DV(ドメスティック・バイオレンス)では、身体的な暴力だけではなく、人格を否定するような暴言を言ったり、メールや電話などを細かくチェックしたりするといった精神的な暴力も含まれます。今回は定義や対策、原因を参考本とともにまとめました。
内閣府男女共同参画局によれば、DVとは、配偶者や恋人などの関係にある、あるいは、そのような関係にあった人へ振るわれる暴力のこと。
男女のカップルにおいては、多くの被害者は女性といわれていますが、男性が被害にあう場合もあります。
なおここでいう「暴力」とは、殴る蹴る、物を投げつけるといった身体的な暴力はもちろんのこと、「精神的(心理的)暴力」「経済的暴力」「性的暴力」、さらに、「子どもを利用した暴力」も含まれます。
したがって、以下のような例もドメスティック・バイオレンスにあたります。
まず精神的暴力としては、
・大声でどなる
・「バカ」「能なし」など人格を否定するような暴言を言う
・何を言っても無視し続ける
・交友関係やメールなどを細かくチェックする
といった事例があります。
次に経済的暴力としては、
・生活費を渡さない、あるいは性行為などを引き換えにしないと生活費を渡さない
・借金を負わせる
・働くことを強要する
・働くことを妨害する
といった事例があります。
第三に性的暴力としては、
・性的行為を強要する
・ポルノ映像などを見ることを強要する
・避妊を拒否する
・中絶を強いる
といった事例があります。
最後に子どもを利用した暴力としては、
・子どもの前で暴力を振るう(=「面前DV」と呼ばれます)
・子どもに暴力を振るう
・子どもを危ない目にあわせるなどと脅したり、ほのめかしたりする
・子どもに被害者を非難させたり、中傷させたりする
といった事例があります。
ドメスティック・バイオレンスというと、身体的な暴力を思い浮かべがちかもしれません。しかし心理的(精神的)、経済的、性的な暴力、さらには子どもを利用した暴力に苦しめられている人も多いのです。
また2015年3月に公表された調査報告書では、結婚したことのある女性のうち9.7%が、配偶者から身体的な暴力や精神的・経済的・性的な暴力を何度も受けたと答えました。つまり10人に1人が、繰り返される暴力に苦しんだ経験があるということになります。
ところでデート・面前DVをご存知でしょうか。以下の項目で整理してみます。
デートDVとは、結婚前の交際相手から受ける暴力のこと。殴ったり蹴ったりといった身体的な暴力だけではなく、精神的な暴力や性的暴力なども含まれます。
たとえば人前でバカにする、メールなどをチェックして監視する、性的行為を強要するといった事例があります。つまり相手の気持ちを尊重せずに、自分の思った通りに支配・束縛しようとする言動や態度のことを指すのです(政府広報オンラインより)。
子どもを利用した暴力の事例の一つとして挙げた「子どもの前で暴力を振るう」行為は、面前DVと呼ばれます。2004年に児童虐待防止法が改正され、心理的虐待に当たると定められました。
面前DVは、身体的・性的な虐待と同様、子どもたちに大きな傷を残します。たとえばケータイ家庭の医学(2017)では、
①対等な人間関係を築けない可能性がある
②PTSD(外傷後ストレス障害)の症状が現れる可能性がある
③DVの連鎖を生む可能性がある
④暴力がある不安定な家庭で育てば、「年齢相応の身体の成長や運動能力、言語能力などが阻害される」可能性がある
といったことが指摘されます。
以下の項目からは、多くのケースで繰り返されるという「DV(暴力)のサイクル」について、参考になる本とともに見ていきます。
- 著者
- 山口 のり子
- 出版日
『愛を言い訳にする人たち: DV加害男性700人の告白』では、そのサイクルを以下のように説明します。
①緊張期
……加害者は苛立ち、被害者は加害者の機嫌をうかがい、おびえながら生活するという、双方の緊張感が高まる時期。
②爆発期
……緊張がピークに達する時期。あらゆる暴力がその姿を見せ、周囲からも認識されやすくなります。
③ハネムーン期(蜜月期)
……暴力が現れていない時期。加害者が反省したり、謝罪したり、優しさを見せたりします。
