女子高生の「性」などを売りにする「JKビジネス」。今回はその定義、実態、なぜなくならないのか、対策について参考になる本とともにまとめました。
女子高生(Joshi Kosei=JK)の性などを売りにする「JKビジネス」。2012年頃から秋葉原を中心に目立ち始めました。性的サービスを「裏オプション」として用意している場合もあり、児童買春の温床になっているとされます。
2017年4月には東京・渋谷で、JKビジネスやアダルトビデオへの出演強要による性被害根絶を訴えるパレード・街頭キャンペーンが行われました。このイベントは、深刻化する性被害を受けて政府が指定した「被害防止月間」の取り組みの一つで、アダルトビデオへの出演強要の被害を受けた女性や男女共同参画担当大臣、渋谷区長も参加しました。
まずJKビジネスの「業態」という意味での実態は、一つに絞れるものではありません。
よく名前が挙がるものでは、女子高生が制服姿で散歩する「JKお散歩」、個室で簡易マッサージ(リフレクソロジー)などを行う「JKリフレ」、制服姿や水着姿の女子高校生を撮影する「JK撮影会」などがあります。しかし、個室で密着可能となる「JK占い」など、法の目をかいくぐるようにして新たな業態が生まれ続けているのです。
またJKビジネスに携わる少女たちは、家庭の経済状況が困窮していたり、何らかの事情で家庭や学校に居場所がなかったり、発達障害や心身の障害を抱えていたりする場合もあるといいます(参考:内閣府男女共同参画局)。
ここでJK産業で働く少女たちについて、1冊の本とともにより詳しく見ていきましょう。
- 著者
- 仁藤 夢乃
- 出版日
- 2014-08-07
孤立し、困窮した状態にいる10代の少女たちへの支援などを行う一般社団法人Colaboの代表である仁藤は、『女子高生の裏社会: 「関係性の貧困」に生きる少女たち』で、JK産業に携わる少女たちを以下の3つの層に分けます。
①「貧困層」
……経済的な貧困状態にある層のこと
②「不安定層」
……経済的には困窮していないが、「家庭や学校での関係性や健康・精神状態に不安や特別な事情を抱えている層」のこと
③「生活安定層」
……経済的・関係性的に困窮しておらず、特別な事情も持っていない層のこと
まず仁藤は、①の貧困層の子どもたちについては、どの時代においても、性などを売りにする現場に組み入れられやすかったと指摘。しかし②の不安定層とともに、少なくとも2004年頃から10年間、社会から見放されてきたといいます。
そのようななかで、③の生活安定層の子どもたちも、売春や犯罪に近づくようになりました。また彼女たちは、貧困層や不安定層にいる少女たちよりも、店側のルールに従順な傾向にあったり、JKビジネスの実態や危うさなどに気づいていなかったりするために、店側にとっては扱いやすい存在となってしまうのです。
また仁藤は、JKビジネスを行う少女が急激に増加した背景として「関係性の貧困」を挙げ、以下のように続けます。
「この本で取り上げた少女たちは、見守り、ときに背中を押し、ときに叱ってくれる大人とのつながりを持っていない。『JK産業』で働くか迷ったとき、仕事で危険を感じたときに相談したり、アドバイスをもらえたりする大人がいなかったのだ」(本書より引用)
搾取的で危険を伴うような労働から少女たちを救うためには、社会全体で居場所や関係性を提供していくことが重要性になってくるといえるでしょう。
このように本書では、JKビジネスへの理解を深めることができます。JKビジネス・産業に関わる少女たちの「声」を通して知る彼女たちの実態、JK産業のリアル、それらを踏まえて提示される今後の解決策など、読み応え抜群の1冊です。
読み進めていくほどに、新たな視点を得られる1冊ですので、ぜひ一度手に取ってみてください。
- 著者
- ["中嶋 哲彦", "平湯 真人", "松本 伊智朗", "湯澤 直美", "山野 良一"]
- 出版日
- 2016-12-02
JK産業に携わる少女たちのなかには、経済的な貧困状態に陥っている子どもたちもいました。そもそも子どもの貧困について、その実態や対策はどのようなものなのでしょうか。『子どもの貧困ハンドブック』を参考に整理してみます。
まず、17歳以下の子どもの貧困率の実態について、2012年時点では約6人に1人、全国では320万人以上の子どもが貧困状態に直面しているとされます。なおここでいう子どもの貧困率とは、すべての子ども数に対して、貧困線(たとえば2人世帯では約172万円、3人世帯では約211万円)未満の世帯で暮らす子どもの割合を指します。
これに対して2013 年、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が制定されました。この法律は「教育支援」「生活支援」「就労支援」「経済的支援」という4本柱から構成される子どもの貧困対策の実施を義務づける法律です(2017年5月時点)。
