨーロッパの古代文明から始まり、アメリカの発展、そしてアジアの台頭、果ては神や宗教の精神論へと流れていきます。

「アメリカ人は(中略)汗水たらし苦労して製品をつくりあげ、経済発展をはかるのはバカバカしい、と中国や東南アジア、旧東欧諸国などの勤勉な国の人たちにモノづくりを任せ、自分たちは設計や販売だけ担当しようとしている。(中略)カネを動かしてカネを儲けるのがいちばん」
(『近代文明はなぜ限界なのか』より引用)

上記の文章は、中盤の稲盛和夫の言葉より抜粋しましたが、この人の正義感が強く表れている一文ではないでしょうか。稲盛の経営哲学には儲けよりも人間として正しい事、つまり限りなくユーザーの視点に立ったビジネス観が根底にあります。それは彼の商売道であるばかりでなく、人生観にも繋がります。彼にとって、倫理よりもお金儲けに必死になる人たちは決して許せる存在では無いのでしょう。

そして、道徳を忘れ自分の欲に堕落した人々の結末は決して幸福では無い、という考えを併せ持ちます。

文明というと物凄くスケールの大きい話にも感じますが、結局の所、彼の目指すものは「人の幸せ」にこそあります。当然そこには自分の幸せも含まれているのでしょう。しかし、自分の他に他者をも幸せにする、つまり利他の精神を持って、そして人々が互いに幸せになる事、それこそ稲盛和夫の考える「人の幸せ」なのです。

経営の哲学を極めた男と、人生の哲学を極めた男が対峙する人類文明論。極みに達した男同士の熱い論説は、人の考え方や価値観を一変させる大きな力を有しているのだと思います。

稲盛和夫は単純に経営哲学だけに精通している人物ではありません。もはや社会生活全般を司る哲学者と言っても過言ではないでしょう。彼が自ら書き下ろした書籍と、別の人が彼について述べた書籍と2種類ありますが、個人的に両方読む事をおすすめします。前者からは彼の持つ人生観や倫理観、そして後者からは彼が成功した実践と実学を学び得る事が出来るのです。また、西郷隆盛を敬愛してやまない稲盛和夫は、どの書籍でも明治から現代に到る日本史を取り上げてくれます。そこからは、過去に生きた男の義の精神や熱い魂も学ぶ事が可能です。人生で一度は大事を成したいと考えている方に、ぜひご一読をおすすめします。

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