ドメスティック・バイオレンスいうと、加害者が暴力を絶え間なく振るっていると考える方も少なくないかもしれません。しかし実際には、暴力を振るわない時期(=ハネムーン期)もあるために、被害者は混乱状態に陥るのだそうです。
とはいえ、①の緊張期と②の爆発期を往復するだけのケースやDVが深刻化し「ハネムーン期」がなくなるケース、暴力のサイクルが短くなる場合もあるといいます。
本書には、ドメスティック・バイオレンスに関する基本的な知識がたっぷり詰まっています。定義から対策、課題までわかりやすく解説されていますので、DVについて知りたいすべての方に(現在どのような立場にあっても……!)おすすめしたい1冊です。
日本で取られている対策として、今回は2点整理します。
①DV防止法の施行(2001年〜)
……加害者が被害者に半年近づくことを禁止する「接近禁止命令」などの保護命令がありますが、加害の抜本的な解決が必要だという声も聞かれます。
②民間団体で行われている、加害者が更生するためのプログラム
……日本では、加害者プログラムが法制化はされていません(2017年時点)。
また後で紹介する『DV・虐待 加害者の実体を知る』では、「DV加害者のほとんどは、たとえ質の高いプログラムを受けても、長続きする真の変化を簡単にみせること」(引用)はないと述べられています。
しかし、ドメスティック・バイオレンスをやめる加害者がわずかであっても存在するのであれば、その価値を見出すことができるのです。さらに加害者プログラムは、「加害者のごまかしを女性がはっきり見抜き、洞察できるよう手助けすること」(引用)にも大きな役割を果たしているともされます。
それでは、②の加害者プログラムについて、国内外ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。1冊の本とともに迫っていきます。
- 著者
- 信田 さよ子
- 出版日
- 2015-02-09
『加害者は変われるのか?: DVと虐待をみつめながら』では、諸外国の加害者への取り組みは、1970年代にスタートしたと述べられています。たとえば、女性運動が高まりを見せていたアメリカでは、1977年に連邦政府に対して「家庭内において暴力を受ける女性の救済対策強化への勧告決議案」が提出されました。
さらに1980年代には、アメリカの司法制度が州ごとに変わり、家庭内の虐待や暴力でも、警察が加害者を逮捕できるようになります。また裁判官によって更生の見込みがあると判断されれば、刑罰に代わって、更生プログラムの受講命令が下されるのです。
一方の日本では、2003年に「配偶者からの暴力の加害者更生に関する調査研究」が内閣府によって実施されました。しかし公的な加害者更生プログラムについては、実施に至っていないという現状があります(文庫版出版年の2015年時点)。
文庫版の解説によれば、著者の信田は、DVへの取り組みは、被害者を救済することはもちろんのこと、加害者に暴力行為をやめさせることも目指されるべきだということに長年注目してきたといいます。しかしドメスティック・バイオレンスなどの被害者に関わることが多かった著者が、被害者の存在をないがしろにすることはありません。
加害者プログラムについて知りたい方だけではなく、それに対していくらか抵抗感がある方にも、ぜひ手に取ってもらいたい1冊です。
加害者プログラムの講師でもある栗原は、ウートピの取材で、その原因を4点挙げます。
①社会のなかで、自分のほうが相手よりも偉いという価値観を学ぶため
②暴力を容認するメディアがあふれているため
③「女らしさ・男らしさ」に対する価値観が歪んでいるため
④幼少期に虐待を受けるなどトラウマを抱えているため
以上のようにして見てみると、背景には社会にある価値観やメディアのあり方、幼少期の体験などさまざまです。
とはいえ、④のトラウマ体験については慎重に考えていく必要があります。『DV・虐待 加害者の実体を知る: あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』で、詳しく見ていきましょう。