本書では、同法を「子どもの貧困対策を法律で義務づけた」という点からは「意義深い」とします。その一方で、①「子どもの貧困」の定義が明確になっていない点、②貧困対策の基本が「子どもの自助努力を促すことにあって、貧困そのものを減らしたり、貧困を生み出す社会的メカニズム自体を除去したりすることが目的ではない」点が課題として挙げられています(本書より引用)。
というのは、家庭環境や社会的経験の全体としての改善がなければ、「子どもが自分や親への肯定的感情や将来への希望をもつことは難し」くなることが予想されるからです。子どもの将来は、家庭全体が貧困から抜け出せたときに開けるのです。
このように、子どもの貧困について実態から対策まで学べる本書は、JKビジネス問題から改めて子どもの貧困問題について気になった人にぴったりでしょう。教科書的な要素が強い印象で、子どもの貧困率の定義などについても丁寧に学べます。ですので基礎から知りたい、改めて基礎を確認したい人には特におすすめしたい1冊となっています。
以下の項目では、なぜJKビジネスは根絶されないのか、ということに迫っていきます。
JKビジネスがなくならない背景には、どのようなことが考えられるのでしょうか。前述の一般社団法人Colaboの代表である仁藤の会見(2015)を参考にして、「公的な問題」と「日本社会の問題」という観点から、それぞれ3点整理してみます。
まず「公的な問題」という立場では、以下のような指摘がなされています。
①深刻な家庭状況や経済状況に直面している少女たちへの公的な支援が貧しい
※仁藤は、困窮状態にある少女たちに対する警察や児童相談所の対応やその限界を問題視しています。さらに児童相談所では、予算や人材、研修制度、職員の専門性などが不十分だという指摘も行っています。
②街頭やネット上などで行われる巧みな勧誘の危険性について、教育されていない
③法規制に抜け穴がある
続いてJKビジネスがなくならない背景として、「日本社会の問題」という視点から、以下の3点をまとめました。
①少女たちが売春する際の切迫した背景への理解が進んでおらず、自己責任や貞操観の問題として捉えられがち
②子どもの人権を守る意識が低く、少女を性の対象とするカルチャーもある
③JKビジネスが、人身売買や児童買春の温床になるという理解が進んでいない
このように、JKビジネスがなくならない背景はさまざまです。一人ひとりがJKビジネスの実態について、正しい理解を進めていくことが求められているでしょう。
ここから先は、JKビジネスへの対策について述べていきます。
JKビジネスへの対策(2017年4月時点)としては、どのようなものがあるのでしょうか。3点整理しました。
①神奈川県や愛知県は、青少年保護育成条例を改正
※神奈川県では店舗型の個室接客の規制(2011年)、愛知県では全国で初めてJKビジネスを全面的に規制(2015年)しました。
②東京都は2017年、全国で初めてJKビジネス規制に絞り込んだ条例を可決
※弁護士ドットコムニュース(2017年4月9日)によれば、同条例は神奈川県・愛知県の規制よりも対象範囲は広範で、営業を行う際には「届け出制」を導入しています。
③国や民間団体で、啓発活動や支援活動などを実施
※国は2017年3月31日、JKビジネスやアダルトビデオへの出演強要で深刻化する性被害を受けて、対策会議を開き、緊急対策をまとめました。また先述した、孤立状態にある10代の少女たちへの支援などを行う一般社団法人Colaboでも、講演などを通した啓発活動やJKビジネスなどを経験した少女たちの「背景」に目を向けさせる展覧会などを主催しています。
このように、地方自治体や国、そして民間の団体によって、JKビジネス根絶に向けての対策が進められているのです。JKビジネスによって搾取されたり性被害にあう少女たちがいなくなるよう、今後より一層の対策が求められているといえるでしょう。
JKビジネスとは、女子高生の性などを売りにする商売のことです。
残念なことに、法の目をかいくぐるようにして新たな業態が生まれ続けているという現状があります。その背景には、少女たちへの支援が行き渡っていなかったり、JKビジネスへの巧みな勧誘に対する認識が広まっていなかったり、JKビジネスの実態や本質について社会全体の理解が進んでいなかったりすることが挙げられました。
このようなJKビジネスへの対策として、2017年には、東京都が全国で初めてJKビジネス規制に絞り込んだ条例を可決しました。また今回ご紹介した本『女子高生の裏社会: 「関係性の貧困」に生きる少女たち』の著者である仁藤が代表を務める団体による支援も進められています。
目をそらさずにJKビジネスのリアルと向き合うことが必要だと改めて痛感しました。