- 著者
- ランディ バンクロフト
- 出版日
- 2008-11-27
『DV・虐待 加害者の実体を知る: あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』の第2章では、「DV加害者たちに児童虐待を経験してきている傾向があるかどうかについては、複数の研究調査がありますが、関係性は薄いという結果が出ています」と述べられています(本書より引用)。
しかし、男性に対して暴力行為に及ぶ男性や女性に対して「かなり残忍な身体的暴力」に及ぶなどの男性は、児童虐待の被害者であることが多いといいます。とはいえ、女性に対してドメスティック・バイオレンスを行う男性と児童虐待の被害者との関係性ははっきりしていないのです。
著者はまた、幼少期の出来事を理由にして加害者になる男性について、以下のように主張します。
「私は、DV加害者である男性が子どものころに経験したつらい思い出に共感してはいけないと言っているのではありません。(略)しかし、虐待しない男性は、過去の出来事を理由に相手を傷つけたりしません。相手の男性をかわいそうに思うことで罠にかかってしまい、相手の虐待行動に立ち向かうことに罪悪感をもってしまう危険性があるのです」(本書より引用)
このように第2章では、「DV神話」に対するさまざまな疑問に対して答えを得ることができます。
また第3章では「DV加害者の考え方」に迫っていくのですが、そこで述べられている「DV加害者は言い訳の天才です」という言葉が印象的でした。
本書によれば、言い訳の材料になることとは、「相手のせいにしないときは、ストレスやお酒や子ども時代、あるいは自分の子どもや上司や不安感」。さらに加害者たちは、「言い訳をする特権が自分にはあると感じている」ともいいます。
このように本書では、ドメスティック・バイオレンスについて抱いていたぼんやりとした考えが、プラスの意味で一気に吹き飛ぶような感覚を得られます。
また初めに紹介した『愛を言い訳にする人たち』のなかでは、著者の山口が開設した加害者向け教育プログラムを行う「アウェア」へ取材を希望するメディア関係者におすすめする1冊として、本書が紹介されています。
それほどドメスティック・バイオレンスに対しては「神話」的なものが「事実」として、世間一般に受け入れられてしまっているのではないでしょうか。正しい理解を深める際に、ぜひ手に取りたい1冊です。
ところで、なぜドメスティック・バイオレンスから抜け出せないのか、と思う方も少なくないかもしれません。被害者の支援などを行うNPO法人レジリエンスの代表は、ウートピの取材で抜け出せなくなる理由を3点挙げます。
①「逃げる」という選択すらできない場合があるから
……加害者から逃げることは、加害者に反抗することであり、危険度が高いように感じられる場合もあります。
②暴力を振るう反面、時として優しさを見せる加害者もおり、加害者から逃げても「安心感」を与えてくれる相手として期待してしまい、加害者のもとへ戻ってしまう場合があるから
③そもそも被害者が声を上げづらい現状があるから
……社会全体で被害者を責める言動があったり、ドメスティック・バイオレンスについての理解が進んでいなかったりすれば、被害者は声を上げづらくなってしまうはずです。
このようにして見てみると、「自分だったら逃げるのに……」という「当たり前」と思われるようなことが、被害者にとっては「当たり前」ではない可能性があることを理解していく必要があるように思われます。
DVとは、配偶者など親密な人への身体的・精神的などのあらゆる暴力を指します。
対策としては、2001年に施行されたDV防止法や加害者プログラムなどがありました。
また原因としては、社会にある価値観やメディアのあり方などさまざまでした。なお今回ご紹介した『DV・虐待 加害者の実体を知る』でも述べられていたように、女性に対して「暴力」を行う男性と児童虐待の被害者との関係性ははっきりしていないといいます。
今回の記事がドメスティック・バイオレンスについて知るきっかけになってくれたなら幸いです。